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一拍

#5

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枯葉が足元で舞っている。蟻が靴の上に乗ったので、指でそっと払った。
「耶神君、もう大丈夫?」
「は、はい! すいませんでした」
慌てて身体を離し、勢いよく立ち上がる。彼も安堵したように身を起こし、階段の下を指さした。
「ははっ、いいんだよ。それじゃ俺はそろそろ行こうかな。君も、そろそろ家に帰った方がいいよ。いくらこの町が平和でも、やっぱり危ないから。こういう場所は特に……」
彼はそこまで言いかけて、ハッとしたように口を噤んだ。どうしたのか不安に思っていると、ゆっくり立ち上がって手を差し伸べてきた。
「とにかく、お互いもう帰ろう。俺は一週間はこの町にいようと思うから」
「あぁ、そうなんですね!」
「うん。あのさ……また、ここに来てもいい?」
一瞬、音が聞こえなくなる。なんてことない質問だったのに、それはとても大事な約束に思えた。
「もちろん。待ってます」
即答して、何とか上品な笑顔をつくった。こんなに胸が高鳴ったのは初めてだ。ひとりで舞い上がってしまっている。相手は男の人なのに。

分かってるけど、笑って去っていく彼の後ろ姿から目が離せなかった。かっこよくて優しい。でも、どこか不思議な雰囲気の人。それが胡内さん。苗字以外は何も分からないけど、全ては一週間だけの付き合いなんだ。一週間後、俺と彼は必ず別れる。
 





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