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#10
しおりを挟むリオは自分の黒い上着を脱ぎ、所々服が破けたヴェルムの肩にかけた。
「このまま上れるところまで上るか。あ、腰抜けてるならおぶってやろうか?」
「冗談よせ」
ヴェルムが頬を紅潮させて突っぱねると、リオは笑った。
……零れ落ちる雫を優しくすくいとられる。
リオは意外に強い。
本当は自分が引っ張っていかないといけないのに、手を引かれていた。
彼の体調だけが心配だったが階層が上がるにつれ、明らかに顔色が良くなっていた。
やっぱりそうなんだ。
彼の居場所はあんな暗い世界じゃない。もっと眩い、神に祝福された者達が集う場所だ。
どちらにせよ自分は天界には行けない。彼とは途中で別れる運命だ。
そう覚悟していた矢先、天上へ向かう手前でリオが足を止めた。
そこは一見天界と見紛うほど美しい、花畑が広がる場所だった。罪人が落とされる奈落とは反対の、清い魂達が運ばれる場所。死後の世界には間違いないが、ここもひとつの楽園だ。
「空気が綺麗。ここなら大丈夫そう」
リオはぐったりした様子で、花畑の中に倒れ込んだ。慌ててその場に駆け寄り、彼の頭を支える。
「俺達は死者ではないけど、居ていいのか……?」
「いいんじゃない? 怪物も番人もいないし」
適当なリオに苦笑していると、さっそく一枚の紙切れが頭上に降ってきた。
それは天界にいる神々からの手紙だった。また嫌な汗が滝のように流れたが、誰かが降りてくる気配もない。
メッセージだけ?
奇妙なこともあるものだと、不思議に思いながら綴られてある文字を一瞥する。
「ヴェルム、それは?」
「神々の通達だ。……どうしよ」
今すぐ地下に戻れ、もしくは楽園に踏み込んだ罰を与えられるかもしれない。恐る恐る読んでいくと、そこに書いてあったのは予想に反したものだった。
「お咎めじゃなさそうだ。むしろ」
「むしろ?」
「ここにいていいと。……お前も一緒に」
絶対お咎めの文面だと思ったのに、素直に信じられない自分がいる。
しかしもちろん、滞在を許可される理由が二つあった。
ひとつは誤って地下に落ちたリオを見捨てず面倒を見たこと。もうひとつは、リオといれば自分の力は効力を失い、無害であること。
後者の意味が分からず最後まで読むと、リオも愛を司る神の子で、周り強い愛情を与える神だという。
その力は非常に強大で、他者から愛を奪うヴェルムの力を無効にするほどらしい。
凄いけど、何だか複雑だな。そう思っていたのが顔に出ていたのか、身を起こしたリオは怪しそうにこちらを睨んだ。
「何かテンション低くないか? もっと喜ぶところだろ」
「あ、ああ。そうだな。すごく嬉しいよ。何て尊大な方達なんだろう」
こくこくと頷き、笑顔で花柄の便箋をポケットにしまった。
「俺達本当に幸せだな、リオ」
「やばい棒読みだな。ちょっとそれ見せて」
「駄目。お前にはまだ早い」
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