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二十歳の青年
#15
しおりを挟む殴られるような快感、というのがしっくりくる。
そんな風に触られたのも、扱われたのも初めてだった。だから声にならない声を上げ、身体をくねらせた。
「あっ、や、そんな強くしちゃ……あ、あぁっ!」
手の動きが速過ぎて、白い液体が指の間から飛び散る。
やめて、と言いかけた瞬間に電流が全身を駆け巡る。白希は自身と宗一の掌の中に、熱い飛沫を放った。
「あっ……は、あ……っ」
シャツを下着ごと剥ぎ取られる。気付けば一糸まとわぬ姿で、後ろから抱き締められていた。
イッてしまった。まだ会って間もない人に触られて。
唾液で汚れた口元を自分でぬぐう。
「いっぱい出せたね。いい子だ」
宗一は白希の果てた性器を、ゆっくり撫で回した。
「初めてしたのはいつ?」
「初めて……は……」
冷静じゃない。頭がぼうっとして、彼の恥ずかしい質問に真面目に答えていた。
「もっと……子どものとき。射精はできなかった、けど」
「そうか。自慰するとき、誰かを思い浮かべたことはある?」
何の揺らぎもない綺麗な水面。そのずっと奥底に、秘められた記憶がある。
“誰か”を意識して自慰をしたのは、確か十三の時だ。一度も逢ったことがない人を想い、夜中に自分で慰めた。
「宗一さんのことを……考えながら、シたことがあります」
その頃は声しか知らなかった。頼りない情報とつたない想像力だけで創り上げた想い人。
墓場まで持っていこうと決めてたのに。ひどく遅れて、後悔の大波が押し寄せてきた。
絶対引かれた。恐る恐る表情を窺うと。宗一は目を丸くしていた。よく見ると、頬は少し紅潮している。
「きっ……気持ち悪いこと言ってすみません……!」
既にパニックに陥ってるが、まずは謝って、それから弁解しないと。あれは現実逃避で、馬鹿な子どものいっときの感情なのだと。
ところが、宗一は白希の手をとり、甲に優しく口付けした。
「嬉しい…………。つまり、私達は両想いだった。ってことだよね?」
「……え」
そう……なのか?
恋心を抱いてたのは子どもの時の話だ。
でも、彼の強さや優しさに惹かれてるのも事実。
恋愛感情として、俺は宗一さんが好きなんだろうか。
起き上がってから、のぼせたような頭で真剣に考える。
「はは、分からなかったらいいよ。でも分かったら教えてほしい」
手がゆっくり離れていく。彼は立ち上がり、床に落ちた服を拾う。
何だかそのまま“終わって”しまいそうな気がして、無意識に手を伸ばしていた。
「……待って」
このまま放っておかれたら、凍えて死んでしまいそうだ。まだ体と頭が火照ってるうちに、ずっと溜め込んでいたものを晒してしまいたい。
「……宗一さんにずっと会いたかったんです」
熱い。とけてしまいそうだ。膝が熱いのか、ソファが熱いのか、もう分からない。
けどそんなことどうでもよくて、彼のシャツを掴んだ。
「納屋に閉じ込められてた時……貴方だけが、唯一俺のことを気にかけてくれて、本当に嬉しかったんです。だから一番逢いたかった。これがどういう感情なのか自分でも分からないけど……これから先も、叶うなら一緒にいたい」
ただの願望だ。叶わないことは分かってる。
だからこそ、軽々しく口に出せた。離れるなら尚さら、本当の気持ちを伝えておきたい。
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