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空色の章
EX 二人を照らす色彩3 ※サヴィトリ視点
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「ったく、花火も終わったっていうのに人が全然減らないよ。しばらく――下手したら明日まで出られないかもね」
バルコニーから下を見下ろしながらナーレがそう言ったとき、私は内心とても嬉しかった。まだ一緒に過ごすことができる。
ナーレは基本的に夜遅くまで一緒にいてくれない。クベラではどんな所に住んでいるのか聞いても教えてくれないし、当然連れて行ってもくれない。
『二か月近く手を出してこないなんて本当にありえませんわね』
ずっとこの言葉が引っかかっている。
商業区の外れにある飲食店「三日月亭」でニルニラとル・フェイさんの三人で食事をしていたときのことだ。なんの集まりでその三人で食事をすることになったかは忘れてしまった。
『肉体的な接触だけが愛情表現ではないのでございますが、されないよりはされた方が愛情を感じやすいのでございます』
ニルニラはどうしてこんな変な喋り方をするんだろう――じゃなくて、ニルニラもル・フェイさんの意見に同調しているようだった。
『いっそひん剥いてしゃぶればよろしいんじゃないかしら?』
『変なこと吹き込むんじゃないのでございます! この子冗談抜きでやりかねないのでございますから!』
『いいじゃない、面白くって』
『順路無視して最短コースを突っ走るのではなくて、もっとその一般的な方法というか……あ、お酒の力を頼るのとかいいんじゃないのでございます?』
『あんまり飲ませると勃たなくなりますわよ』
『言い方ぁっ! でございます!』
ニルニラとル・フェイさんはこんな感じでアドバイスなんだか言い合いなんだかよくわからないことを言っていた。
要するに、お酒でどうにかして、それでダメならむいてしゃぶるといいらしい。でもル・フェイさんに詳しいやり方聞き忘れたな。どうしよう。
色々と思い出したり考えたりしているとくしゃみが出てしまった。夜になって急に気温が下がったせいかもしれない。
「大丈夫? 冷えてきたし、とりあえず中に入ろう」
ナーレに肩を抱かれるようにしてバルコニーから部屋の中へと戻った。今日のナーレはいつもより少しだけ優しい気がする。
ヴィクラムから宿泊券を譲ってもらったらりるれろルーム――なんか違うかも。まぁいっか――は青と白を基調としたとても綺麗な部屋だった。そういえばクベラではよくこの配色が使われている気がする。何か理由があるのだろうか。タイクーンの私室に置いてあるものと同じくらいソファーもベッドもふかふかで気持ちがいい。
「最悪ここに泊まることになるかもしれないし、先にお風呂にでも入っておけば」
「うん、そうする。ナーレも一緒に入る?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと入りなさい」
「はーい」
反論すると面倒くさいことになるので、私は素直に浴室にむかった。
以前にジェイと泊まった所とは違い、お風呂上りに着る用にバスローブが用意されている。使ったことはないけれど、確かお風呂から出たらそのまま着る物だとカイが教えてくれた気がする。
湯船にはすでにお湯がはってあり、温度もちょうどいい。どういう仕組みでお湯の温度を維持しているんだろう。
私は身体を洗ってからそーっと湯船につかった。うっすらと緑色で少しとろりとしたお湯が気持ちいい。
ナーレが手を出してこないのはなんでだろう? 完全に手を出さないわけじゃなくてキスは割としてくるけれど。
ル・フェイさんに言われるまで気にならなかったけれど普通はそういうものではないらしい。いや、ル・フェイさんとニルニラの意見だけで「普通」と断じてしまうのは極端かな。でも……。
私は自分の胸に手を当てた。ナーレには寸胴、カイには慎ましやか、ヴィクラムには未就学児と言われたくらいだ。きっと魅力はない。でも今すぐにどうこうできるものでもないし……。
ため息をつきながら湯船に身体を沈める。ぶくぶくと水面に泡が立つ。
……やめた。
考えても仕方のないことは考えない。
お湯を顔に浴びせかけ、勢いよく浴槽から出た。
私が浴室から出ると、入れ替わるようにナーレがお風呂に行ってしまった。早く入りたかったのかな。
やることもないので私はソファーに座り、買ったお酒とおつまみになりそうな物をテーブルに広げた。お酒はニルニラが教えてくれた物がちょうどあったのでそれを買った。オレンジと桃。両方ともデザートみたいな感じでいけるって言ってた。術で出した氷で冷やしておいたからそのまま飲める。
お酒と一緒に買ったグラスに桃のお酒を注ぐ。うっすらとピンクがかった液体はシロップのようにとろっとしていて、生の桃と同じ甘い香りがする。
……あれ、これって私が一人で先に飲んじゃだめ? 飲むんだっけ? 飲ませるんだっけ??
ニルニラ達との思い返してみてもどっちなのかは判断がつかない。
「こら、やめておきなさい」
うしろからナーレの手が伸び、グラスをさっと持ち去られてしまった。
お風呂から出てきたにしては早いような。
「もう出てきたの?」
「まだ入ってないよ。君がジュース感覚でストレートで飲もうとするから」
ナーレはお酒のボトルを手に取ると、何かを調べるようにラベルをじっと見つめた。
「まったく、ひとがちょっと目を離すとすぐこれだ。飲み慣れてないんだからチェイサー用意しておきなさい」
「ちぇいさー?」
「ああ君の知らない単語を使って悪かった。水だよ、水。酒と一緒に買ったろう」
言いながらナーレは袋から瓶を取り出し、中身をグラスに注いだ。
知らなかった、お酒は水と一緒に飲むものなのか。ヴィクラムはお酒とお酒を一緒に飲んでいた。
「で、なんで急に酒を飲もうなんて言い出したのさ」
ナーレは私の隣に座り、照明にかざすようにお酒の入ったグラスを眺めた。
どうしよう。「手を出してくれないからお酒でどうにかするか、むいてしゃぶれって言われた」って正直に言ったら絶対怒られる。嘘をつくにしても急には思い浮かばない。浮かんだとしてもダメだ。高確率でバレる。やっぱりこっちも怒られる。……もしかして、積み?
「言わなきゃ、ダメ?」
「質問に質問で返す上に、僕に隠し事するわけ?」
もうやだ。もう地雷踏んだ。
バルコニーから下を見下ろしながらナーレがそう言ったとき、私は内心とても嬉しかった。まだ一緒に過ごすことができる。
ナーレは基本的に夜遅くまで一緒にいてくれない。クベラではどんな所に住んでいるのか聞いても教えてくれないし、当然連れて行ってもくれない。
『二か月近く手を出してこないなんて本当にありえませんわね』
ずっとこの言葉が引っかかっている。
商業区の外れにある飲食店「三日月亭」でニルニラとル・フェイさんの三人で食事をしていたときのことだ。なんの集まりでその三人で食事をすることになったかは忘れてしまった。
『肉体的な接触だけが愛情表現ではないのでございますが、されないよりはされた方が愛情を感じやすいのでございます』
ニルニラはどうしてこんな変な喋り方をするんだろう――じゃなくて、ニルニラもル・フェイさんの意見に同調しているようだった。
『いっそひん剥いてしゃぶればよろしいんじゃないかしら?』
『変なこと吹き込むんじゃないのでございます! この子冗談抜きでやりかねないのでございますから!』
『いいじゃない、面白くって』
『順路無視して最短コースを突っ走るのではなくて、もっとその一般的な方法というか……あ、お酒の力を頼るのとかいいんじゃないのでございます?』
『あんまり飲ませると勃たなくなりますわよ』
『言い方ぁっ! でございます!』
ニルニラとル・フェイさんはこんな感じでアドバイスなんだか言い合いなんだかよくわからないことを言っていた。
要するに、お酒でどうにかして、それでダメならむいてしゃぶるといいらしい。でもル・フェイさんに詳しいやり方聞き忘れたな。どうしよう。
色々と思い出したり考えたりしているとくしゃみが出てしまった。夜になって急に気温が下がったせいかもしれない。
「大丈夫? 冷えてきたし、とりあえず中に入ろう」
ナーレに肩を抱かれるようにしてバルコニーから部屋の中へと戻った。今日のナーレはいつもより少しだけ優しい気がする。
ヴィクラムから宿泊券を譲ってもらったらりるれろルーム――なんか違うかも。まぁいっか――は青と白を基調としたとても綺麗な部屋だった。そういえばクベラではよくこの配色が使われている気がする。何か理由があるのだろうか。タイクーンの私室に置いてあるものと同じくらいソファーもベッドもふかふかで気持ちがいい。
「最悪ここに泊まることになるかもしれないし、先にお風呂にでも入っておけば」
「うん、そうする。ナーレも一緒に入る?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと入りなさい」
「はーい」
反論すると面倒くさいことになるので、私は素直に浴室にむかった。
以前にジェイと泊まった所とは違い、お風呂上りに着る用にバスローブが用意されている。使ったことはないけれど、確かお風呂から出たらそのまま着る物だとカイが教えてくれた気がする。
湯船にはすでにお湯がはってあり、温度もちょうどいい。どういう仕組みでお湯の温度を維持しているんだろう。
私は身体を洗ってからそーっと湯船につかった。うっすらと緑色で少しとろりとしたお湯が気持ちいい。
ナーレが手を出してこないのはなんでだろう? 完全に手を出さないわけじゃなくてキスは割としてくるけれど。
ル・フェイさんに言われるまで気にならなかったけれど普通はそういうものではないらしい。いや、ル・フェイさんとニルニラの意見だけで「普通」と断じてしまうのは極端かな。でも……。
私は自分の胸に手を当てた。ナーレには寸胴、カイには慎ましやか、ヴィクラムには未就学児と言われたくらいだ。きっと魅力はない。でも今すぐにどうこうできるものでもないし……。
ため息をつきながら湯船に身体を沈める。ぶくぶくと水面に泡が立つ。
……やめた。
考えても仕方のないことは考えない。
お湯を顔に浴びせかけ、勢いよく浴槽から出た。
私が浴室から出ると、入れ替わるようにナーレがお風呂に行ってしまった。早く入りたかったのかな。
やることもないので私はソファーに座り、買ったお酒とおつまみになりそうな物をテーブルに広げた。お酒はニルニラが教えてくれた物がちょうどあったのでそれを買った。オレンジと桃。両方ともデザートみたいな感じでいけるって言ってた。術で出した氷で冷やしておいたからそのまま飲める。
お酒と一緒に買ったグラスに桃のお酒を注ぐ。うっすらとピンクがかった液体はシロップのようにとろっとしていて、生の桃と同じ甘い香りがする。
……あれ、これって私が一人で先に飲んじゃだめ? 飲むんだっけ? 飲ませるんだっけ??
ニルニラ達との思い返してみてもどっちなのかは判断がつかない。
「こら、やめておきなさい」
うしろからナーレの手が伸び、グラスをさっと持ち去られてしまった。
お風呂から出てきたにしては早いような。
「もう出てきたの?」
「まだ入ってないよ。君がジュース感覚でストレートで飲もうとするから」
ナーレはお酒のボトルを手に取ると、何かを調べるようにラベルをじっと見つめた。
「まったく、ひとがちょっと目を離すとすぐこれだ。飲み慣れてないんだからチェイサー用意しておきなさい」
「ちぇいさー?」
「ああ君の知らない単語を使って悪かった。水だよ、水。酒と一緒に買ったろう」
言いながらナーレは袋から瓶を取り出し、中身をグラスに注いだ。
知らなかった、お酒は水と一緒に飲むものなのか。ヴィクラムはお酒とお酒を一緒に飲んでいた。
「で、なんで急に酒を飲もうなんて言い出したのさ」
ナーレは私の隣に座り、照明にかざすようにお酒の入ったグラスを眺めた。
どうしよう。「手を出してくれないからお酒でどうにかするか、むいてしゃぶれって言われた」って正直に言ったら絶対怒られる。嘘をつくにしても急には思い浮かばない。浮かんだとしてもダメだ。高確率でバレる。やっぱりこっちも怒られる。……もしかして、積み?
「言わなきゃ、ダメ?」
「質問に質問で返す上に、僕に隠し事するわけ?」
もうやだ。もう地雷踏んだ。
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