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「あっ……!」

今の住まいである館に移動し、高まる熱を振り払おうとした。
リオは部屋に入ってすぐにヴェルムの服を奪うと、ベッドの上に倒した。待ち侘びていたように、時間をかけて丁寧にヴェルムの全身を愛撫する。

今まで何度も仕事で触られたことのある胸も、リオに触れられると何倍にも感じてしまう。熱く柔らかい舌で舐められ、吸いつかれると内部が疼いて仕方がなかった。
何でこんなに気持ちいいなんだろう。
仰向けのまま、魚のように大きく跳ねた身体をぎゅっと抱き締められる。
「ヴェルム、頼みがある。嫌って言われても止められる自信ないんだけど」
「もうその時点で拒否権ないだろ」
冷静に指摘すると、彼は堪えられずに笑った。

「ああ。……抱いてもいい?」

彼の額から伝う汗が、ヴェルムの頬に零れ落ちた。
この熱気も吐息も、頼り甲斐のある腕も……全てが自分を包こもうとしている。
良い男になり過ぎだ。内心苦笑しながら、彼の手のひらに頬を擦り寄せた。
「何だよ、その可愛い仕草は。良いってこと?」
「うーん。そうかも」
わざと曖昧に返すと、脚の間に手を差し込まれた。
「ひあっ!」
「俺は本気だよ。後悔しても遅いからな?」
後孔にあてられた指に力が込められる。思わず彼の服を強く握り締めた。
今まで散々男と寝ているんだから、怖いわけがない。それなのに自分でも驚くほど緊張している。

好きだから。
初めて大好きな相手と繋がれるから、この身体と心は臆病になっているんだ。

でもそれが幸せということも理解している。

「後悔なんてしないよ。お前と繋がれるなら……っ」

彼を見上げながら両手を伸ばす。
リオは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。

「これからはそうやって甘えてこいよ。その方が可愛いぞ」
「か、可愛いって思われたいわけじゃない。俺にだって男としてのプライドが」
「はいはい。今度たっぷり聴くから……ちゃんと息しな?」

入れるよ、と耳元で囁かれる。反射的に喉が鳴った。
期待していた後ろは、彼の熱棒を簡単に受け入れてしまった。
「あ……っ!!」
尻に彼の太腿が当たる。根元までちゃんと入ったということだ。
よく一気にここまで入ったと感心する傍ら、淫らな自分の身体が恥ずかしくもなる。
けどリオは嬉しそうに唇を重ねてきた。
腰は動かさず、濃厚なキスを続ける。ヴェルム自身、ただ繋がっているだけなのに、気を抜いたら果ててしまいそうだった。
くらくらする。こんなの初めてだ。
「ヴェルム、大丈夫? 痛くない?」
「うん」
心配そうに問いかける彼の頬を撫で、邪魔な前髪を払った。

「痛くないセックスってあるんだな。お前に会うまで知らなかった」

笑いながら言うと、リオは少し苦しそうに眉を下げた。余計なことを言ってしまったと後悔し、すぐに誤魔化す。

「俺は下手だから、立場逆になったら絶対お前を傷つけちまう」
「そっか。じゃあ尚さら俺が上だな。そもそも俺は、ヴェルムがここに存在してるだけで勃つし」
「おいそれはやめろ」

問題発言に釘を刺すも、すっかり彼のペースに乗せられていた。
繋がってるだけで満たされるなんて、本当に不思議だ。
彼と出逢わなければ一生知ることがなかった。そう思うと自然と涙が零れた。

彼に“生まれて良かった”と思ってほしかったのに、気づけば自分の方がそう思わされていた。
孤独な頃とはまるで違う。


─────今では全て懐かしいが、同時にずっと抱き留めていたい、愛おしい記憶だ。


常に満開の花畑で、優しい風が頬を撫でる。


「リオ。ありがとう」


ようやく言えた言葉だ。こんな言葉を伝える為に何百年かかっただろう。
彼に逢えて本当に良かった。涙で潤んだ瞳で彼を見据える。そのとき何故か彼の目元も光って見えた。

「はは、それは俺の台詞だな」

リオは座り込んでいるヴェルムに手を差し伸べ、抱き起こした。

「愛してるよ、ヴェルム。何百年、何千年先も……ずっと」

昔と変わらない唇が重なった。

時間なら確かにたっぷりある。
これからは恋人として、何光年先も寄り添って生きていこう。今は彼から奪った愛を大事に仕舞って、育んでいけるように。






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