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重ね重ね

#4

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それが四年ぶりにこんな形で。こんな近くで過ごすことになるなんて、夢にも思わないだろう。

酒は入ってなくても、多少混乱して当然……そう都合よく解釈した。
「朔は、昔の俺をどう思ってた? 今度は、本気だって受け取るから……本当のこと話してよ」
まだまだ混乱してる真っ最中なんだけど、催促された以上答えなければいけない。
頭の奥がガンガン鳴って、気持ち悪い。今はちょっと、嘘をつけそうになかった。
「お前が好きだったのは、本当……。でも昔の話だ」
これだけは本当なんだな、って。口に出して確信した。

「そっか。今は?」
「今は、別にどうでもいいだろ」
「どうでもよくない。俺は今の方が大事だよ」

強く手を握られて、ドキッとする。
何なのか分からず狼狽えると、彼は強い口調で俺に言った。
「もし。昔の俺が、お前のその気持ちに気づけていたら……絶対離さなかったよ」
それって、まさか。
「」お前も、俺を好きだった……とか? 嘘だろ?」
自分で言って笑ってしまったけど、晃久に容赦なく頬をつねられて悶える。

「嘘じゃない。好きだったよ、お前のこと。でも言ったら終わるって分かってたから、ずっと隠してた。お前は、俺のことが好きだって嘘つくし……ずっとからかわれてると思ってたから」

────信じられなかった。

驚きが勝って、他の感情は死んだように眠っている。
晃久が、昔の俺を好きだったなんて。
それは確かに、気付いていたら尋常じゃない喜び方をしただろう。もちろん、昔の話だけど。

「お前、俺と二人でいる時はそんなにふざけたりしなかっただろ。だから尚さらイヤだった。どうせつくなら、もっと違う嘘をつけよ、って思って」
「それは……まぁ、わかるけどさ」
俺だってその時は必死だったんだぞ、と心の中で反論した。
「晃久は、俺のことなんて全然見てないと思ってたよ。今だってそうだろ? カラダのことばっかだ。俺に恋愛感情なんかないんだろ」
「拗ねてんの?」
「拗ねてない。だからさっきの話は忘れてくれよ。昔の俺が、昔のお前を好きになっただけだから」
「他人事みたいな言い方」
「だって、事実だろ」
不満そうな晃久を、それでも強い態度で制する。
すると、彼は静かに呟いた。
「お前は他に……」
「えっ?」
「いや、何でもない」
それだけ言うと晃久は黙ってしまった。
彼のことだからもっと何か言ってくると思ったんだけど……。
改めてよろしく、じゃないけど、お互いの気持ちが知ることができたんだ。スッキリしたんだから、もう少し何かあるだろ。
という俺の予想に反して、その後は何もなかった。


晃久はいつもの様子でゆっくり部屋に帰って行ったから、俺もそれを見るだけ。止める理由もないからしょうがないけど、なんだコレ……。
何かモヤモヤする。心の内を伝えられたものの、結局ぎくしゃくした関係が持続している。

でもお互い離れない。これは一体何なんだろう。





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