熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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二十歳の青年

#4

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「……っ」

何とか顔を上に持ち上げる。それでも宗一は一向に離れる気配がない。
こんな風に誰かの温もりを感じたのは初めてだ。息苦しさと戸惑いと、僅かばかりの喜び。だけどそれを遥かに上回る、恐怖。
「宗……一さん、危ないから離れてください! 俺の力は知ってるでしょう……!?」
本当は肩を押して、力ずくでも離れるべきだ。
だけど触れるのが怖くて、腕を上げることができない。下手したら彼を傷つけてしまう。

熱くなったり冷たくなったり。自分ではコントロールできない力が身の回りのものに働いてしまう。
息を切らして叫ぶ白希に、宗一はようやく身体を離し、目を眇めた。

「もちろん知ってる。でも大丈夫さ。力が暴走しても……それは君の痛みそのものだから」

わずかに、彼のジャケットに指先が触れてしまった。熱によりわずかに変色し、白い煙が散った。
「駄目……」
私は周りを傷つけてしまう。

物心ついた時からこうだった。
触れたものや身の回りにあるものの温度が変化する異常な力があった。その所為で家族や親族から厭われ、屋敷の敷地内にある蔵に閉じ込められた。

白希の出身地である春日美村の家系は、二百年に一度、特異な力を持つ者が生まれる。その力は一族ごとに異なり、最後まで発現しないことも多い。
祖父母が大事にしている書物に綴られていた。
二百年以上前に、白希と同じ力を持つ青年がいたそうだ。しかし彼は子ども時代にこの力を制御し、自在に扱うことができていた。その為周りを不幸にすることはなかったのだが。

白希は二十歳の誕生日を迎えても、未だ力をコントロールできずにいる。思春期は今よりもっと酷く、周りに危害を加えてしまいそうな状態だった。

家族は絶望して、白希がまだ十二のときに世界から隔離した。それまでは村の伝統的な舞踊を継承させる為に朝から晩まで稽古をさせていたが、最後は体裁を保つことを選んだのだ。まるで、それまで次男など「いなかった」ように。

私は生まれてきてはいけない存在だった。
朝を迎える度に思う。夜を迎える度に納得する。
生きててもいいことなんてない。……そのはずだった。

「何度でも言う。大丈夫だ」

手のひらが合わさる。
自分よりひと回り大きな、白いが逞しい手のひら。

指が交互に触れて、握り合う形になる。

「……っ!!」

心臓を掴まれたように、息が苦しくなる。
相手を傷つけてしまうかもしれないと思った途端、例えようのない恐怖に支配される。怖くて堪らなくて、崩れ落ちそうになったとき……優しく頭を撫でられた。

「ほら……ね? 熱くもないし、冷たくもない」

少しずつ、呼吸が整う。
柔らかかったり、ざらついていたり。そしてちゃんと温かい。

「怖くない怖くない。……怖がったり、驚いたりする拍子に力が働いちゃうんだよ。強い精神力さえあればこの力は抑え込める」

宗一は微笑みをたたえたまま、名残惜しそうに手を離した。
「君は人を恐れてる。傷つけることはもちろんだけど、自分が傷つくことも怖いんだろう。まずはそれを克服しないとね」
「克服……」
「そう。人を信じて、愛して、愛される。これだけでいい」
頬を撫でられ、ついビクッとする。
やはり適度な距離は保っていたい。今はたまたま力が働かなかっただけで、いつ暴走してもおかしくないのだから。

……でも、ずっとこのままなんて嫌だ。それは自分が一番思っている。

「難しいことじゃない。私と一緒にいれば大丈夫。……いや」

宗一は前に屈み、 白希の手をとった。

「私の嫁として、幸せになるんだ。十年前に約束したようにね」






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