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第1話
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◇
ヤケクソ結婚相談所の居室では、通話の切れたガラケーを持った亀吉が呆然と立ち尽くしていた。
「電話、誰からかい?」
タバコをぷかーとふかしながら、令子が亀吉を睨み付ける。
「それが、杉崎彩さんからで……」
「あいつがなんだって、言うんだい」
「ヤケクソ結婚相談所を退会するって……」
令子の目が鈍い光を放つ。
「も、もしや……この前の悪だくみに、気づかれたんじゃないでしょうかね~」
「おいっ! 悪だくみって言うな! あれは東雲とアズサを結び付けるための、まっとうなプランなんだ!」
アレが、まっとうなんですかね~。
わたしゃ、かなり心苦しい思いをしたんですがね~。
「……これで残る会員は、東雲とアズサか。ふたりはその後、どうなんだい?」
「はあ。何度か会ってるみたいだけど……」
「じゃあ、上手くいっているということか。このまま行けば、ヤケクソ結婚相談所もやっと成婚実績ができるというわけだ」
令子は珍しくニヤリとすると、膝元で寝ている三毛猫の頭を撫でた。
だが、ふとその手がぴたりと止まり、表情が険しくなる。
「……おい、おまえ」
「なんだい、かあちゃん」
「しばらくの間、彩を見張れ」
「えっ、どうして?」
「わからないかい、このオタンコナス! 親友に彼氏を寝取られた彩が、やけになって何かしでかすかもしれないだろ! 美希って女もそうだったじゃないかっ! だから面倒を起こさないように彩を見張れって言ってんだよっ!」
また探偵ごっこですか……。
亀吉は、がっくりと肩を落とした。
◇
夏の強い日差しが、じりじりとあたりを照らしている。
流れ出る汗をハンドタオルで拭いながら彩が遊園地のエントランスに行くと、既に竹下は待っていた。
待ち合わせ時間の10分前である。
「おはよう、竹下くん。待たせちゃった?」
「い、いえっ! ほんの1時間くらでしゅ!」
約束の1時間も前から炎天下のなか待っているなんて、健気というか、なんというか……。
「チケット、もう買ってありましゅから」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
園内に入ると、久々の遊園地に彩のテンションも上がってきた。
楽しみはアトラクション、ではなくここには本格的な多国籍フードコートがあるのだ。
「杉崎しゃん、まずどこへ行きますか?」
最初っからフードコートに行くのは、さすがに気が引ける。
まあ、彩の目的はそこしかないのだが。
「竹下くんが行きたいところでいいよ」
「僕は、どこでもいいでしゅ。彩しゃんに任せましゅ!」
「私、わからないから、竹下くんが選んで」
「ダメでしゅ。彩しゃんが楽しめるところに僕も行きたいでしゅ!」
竹下は頑固に、彩に選ばせようとする。
思わず彩は、ため息をついた。
「あのさ、竹下くん。こういう時って、男のほうからリードしてくれると、こっちも嬉しいもんなのよ」
「そ、そうなんでしゅか。ぼ、僕、デートなんてホント初めてにゃんで……」
つい、どこへ行っても完璧なまでにリードしてくれた翔さんと比べてしまう。
ああ、翔さんのことはもう、考えないようにしたんだったっけ……。
ヤケクソ結婚相談所の居室では、通話の切れたガラケーを持った亀吉が呆然と立ち尽くしていた。
「電話、誰からかい?」
タバコをぷかーとふかしながら、令子が亀吉を睨み付ける。
「それが、杉崎彩さんからで……」
「あいつがなんだって、言うんだい」
「ヤケクソ結婚相談所を退会するって……」
令子の目が鈍い光を放つ。
「も、もしや……この前の悪だくみに、気づかれたんじゃないでしょうかね~」
「おいっ! 悪だくみって言うな! あれは東雲とアズサを結び付けるための、まっとうなプランなんだ!」
アレが、まっとうなんですかね~。
わたしゃ、かなり心苦しい思いをしたんですがね~。
「……これで残る会員は、東雲とアズサか。ふたりはその後、どうなんだい?」
「はあ。何度か会ってるみたいだけど……」
「じゃあ、上手くいっているということか。このまま行けば、ヤケクソ結婚相談所もやっと成婚実績ができるというわけだ」
令子は珍しくニヤリとすると、膝元で寝ている三毛猫の頭を撫でた。
だが、ふとその手がぴたりと止まり、表情が険しくなる。
「……おい、おまえ」
「なんだい、かあちゃん」
「しばらくの間、彩を見張れ」
「えっ、どうして?」
「わからないかい、このオタンコナス! 親友に彼氏を寝取られた彩が、やけになって何かしでかすかもしれないだろ! 美希って女もそうだったじゃないかっ! だから面倒を起こさないように彩を見張れって言ってんだよっ!」
また探偵ごっこですか……。
亀吉は、がっくりと肩を落とした。
◇
夏の強い日差しが、じりじりとあたりを照らしている。
流れ出る汗をハンドタオルで拭いながら彩が遊園地のエントランスに行くと、既に竹下は待っていた。
待ち合わせ時間の10分前である。
「おはよう、竹下くん。待たせちゃった?」
「い、いえっ! ほんの1時間くらでしゅ!」
約束の1時間も前から炎天下のなか待っているなんて、健気というか、なんというか……。
「チケット、もう買ってありましゅから」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
園内に入ると、久々の遊園地に彩のテンションも上がってきた。
楽しみはアトラクション、ではなくここには本格的な多国籍フードコートがあるのだ。
「杉崎しゃん、まずどこへ行きますか?」
最初っからフードコートに行くのは、さすがに気が引ける。
まあ、彩の目的はそこしかないのだが。
「竹下くんが行きたいところでいいよ」
「僕は、どこでもいいでしゅ。彩しゃんに任せましゅ!」
「私、わからないから、竹下くんが選んで」
「ダメでしゅ。彩しゃんが楽しめるところに僕も行きたいでしゅ!」
竹下は頑固に、彩に選ばせようとする。
思わず彩は、ため息をついた。
「あのさ、竹下くん。こういう時って、男のほうからリードしてくれると、こっちも嬉しいもんなのよ」
「そ、そうなんでしゅか。ぼ、僕、デートなんてホント初めてにゃんで……」
つい、どこへ行っても完璧なまでにリードしてくれた翔さんと比べてしまう。
ああ、翔さんのことはもう、考えないようにしたんだったっけ……。
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