熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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奇な糸

#1

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勇気を出して、少し突っ込んだことを言った。
少しでも迷惑そうな素振りをされたら撤回しようと思ったけど、彼は意外そうに目を見開き、浴槽の縁に頬杖をついた。
「君から興味を持ってくれるなんて嬉しいな。……もちろん、気になることは何でも答えるよ」
「やった。ありがとうございます」
彼の笑顔につられ、一緒に微笑む。
彼のプロフィールは大まかなものしか知らない。ひとりっ子で、高校からはほとんど市街地で過ごし、大学に入る前に完全に村を出た。

白希の八つ上。兄と同い年だから、今は二十八だ。正直、八つしか違わないなんて信じられない。何をどうしたらここまで成熟できるのか。

きっと、生まれ持ったものが違うんだろう。環境はもちろん、本人の性格や素質も大きく影響する。

自分は酷い出来損ないだった。要領が悪くて、何をやっても叱られた。
いっそもう余計なことはしないで、大人しくしていよう。そうすれば誰も怒らない。迷惑もかけない。

何も喋らず、じっと。

でもそれって……生きてる意味があるんだろうか。




「白希、じっとしててね」
「はわっ!!」
男二人の昔話も終わり……。脱衣室で身体を拭いてる最中、頭に熱風が当たった白希は飛び上がった。
宗一がドライヤーをつけて白希の頭に向けたのだが、突然のことに驚き、力が働いたらしい。宗一は一度はドライヤーから手を離した、重さを調節して床に落下する前に掴んだ。
「ごめん! 向けるの早すぎたか……大丈夫?」
「だっだだだ大丈夫です。こちらこそすみません! 手、大丈夫ですか!?」
「はは、平気だよ。急に冷たくなって、驚いただけ」
宗一は笑って手を振る。
また危うく物を壊しそうになった。頭を深く下げ、ゆっくり起こす。その際、宗一が手にしているものが目に入り、白希はまばたきした。
「それ、何て言うんでしたっけ」
「うん? ドライヤーのこと?」
「あぁ、そうでした。あまり見たことないから、熱い風に驚いちゃって」
恥ずかしそうに笑う白希に、宗一は怪訝な表情を浮かべる。

「見たことない、って……実家にはドライヤーがなかったの?」
「ええと……はい。恐らく」
「恐らく?」
「俺もよく分からないんです。ただ、家にはお風呂が二つあって……家族が普段使うお風呂と、俺だけのお風呂がありました。基本、何でも分けて暮らしてて」

しかもそこは、時々お湯が出ないこともあった。だから入浴自体良い思い出がない。
逆に良い思い出を手繰り寄せようとしたが、中々見つからなかった。良いも悪いも、闇しかない。納屋は日中も薄暗く、夜は古いランタンひとつ。それを頼りに、トイレだけは行動を許されていた。
全部仕方ないこと。でも宗一さんにはあまり知られたくないと思った。

「ドライヤーは楽だよ。あっという間に髪が乾くからね」

掛けるね、と言われて頷く。ドライヤーを当ててもらい、大人しくしていたけど。
「あっ……自分でやります! ごめんなさい!」
よく考えたら、髪を乾かすぐらい自分でできる。恥ずかしいやら情けないやらで、慌ててドライヤーを受け取った。

宗一は何も言わず、白希を静かに見つめていた。



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