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二十歳の青年
#10
しおりを挟むもうずっと昔のことだが、周りの男の子達は自分のことをそう言っていた。小学校低学年までは周りと同じように通えていた為、記憶は古くても印象に残っている。
宗一さんからしたら笑っちゃうような悩みなんだろうな……。
一人称はもちろん、外見も何もかも。
紙袋を抱き締めながら返答を待つ。段々恥ずかしくなってきて、顔が熱くなった。
……っていうか、
「あっつ!!」
顔の何十倍も、掌の方が熱くなった。あまりの熱さに驚き、紙袋から手を離してしまう。
まずい。買ってもらったばかりなのに……!
絶望的な状況に心臓が止まりそうになったが───紙袋は地面につかなかった。
「あっ」
“落ちている”のは確かだが、非常に遅い。まるで鳥の羽が緩やかに落ちていくように、ふわふわと舞い降りていく。
「……っ!」
下に屈み、両手でキャッチする。その瞬間、さっきまでの重みを取り戻した。
「はあぁ……良かった。ごめんなさい……!!」
ホッとしたのと申し訳ないのと、感情が重なって目元が熱くなった。
パニックになる白希と反対に、宗一は落ち着き払っている。
「大丈夫だよ。箱に入ってるし、最近のスマホは衝撃に強いし」
「でも……せっかく頂いたものを傷つけたら、申し訳なくて立ち直れません」
「平気平気。それより深呼吸して。感情が昂るとまた力が働くかもしれないから」
腰を支えられ、立ち上がる。彼の言う通りなので、目元を乱暴にぬぐって深呼吸した。
パニックになればなるほど、力が暴走する。落ち着かないと。
「……すみません。恐らく、もう大丈夫です」
「ふふ。良かった」
宗一は子どものようなあどけなさで笑った。
これも歳上の男性に思うことではないのだろうけど、……可愛いな、と思った。
「ありがとうございます、宗一さん。……あと、びっくりしました。さすがですね」
「うん? 何が?」
「力のコントロールです。私とはまるで違う力だけど、貴方の重量調節は両親も絶賛してました」
ようやく気付いたというように、宗一はわずかに目を見開く。次の瞬間には、またいつもの柔和な笑みを浮かべた。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな」
「もちろん。病院の前でもその力で助けてくださったじゃないですか」
白希が缶を拾おうと飛び出し、車と接触しそうになった時、彼は車の“前方”のみ重力操作をした。地から離れてしまうほど軽量にし、浮かび上がらせたのだ。
普通なら自分の目を疑うか、夢でも見たと思うだろう。
有り得ないことを目の当たりにして、すんなり納得できる者など存在しない。
彼の力を知っていたからこそ、白希は冷静に状況を理解できた。
宗一の家は、白希と同じく春日美村で長い歴史を持つ名家だ。村にはいくつか勢力があり、宗一が生まれた水崎家は村内で最も土地を有し、財力を持っていた。……過去形なのは、先代の家督が妻と息子を連れて村を出て行ったからだ。
その息子こそが宗一で、白希が最も会いたかった人物。
重量操作という異質な力を持って生まれた、美しい青年だ。
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