12 / 196
二十歳の青年
#10
しおりを挟むもうずっと昔のことだが、周りの男の子達は自分のことをそう言っていた。小学校低学年までは周りと同じように通えていた為、記憶は古くても印象に残っている。
宗一さんからしたら笑っちゃうような悩みなんだろうな……。
一人称はもちろん、外見も何もかも。
紙袋を抱き締めながら返答を待つ。段々恥ずかしくなってきて、顔が熱くなった。
……っていうか、
「あっつ!!」
顔の何十倍も、掌の方が熱くなった。あまりの熱さに驚き、紙袋から手を離してしまう。
まずい。買ってもらったばかりなのに……!
絶望的な状況に心臓が止まりそうになったが───紙袋は地面につかなかった。
「あっ」
“落ちている”のは確かだが、非常に遅い。まるで鳥の羽が緩やかに落ちていくように、ふわふわと舞い降りていく。
「……っ!」
下に屈み、両手でキャッチする。その瞬間、さっきまでの重みを取り戻した。
「はあぁ……良かった。ごめんなさい……!!」
ホッとしたのと申し訳ないのと、感情が重なって目元が熱くなった。
パニックになる白希と反対に、宗一は落ち着き払っている。
「大丈夫だよ。箱に入ってるし、最近のスマホは衝撃に強いし」
「でも……せっかく頂いたものを傷つけたら、申し訳なくて立ち直れません」
「平気平気。それより深呼吸して。感情が昂るとまた力が働くかもしれないから」
腰を支えられ、立ち上がる。彼の言う通りなので、目元を乱暴にぬぐって深呼吸した。
パニックになればなるほど、力が暴走する。落ち着かないと。
「……すみません。恐らく、もう大丈夫です」
「ふふ。良かった」
宗一は子どものようなあどけなさで笑った。
これも歳上の男性に思うことではないのだろうけど、……可愛いな、と思った。
「ありがとうございます、宗一さん。……あと、びっくりしました。さすがですね」
「うん? 何が?」
「力のコントロールです。私とはまるで違う力だけど、貴方の重量調節は両親も絶賛してました」
ようやく気付いたというように、宗一はわずかに目を見開く。次の瞬間には、またいつもの柔和な笑みを浮かべた。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな」
「もちろん。病院の前でもその力で助けてくださったじゃないですか」
白希が缶を拾おうと飛び出し、車と接触しそうになった時、彼は車の“前方”のみ重力操作をした。地から離れてしまうほど軽量にし、浮かび上がらせたのだ。
普通なら自分の目を疑うか、夢でも見たと思うだろう。
有り得ないことを目の当たりにして、すんなり納得できる者など存在しない。
彼の力を知っていたからこそ、白希は冷静に状況を理解できた。
宗一の家は、白希と同じく春日美村で長い歴史を持つ名家だ。村にはいくつか勢力があり、宗一が生まれた水崎家は村内で最も土地を有し、財力を持っていた。……過去形なのは、先代の家督が妻と息子を連れて村を出て行ったからだ。
その息子こそが宗一で、白希が最も会いたかった人物。
重量操作という異質な力を持って生まれた、美しい青年だ。
22
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる