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重ね重ね
#2
しおりを挟む彼はとても世話焼きで、周りをよく見る人だから、俺の異変に気づいたのかもしれない。
「すみません。そのー、寝不足で。目を覚ますために顔洗いに来たんです」
それっぽい理由をつけて笑うと、永山さんも笑った。
「そっか。何で夜更かししてたの?」
「それは」
瞬時に、晃久との行為を思い出す。
「うわ……! また……」
「な、何? 大丈夫?」
屈辱の夜を思い出すとどうしても平常心でいられなくて、彼から顔を背けてしまった。
「何でもないです」
「本当? さっきより顔赤いけど」
「気のせいです」
「気のせいかな……? あ、もしかして。違ってたらごめんね。お楽しみだった?」
爆死だ。この人はほんとにカンが鋭い。
「いやっ……その……」
言い淀んでしまうと、もう確信的。永山さんはニヤニヤしながら詰め寄ってきた。
「当たっちゃったか。良いじゃん、仲良いのは何よりだよ。ていうか奈津元君、彼女いたんだね」
「いや、彼女じゃなくて」
「え、恋人じゃないの」
あ。
やばいぞ。やばい方に誤解される。
「違います、知り合いです」
「知り合いと……ってことは、セフ」
「いやいや、元はといえば親友で……って待ってください今の全部忘れてもらえませんか!」
誘導尋問のように、何かめちゃくちゃ素直に答えてしまった。馬鹿か俺は。
「ほ、本当に心を許せる奴……だったんです」
あれ。
過去形にはなったけど、やっぱり俺は晃久に心を許してるのか。
でも流石にもう、彼と心から笑えることはない。
笑えない出来事だった。いや、ある意味笑えるけど。絶望で。
そんな事を思ってると、永山さんは不思議そうに腕を組んだ。
「心を許せるぐらいなら、いっそ付き合っちゃえばいいのに」
「ははは……ですね。でもこの話は終わりでお願いします」
これ以上はヤリマンだと思われるから、強制終了した。
「分かった。ごめんね、色々訊いて。奈津元君って反応良いから可愛くて、つい」
「いやいや、勘弁してくださいよ……」
全力で否定する。彼は笑ってるけど、こっちは笑い事じゃないから青ざめた。職場で変な噂が流れたら終わりだ。
「事情は複雑なんですけど、本当に遊びとかではないんで」
まだ言ってる途中で、「しっ」、と唇に指を当てられた。
もう片方の手の指は、自分の唇に当てている。
えっ。
訳が分からなくて思考が停止してると、今度は別の声が聞こえた。
「こら、君達いつまで休憩とってるんだ?」
扉からひょこっと、別の先生が顔を出して俺達に注意した。
「すいませーん、今戻ります!」
永山さんは笑って答え、まだ唖然としている俺に目配せする。
「大丈夫、さっきのは誰にも言わないから。早く戻ろう」
「あ……ありがとうございます」
ほかの人に聞かれないように気を配ってくれたんだと分かって、頭を下げた。
感謝しながらも、また新たな罪悪感に苛まれる。
彼に言ったことは半分本当で、半分嘘だから。
俺は駄目な大人だ。
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