熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
23 / 196
奇な糸

#1

しおりを挟む



勇気を出して、少し突っ込んだことを言った。
少しでも迷惑そうな素振りをされたら撤回しようと思ったけど、彼は意外そうに目を見開き、浴槽の縁に頬杖をついた。
「君から興味を持ってくれるなんて嬉しいな。……もちろん、気になることは何でも答えるよ」
「やった。ありがとうございます」
彼の笑顔につられ、一緒に微笑む。
彼のプロフィールは大まかなものしか知らない。ひとりっ子で、高校からはほとんど市街地で過ごし、大学に入る前に完全に村を出た。

白希の八つ上。兄と同い年だから、今は二十八だ。正直、八つしか違わないなんて信じられない。何をどうしたらここまで成熟できるのか。

きっと、生まれ持ったものが違うんだろう。環境はもちろん、本人の性格や素質も大きく影響する。

自分は酷い出来損ないだった。要領が悪くて、何をやっても叱られた。
いっそもう余計なことはしないで、大人しくしていよう。そうすれば誰も怒らない。迷惑もかけない。

何も喋らず、じっと。

でもそれって……生きてる意味があるんだろうか。




「白希、じっとしててね」
「はわっ!!」
男二人の昔話も終わり……。脱衣室で身体を拭いてる最中、頭に熱風が当たった白希は飛び上がった。
宗一がドライヤーをつけて白希の頭に向けたのだが、突然のことに驚き、力が働いたらしい。宗一は一度はドライヤーから手を離した、重さを調節して床に落下する前に掴んだ。
「ごめん! 向けるの早すぎたか……大丈夫?」
「だっだだだ大丈夫です。こちらこそすみません! 手、大丈夫ですか!?」
「はは、平気だよ。急に冷たくなって、驚いただけ」
宗一は笑って手を振る。
また危うく物を壊しそうになった。頭を深く下げ、ゆっくり起こす。その際、宗一が手にしているものが目に入り、白希はまばたきした。
「それ、何て言うんでしたっけ」
「うん? ドライヤーのこと?」
「あぁ、そうでした。あまり見たことないから、熱い風に驚いちゃって」
恥ずかしそうに笑う白希に、宗一は怪訝な表情を浮かべる。

「見たことない、って……実家にはドライヤーがなかったの?」
「ええと……はい。恐らく」
「恐らく?」
「俺もよく分からないんです。ただ、家にはお風呂が二つあって……家族が普段使うお風呂と、俺だけのお風呂がありました。基本、何でも分けて暮らしてて」

しかもそこは、時々お湯が出ないこともあった。だから入浴自体良い思い出がない。
逆に良い思い出を手繰り寄せようとしたが、中々見つからなかった。良いも悪いも、闇しかない。納屋は日中も薄暗く、夜は古いランタンひとつ。それを頼りに、トイレだけは行動を許されていた。
全部仕方ないこと。でも宗一さんにはあまり知られたくないと思った。

「ドライヤーは楽だよ。あっという間に髪が乾くからね」

掛けるね、と言われて頷く。ドライヤーを当ててもらい、大人しくしていたけど。
「あっ……自分でやります! ごめんなさい!」
よく考えたら、髪を乾かすぐらい自分でできる。恥ずかしいやら情けないやらで、慌ててドライヤーを受け取った。

宗一は何も言わず、白希を静かに見つめていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...