熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん

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二十歳の青年

#1

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春日美村かすがみむらで起きた住宅が全焼する火事について、警察は出火原因を調べています。また次男以外の住人は行方不明となっており、この家に住む老夫婦、長男、そして家事手伝いの一人の捜索を進めています』

────テレビ。

テレビってすごいな。この放送を今、全国の人が見てるわけで、簡単に情報共有ができちゃうんだ。

『この家に住む次男(二十歳)は病院に搬送されましたが、意識はあり現在治療中とのことです』

サイドテーブルに置かれたリモコンを手に取り、電源を押してテレビを消した。
「今のは貴方のことですよ、白希様」
真っ白な病室、その中央に置かれたベッドの上で、余川白希よかわしろきは息を飲んだ。

傍にはしばらく白希の付き人になるという、真岡という青年が佇んでいた。
「あれ程の火事で、手の火傷だけで済んだのは不幸中の幸いです。担当医に確認したら明日退院していいとのことでした。良かったですね」
「あ、はい。……ありがとうございます」
包帯が巻かれた左手をそっと摩り、窓の外を眺めた。

正直まだ、何一つ現状を飲み込めてない。
私はあの時死ぬはずだった。……いや、本当はもっと前に。

のうのうと生きる資格なんてないんじゃないか。家を失った以上、これからもっと多くの人に迷惑をかけるかもしれないのに。

だって、普通の人間じゃない。父からはずっと化け物と言われて、狭い屋根裏に閉じ込められて育った。そんな私が、一人で生きていけるんだろうか。

「白希様」

自身の手元に視線を落としていたが、名前を呼ばれて顔を上げる。
「今は不安で仕方ないと思います。でも大丈夫です。貴方の人生は、今日から始まったのだと思ってください」
「人生……」
「ええ。これからどう生きるのかは貴方の自由です。我々は貴方の意志を尊重します」
真岡の言葉は優しかった。全てを理解し、納得するのは難しいかもしれないけど。少なくとも、この人は味方だ。

あの家で一生を終えると思っていた自分の人生が、新しく始まる。

何だかとても壮大で、儚くて、……美しい。

果たしていつまで続けられるか分からないけど、今は早くお礼を伝えたい。自分をあの世界から連れ出してくれたひとに。






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