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光のプレゼント
#2
しおりを挟む仕事を終え、職場から少し歩いたところで朔はスマホを取り出した。
登録してるサイトのメールがたくさんきている。表示されている通知は色々あるけど、どれも退屈なもので、本命の彼からは何も連絡がない。
やっぱり、今日は遅くまで仕事か……。
世の中はクリスマスだというのに、と虚しく思ったところで、やはり自分には関係なかったんだと思い直す。
そもそも何を祝うというのか。クリスマスなんて無宗教の日本人にはおよそ関係ないイベントだ。ただカップルが勝手に盛り上がり、それに乗っかった商業戦略が展開されるだけ。卑屈だけど、スマホを仕舞って空を仰いだ。
その瞬間、着信音が鳴り響く。
「あ」
慌てて取り出すけど、そこでまた固まった。何故なら画面に映っていた名前は、自分が今一番会いたい……。
「もしもし、……晃久?」
『お。おつかれ、朔』
晃久だ。
困ったことに、さっきまで溜まっていた不満は恋人の声を聞いただけで吹き飛んでしまった。
単純にも程がある。朔は内心笑いを堪えた。
「どうした? もしかして仕事終わったの?」
『あぁ、何とか。……あのさ、今から外で会えるか?』
「もちろん!」
恥ずかしいぐらい元気いっぱいに即答すると、電話の先から可笑しそうな笑い声が聞こえた。向こうには喜んでる様子がバレバレらしい。
『じゃあ、今から迎えに行くよ』
珍しく、彼は車で来ると答えて電話を切った。晃久は自分の車は持ってないから、実家の車か……レンタカーでも借りたんだろうか。朝出掛ける時は何にも言ってなかったけど。
まぁいいか。とにかく、今は会えることが嬉しい。
せっかくだし贅沢して、いつもは行かないようなレストランでも行こうか。あ、でも今日はかなりカジュアルな服装だから微妙かな。こんな日ぐらいは見越して、ちゃんとした服で出れば良かった。
高揚と後悔を抱えながら、晃久に指定された街道で道行く人々を眺めていた。少しして、白のクラウンが近くに停まる。降りてきたのは晃久だった。
これは多分実家のだな、と呑気に考えながら、彼の方へ向かって歩き出す。
「おつかれ、朔。待った?」
「全然」
逆に、「待った」と答えたら何て言うんだろ。真面目な彼のことだから、本気にして謝ってきそうだ。それはやっぱり可哀想か。
「寒いだろ、早く乗んな。って言っても、これからもっと寒いとこに行くけど」
「えっ」
もっと寒いところ……?
「ま、まさか雪積もってるようなとこか?」
「さすがにそれは予定してないけど……時間がちょっと迫ってるから、早く」
手を引かれて車に乗り込む。晃久は時間を気にして、すぐに発車させた。
どこへ行くつもりなのか気になるけど、彼はお楽しみと答えるだけで詳しくは教えてくれない。
そのまま高速を通り、見えてきたのは普段は用事がなければ行かない港湾だった。駐車場に車を停め、二人で夜景を眺める。
「わぁ~! 確かに寒いけど、すごい綺麗。海の近くって何かテンション上がるよな」
晃久は笑って頷く。この感じだと海沿いのドライブがしたかったのかな。
ポケットに手をつっこんで周りを見渡してると、彼に背中を押された。どうやら歩いてどこかへ行くらしい。
寒さと戦いながら、しばらく湾岸を歩いた。でもやっぱり、彼の歩くスピードは早い。
「晃久、他にどっか行きたいとこでもあんの」
「あぁ、でもギリギリセーフ。……ほら、あれに乗ろう」
そう言って彼が指さしたのは、この辺じゃけっこう大きな客船だった。
「マジで? そんな急に大丈夫か」
「予約してるから大丈夫だよ。先に言っちゃうと楽しみ半減だし、お前は色々気にするだろーから」
「えぇ……! 嬉しいけど、ドレスコードない?」
「大丈夫大丈夫」
受付に確認を済ませ、晃久に連れられるまま乗船する。本当不安でしょうがなかったけど、周りを見ると確かに服装はまちまちだからホッとした。
「本当はもっと良いプランで誘ってもいいかなって思ったんだけど……お前は堅苦しいのより、ある程度自由な方が好きだと思ってさ」
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