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しおりを挟む願わくば、これからもリオと一緒にいたい。
そう思って夜の仕事を続けていたが、平坦で平穏な日々にもいつかは終わりがくるものだ。
暗く広い一室で、ヴェルムは怪しい雲行きに焦りを募らしていた。
「あ、あの。それって……つまり……」
「ああ。俺の妻になってくれ、ヴェルム」
想像もしなかった事態に言葉を失う。
長く交流のある邪神から、突如求婚されてしまった。
もし彼と婚姻関係を結べば、この世界で永久に暮らす権利を得ることができる。
しかし良いことばかりでもない。眷属になれば自由はきかず、服従を誓う契約を交わすことになる。それに耐えられなければ、最悪命を落とすこともある。
自分はそこまで弱くないと思うが、……リオのことだけが心配だ。
不浄に弱いリオを守るため定期的に館の結界を貼り直す必要があるが、自由を奪われたら難しくなる。
それだけじゃない。彼の存在が知られたら、彼を狙う奴らが現れ、今までより危険が高まる。
返答は迷うまでもなかった。
「申し訳ございません。お気持ちは嬉しいのですが……。俺は力のないはぐれ者なので、貴方様には相応しくありません」
ベッドから下り、なるべく穏便に断ろうとした。そのままドアの方へ向かおうとしたけど、瞬間、男の目付きが一変する。
「わ!」
強い力で壁に押し付けられ、ヴェルムは痛みに呻いた。
「はぐれ者ね。あながち間違ってはいないか。会った時からずっと美味そうな匂いを漂わせていたもんな」
「……っ!?」
嫌な汗がじわりと滲む。彼は口角を上げ、空いた片手で腰に手を回してきた。
「これでも何十年も我慢して、待っていたんだよ。この泥臭い場所で生きる奴らと違い、綺麗な魂と身体を持つお前をめちゃくちゃにする日を」
「あっ!」
服を引き裂かれ、あらわになった首と胸に歯を立てられる。痛みで顔が引き攣った。
今まで何度も夜を過ごしたけど、あれが演技だったなら本当にすごい。骨まで食らいつきたい相手に、快楽だけで対処しようとするのは……。
「拒否する権利なんて与えない。お前は俺のものになるしかないんだ」
ざらざらした舌で胸を舐め取られる。
「く……っ」
彼の瞳に狂気の色が混じった。
全ては自分が撒いた種だが、こんな時でもリオの姿が頭を過ぎった。
彼と出会わなければ、この状況すら喜んで受け入れていたかもしれない。
やっと終われる、と。でも、大事な彼の記憶までは消えてくれなくて、悔しさに涙が零れた。
「嫌……やめろ……っ」
こんな時に一番後悔しているのは、彼の好意から目を逸らし続けたことだった。
リオ。───ごめん。
男の手が下におりた時、諦めて瞼を伏せた。
「うわっ!」
ところが、凄まじい衝撃を受けて男が横に倒れ込む。ヴェルムも危うく当たるところだったが、部屋の扉が外れ、彼に直撃していた。
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