熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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二十歳の青年

#13

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アプリ? インストール?
聞き慣れない単語を脳内のスペースに入れながら、彼の指示通りスマホを操作する。
「画面に触るだけで動くって、とても画期的ですよね。どこのお店に行っても、注文や会計はこのタイプでした」
「そうだね。最近はタッチレスで、画面に触れなくても指の動きだけで反応する端末も多いよ。今後はもっと非接触型が好まれるからね」
ははぁ。本当に、何百年か先の未来に来てしまったみたいだ。

テレビも見せてもらえない家で育ったから、こういった機器は特に疎い。それでも宗一は丁寧に、優しく使い方を教えてくれた。
「アカウントはこれで登録完了。とても飲み込みが早いよ、さすがだ」
「宗一さんのおかげです。ありがとうございます」
よく分からないけど、これで色々できるらしい。初期設定って大変だな。

「何でもそうだけど、難しいことばかり先に覚えようとするから苦手意識が生まれるんだ。本来の使い方なんて後回しにして、まずは楽しみを見つけよう。例えばほら……こういう可愛いキャラクターが出てくるゲームが良いんじゃないかな」
「わ。本当だ、可愛い」

動物を模したキャラクター達のパズルゲームを、試しにインストールしてみる。初めてだから難しかったけど、ワクワクしてすごく楽しかった。

「はは、惜しいね。もう一回」
「はい。これ面白いです……!」

宗一にも見てもらう為に、なるべく肩を寄せてゲームした。今では嗅ぎ慣れた彼の香水が、鼻腔をくすぐる。
はしゃぎ過ぎて子どもっぽいと思われたかな。ちらっと盗み見ると、彼は優しい顔で白希を見守っていた。

「……」

何だか、見られてることが恥ずかしいと思うほど。
大切な……愛しいものを見るような、慈しみが含まれた瞳。何故そんな目で自分を見るのか分からず、狼狽えた。

さっきまでのように、ゲームに集中できずミスを連発した。
「……あはは。負けちゃいました」
「おっと。でも良い感じだったよ」
「ありがとうございます。このスマホのお金も、補償金がおりたらお返ししますね」
宗一を見上げると、スマホを持つ手を掴まれた。

「だから、それは良いんだよ。私からの誕生日プレゼントだ」

長い指が、白希の指の間に入り込む。
「誕生日ぐらい祝わせてくれ。それに成人のお祝いもしたいと思ってるんだから、ここで遠慮されるとやりづらいよ」
「いや……だって、ここまで色んなことしていただいてるのに。申し訳ないです」
本当に、家に泊まらせてくれてるだけで有難いことだ。だが宗一は、難しい顔をして首を横に振る。
「君を手に入れたいと思うのも、全て私のエゴだよ。私が手に入れられなかった君を、他の誰かに奪われたくないだけ……。なんせようやく君を愛でられるんだから、その幸せに浸らしてほしい」





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