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空色の章
EX ★二人を照らす色彩4
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「……ナーレにだって言えないことくらいあるよ」
一か八か小声で反抗してみたけれど、秒で後悔した。
「ふぅん。当然、覚悟して言ってるんだよね?」
ナーレはテーブルにグラスを置き、首と脇腹に触れてきた。いい大人が本当にひどい。
「わああんっ! ごめんなさいごめんなさいもうしませんもうしませんもうしません!」
即陥落した私は必死に叫び、首と脇腹を隠そうと身体を縮こめる。
「じゃあ、言う気になった?」
ナーレの問いに対して、私はすぐには答えられない。
怒られるのが怖いし、恥ずかしい。手を出してほしかった、なんて言ったらナーレにどう思われるだろう。考えただけで顔が熱くなってきた。
「サヴィトリ?」
「……してほしい」
ナーレの顔を見ては言えなかった。続く言葉が出てこなくて、唇を噛む。
「~~~~~~! やっぱり言えない!」
飛ぶようにベッドまで逃げた。頭から布団を被る。さっきのが限界だ。
「サヴィトリ」
ナーレが布団越しに身体をとんとんと軽く叩いた。
「言わなくていいから出てきなさい」
「……怒らない?」
「怒らない」
「いじめない?」
「善処はする」
「…………」
「あー、わかったわかった。いじめないよ」
私は恐る恐る布団から顔を出した。
ナーレはいつもより少しだけ赤い顔をしている。いや、少しじゃない。かなり? 結構?
「僕だって死ぬほど察しが悪いわけじゃあない。言わせて悪かった。色々自分に言い訳して、不安にさせてごめん」
ナーレの指が私の髪を梳かすように撫でる。
私は居ずまいを正してちゃんとナーレと向き合った。
「本当は、もっと早くこうしたかった」
ナーレは私の手を取り、手のひらにキスをした。ナーレの視線の強さと、手のひらに押し付けられた感触と温かさにどきっとする。
「ナーレ、お酒飲んでる?」
「酒のせいにするなんて野暮なことはしないよ」
距離を詰められ、私の身体は押されるように自然とベッドに倒れた。顔の横にナーレの手が置かれ、重みでベッドが軽く軋んで沈む。自分で望んだことなのに少し怖い。
「まったく、こんな恰好で出てくるしさ。また無責任に僕の理性飛ばしたいのかと思ったよ」
ナーレの指がバスローブの合わせの下に潜りこみ、襟を緩めるように肌の上を滑った。触り方がなんかやらしい。
「これは別に、浴室に用意してあったから着ただけで」
「下着もつけずに?」
ナーレの手が胸の中心すれすれをかすめていく。悪いことをしていないのに追い詰められているようで落ち着かない。
「バスローブはお風呂上りに直接着る物だってカイが言ってた」
「カイ、ね」
何かよくないところに触れてしまったようだ。ナーレは機嫌が悪くなると声がワントーン下がるからすぐにわかる。
「理由はどうあれ、あんまり名前出してほしくないかな」
両手で包みこむように私の顔に触れ、ナーレはおでこ同士をくっつけた。ナーレはおでこをくっつけたりつついたりするのが好きみたいだ。よくこうされる。
「嫉妬?」
「……そうだよ」
私が意地悪く笑って聞くと、ナーレは眉間に皺を寄せて答えた。
唇が重なる。すぐに離れて、また重なって。
「わかるだろ。タイクーンと補佐官は一緒に行動することがこれまで以上に多くなる。接する時間が増えれば親密にもなりやすい。ましてやカイラシュは君に対する好意が振り切れてる」
今度は深いくちづけだった。これをされてしまうと途端に頭がまわらなくなる。
自分からする分にはある程度大丈夫なんだけれど何が違うんだろう。
「僕にはただ、君を信じて願うことしかできない」
呼吸の乱れた声と服を脱ぎ捨てる姿が、なんていうかこう、見てはいけないものを見てしまったみたいでどきどきする。ナーレを安心させる言葉をかけなきゃと思うけれど、思考が散らかって形になってくれない。
ナーレの手が肩にかかり、さするようにしてバスローブが滑りおろされる。焦らすような脱がし方をされて恥ずかしい。しかも袖から肘を抜くときにバスローブが胸に擦れ、思わず吐息のような声を出してしまった。本当に恥ずかしい。先に腰ひもをはずしてくれればよかったのに。
「……えっち」
「ふん、どっちが」
ナーレは人を小馬鹿にするように鼻で笑うと、鎖骨のくぼみのあたりに唇を寄せた。そこからじっとりと舌先を使って舐め上げていく。
同時に手がむき出しの胸に添えられた。親指で優しく円を描くように固くなった部分を刺激する。指輪の金属の冷たさが妙に染みる。
「っ! ぅうんっ……はぁ、ナーレ……あっ! だめ……っ……」
なんて声を出してしまっているんだろう。できることなら自分で自分の声を聞きたくない。ナーレに触られると息が上がるし息が詰まる。下半身がむずむずして気になってしまう。身体の色んな所がおかしくて一度に処理しきれない。
「! ……その、ごめん。先に謝っとく」
ナーレは急に自分の口元を手で覆い隠した。視線はあちこちにさまよっている。
「……ナーレ?」
「もし途中で君が嫌だって言っても、止められる自信、ない、かも」
理由はわからないが切羽詰まっているように見える。
私はナーレの頭を抱えるように抱きしめた。
「前にも言ったでしょ。私があげられるものは全部ナーレにあげる、って。今も昔もこれからも、私にとって一番大事なのはナーレだから。だめ――は言ったし、この後も言うかもしれないけれど、嫌なんて言わないよ」
「……まったく。火に油注ぐようなこと言ってどうするのさ」
ナーレはこれ見よがしにため息をついた。肌に当たる息がくすぐったい。
一か八か小声で反抗してみたけれど、秒で後悔した。
「ふぅん。当然、覚悟して言ってるんだよね?」
ナーレはテーブルにグラスを置き、首と脇腹に触れてきた。いい大人が本当にひどい。
「わああんっ! ごめんなさいごめんなさいもうしませんもうしませんもうしません!」
即陥落した私は必死に叫び、首と脇腹を隠そうと身体を縮こめる。
「じゃあ、言う気になった?」
ナーレの問いに対して、私はすぐには答えられない。
怒られるのが怖いし、恥ずかしい。手を出してほしかった、なんて言ったらナーレにどう思われるだろう。考えただけで顔が熱くなってきた。
「サヴィトリ?」
「……してほしい」
ナーレの顔を見ては言えなかった。続く言葉が出てこなくて、唇を噛む。
「~~~~~~! やっぱり言えない!」
飛ぶようにベッドまで逃げた。頭から布団を被る。さっきのが限界だ。
「サヴィトリ」
ナーレが布団越しに身体をとんとんと軽く叩いた。
「言わなくていいから出てきなさい」
「……怒らない?」
「怒らない」
「いじめない?」
「善処はする」
「…………」
「あー、わかったわかった。いじめないよ」
私は恐る恐る布団から顔を出した。
ナーレはいつもより少しだけ赤い顔をしている。いや、少しじゃない。かなり? 結構?
「僕だって死ぬほど察しが悪いわけじゃあない。言わせて悪かった。色々自分に言い訳して、不安にさせてごめん」
ナーレの指が私の髪を梳かすように撫でる。
私は居ずまいを正してちゃんとナーレと向き合った。
「本当は、もっと早くこうしたかった」
ナーレは私の手を取り、手のひらにキスをした。ナーレの視線の強さと、手のひらに押し付けられた感触と温かさにどきっとする。
「ナーレ、お酒飲んでる?」
「酒のせいにするなんて野暮なことはしないよ」
距離を詰められ、私の身体は押されるように自然とベッドに倒れた。顔の横にナーレの手が置かれ、重みでベッドが軽く軋んで沈む。自分で望んだことなのに少し怖い。
「まったく、こんな恰好で出てくるしさ。また無責任に僕の理性飛ばしたいのかと思ったよ」
ナーレの指がバスローブの合わせの下に潜りこみ、襟を緩めるように肌の上を滑った。触り方がなんかやらしい。
「これは別に、浴室に用意してあったから着ただけで」
「下着もつけずに?」
ナーレの手が胸の中心すれすれをかすめていく。悪いことをしていないのに追い詰められているようで落ち着かない。
「バスローブはお風呂上りに直接着る物だってカイが言ってた」
「カイ、ね」
何かよくないところに触れてしまったようだ。ナーレは機嫌が悪くなると声がワントーン下がるからすぐにわかる。
「理由はどうあれ、あんまり名前出してほしくないかな」
両手で包みこむように私の顔に触れ、ナーレはおでこ同士をくっつけた。ナーレはおでこをくっつけたりつついたりするのが好きみたいだ。よくこうされる。
「嫉妬?」
「……そうだよ」
私が意地悪く笑って聞くと、ナーレは眉間に皺を寄せて答えた。
唇が重なる。すぐに離れて、また重なって。
「わかるだろ。タイクーンと補佐官は一緒に行動することがこれまで以上に多くなる。接する時間が増えれば親密にもなりやすい。ましてやカイラシュは君に対する好意が振り切れてる」
今度は深いくちづけだった。これをされてしまうと途端に頭がまわらなくなる。
自分からする分にはある程度大丈夫なんだけれど何が違うんだろう。
「僕にはただ、君を信じて願うことしかできない」
呼吸の乱れた声と服を脱ぎ捨てる姿が、なんていうかこう、見てはいけないものを見てしまったみたいでどきどきする。ナーレを安心させる言葉をかけなきゃと思うけれど、思考が散らかって形になってくれない。
ナーレの手が肩にかかり、さするようにしてバスローブが滑りおろされる。焦らすような脱がし方をされて恥ずかしい。しかも袖から肘を抜くときにバスローブが胸に擦れ、思わず吐息のような声を出してしまった。本当に恥ずかしい。先に腰ひもをはずしてくれればよかったのに。
「……えっち」
「ふん、どっちが」
ナーレは人を小馬鹿にするように鼻で笑うと、鎖骨のくぼみのあたりに唇を寄せた。そこからじっとりと舌先を使って舐め上げていく。
同時に手がむき出しの胸に添えられた。親指で優しく円を描くように固くなった部分を刺激する。指輪の金属の冷たさが妙に染みる。
「っ! ぅうんっ……はぁ、ナーレ……あっ! だめ……っ……」
なんて声を出してしまっているんだろう。できることなら自分で自分の声を聞きたくない。ナーレに触られると息が上がるし息が詰まる。下半身がむずむずして気になってしまう。身体の色んな所がおかしくて一度に処理しきれない。
「! ……その、ごめん。先に謝っとく」
ナーレは急に自分の口元を手で覆い隠した。視線はあちこちにさまよっている。
「……ナーレ?」
「もし途中で君が嫌だって言っても、止められる自信、ない、かも」
理由はわからないが切羽詰まっているように見える。
私はナーレの頭を抱えるように抱きしめた。
「前にも言ったでしょ。私があげられるものは全部ナーレにあげる、って。今も昔もこれからも、私にとって一番大事なのはナーレだから。だめ――は言ったし、この後も言うかもしれないけれど、嫌なんて言わないよ」
「……まったく。火に油注ぐようなこと言ってどうするのさ」
ナーレはこれ見よがしにため息をついた。肌に当たる息がくすぐったい。
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