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紫苑の章

2 ★芍薬は夜の香り1

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 サヴィトリは視線がさまようのを抑えられない。まばたきも不自然に増えてしまう。
 やめてほしいのかこのまま続けてほしいのか、自分の鼓動の音がうるさく思考の邪魔をする。

(頭おかしくなりそうだ……)

 今でさえ混乱の極みだというのに、これ以上続ければどうなるのかは想像もできない。どのように続くのかも想像の埒外だ。
 だがサヴィトリの中に今までになかった欲も生まれていた。もっとカイラシュの体温が欲しいと身体の奥底がざわめいている。

 サヴィトリはカイラシュの胸板に手を当て、その上から額を押しつけた。

「サヴィトリ様?」
「……優しく、して……くれる、なら」

 思いもかけない言葉がサヴィトリの口からこぼれた。サヴィトリ自身が一番驚いている。一生涯、出てくるはずのなかった台詞だ。

(優しくしてくれるならって何? 誰が誰に何が何をしてくれるならなの? もうダメだ。ダメすぎて全然わけがわからない!)

 サヴィトリの冷静な部分が、脳内で激しく早口で暴れまわる。
 怖々とカイラシュの方をうかがうと、はっきり見てとれるほど頬を赤くしていた。どうやら照れているようだがサヴィトリにはその理由がわからない。

「どうしてここでそういう……!」

 カイラシュは眉間に皺を寄せ大声をあげたが、途中で口を閉ざした。言葉の代わりに力なく息を吐く。

「もとより極力そうするつもりではありますが、抑えがきかなくなりましてもどうぞお許しください」

 カイラシュは心の芯まで射すくめるような瞳でサヴィトリを見つめた。
 抗う、という言葉が砕け散る。主と従が揺らぐのをサヴィトリは感じた。

 カイラシュに誘われ、サヴィトリはベッドに身を横たえた。
 シングルサイズのベッドはせまい。二人の体重がかかるとうるさく鳴る。

 カイラシュはかんざしと衣をはずし、二、三度頭を振った。長い髪が踊るように跳ねる。
 それと同時に髪に閉じ込められていた香りが漂う。瑞々しい花の甘い香りだ。身体から香る柑橘の香りと相まって爽やかさと華やかさが自然に同居したカイラシュらしい香りになる。

 日の光の下で見ても充分にカイラシュは美しいが、闇のはびこる時刻になるとなお妖しい。
 磨きあげられた珠のような肌も、艶めく菫色の髪も、濡れた深紅の瞳も、内側から光を当てたかのようにうすぼんやりと光って見える。
 まるで、人ならざるものと相対しているようだった。

 カイラシュの指がサヴィトリの服にかかる。何度か着替えを手伝ってもらったことがあるが、その時とは雰囲気がまるで違う。
 留め具を一つはずされるごとに、心の支えを一枚一枚はがされているようで、自然と身体が震える。

「寒いのですか?」

 心配そうに、カイラシュはサヴィトリの身体を包んだ。肌が直接触れ合い、すぐさま熱を持つ。

「違う、大丈夫。裸なんか、見られ慣れてるのにな……」
「サヴィトリ様、その発言はいささか問題があります」

 カイラシュは苦笑しつつ、サヴィトリの髪を手でくしけずる。

 以前は乾燥しがちなぱさついた髪をしていたが、クベラに来てからはカイラシュの手入れの甲斐あって指通りがなめらかになった。
 カイラシュの小指が耳介の上の方にかする。

「あっ」

 普通ではない声が思わず漏れた。
 もしかしたら、他人からしてみれば普通だったかもしれない。
 直後にサヴィトリが慌てて両手で口をふさいでしまったため、どのみち普通ではなくなった。

 細められたカイラシュの瞳に、加虐性が帯びる。

「感じるのですか、ここが」

 カイラシュはサヴィトリの髪を耳にかけ、触れるか触れないかくらいの強さで耳の縁をなぞる。
 声こそあげなかったが、サヴィトリの身体は震え、意思とは無関係に肯定を示す。

「囁かれるのが苦手なのではなく、感じるから嫌だったんですね」

 今までに見たことのないほど楽しそうなカイラシュに恐怖を覚え、サヴィトリは両手で耳を隠した。
 口もふさいだままでいたかったが、惜しむらくは手の数がたりない。

「隠されるとあばきたくなるのが人の性ですよ」

 カイラシュは容赦のない力でサヴィトリの手を引きはがし、そのまま押さえつけた。

「優しくするんじゃなかったのか」
「優しく責めさせていただきます」
「接頭語みたいに使うな!」
「明日の戦いに支障が出ない範囲に収めますのでどうぞご安心を」
「そもそも勝手がわからないのに、安心なんか……わっ! ん……や、だっ……ぁ……」

 サヴィトリの訴えをまったく無視し、カイラシュは耳朶に噛みついた。軽く歯を立て、舌を這わせ、どこをどのようにするのが一番感じるのか探っていく。

「まだ入口に立ったばかりのようなものですよ、サヴィトリ様。そのように嬌態を見せつけられては、わたくしのほうが抑えきれなくなります」

 執拗に耳をねぶりながら、カイラシュはサヴィトリの胸の方へと手を伸ばす。
 紺色の長衣は早々に脱がされ、その中に着ているブラウスもはだけており、下着だけが控えめに胸部を隠している。

「あんっ、だめ……っ、あ……んっ……」

 同時に責められただけで、サヴィトリの口から、普段からは想像もつかないようなぬるい喘ぎが漏れた。カイラシュの手から逃れるように身がよじれる。

「どこを触られても感じるんですね……淫らなことで」

 くつくつと含み笑いをし、わざと息を吹きこむように囁いた。同時に、手は下着を押しあげ、やわい胸を直にもてあそぶ。

「はぁ……っ……こんなの、―――にも、されたこと、ない……」

 サヴィトリは涙のにじむ目元を手の甲でこする。
 腰が動き、息が荒くなってしまうのを止められない。

「それは、煽っていらっしゃるのでしょうか、サヴィトリ様」

 唐突に、カイラシュの声が冷えた。
 それに合わせて室温が下がったような気さえする。

「え……?」
「他の男の名、よりによってその名を出すなど、わたくしも心穏やかではいられませんよ」

 カイラシュはサヴィトリの手からターコイズの指輪を引き抜いた。
 サヴィトリにはまったく口にしたつもりはなかった。だとすると半ば無意識のうちに言っていたことになる。

「カイ!」
「……あとで、こちらはちゃんとお返しいたします。ですが今は、どうかわたくしだけを見て、わたくしの名だけをお呼びください」

 何かを請うように、カイラシュは深くくちづけた。サヴィトリの舌を包むように絡め取る。

「んんっ……ん……ぁっ!」

 胸の過敏な部分をつままれ、サヴィトリは短い悲鳴とともに身体をのけ反らせた。
 腰の奥、外側からは触れられない部分がもどかしく疼く。自分の身に何が起きているのか理解が追いつかない。

「ごめん、その、ナ――名前を出したつもりも、深い意味もなくて……」
「深い意味がないから、厄介なんじゃないですか」

 カイラシュはサヴィトリの服と下着を脱がし、鬱陶しそうに投げ捨てた。
 舌の赤さを見せつけてから胸を舐めあげる。先端を口に含み、舌先で触れるか触れないかくらいの愛撫をした。

「あぁっ、あっ……ごめ、ん、ぁんっ……何か、された……はぁ……わけ、じゃ……」

 弁解しようにも喘ぎが邪魔をする。
 こういう時に他の男の名前を出すのがどれだけひどいことかはサヴィトリにも察しがつく。日中にあんなことがあった相手ならなおさらだ。

「たとえわたくしを選んでくれたのだとしても、あなたの心の根の部分にあの人がいることが、妬ましい」

 口調こそ怒りがにじんでいるが、カイラシュの手も舌も優しい。硬くなったとがりに丹念に舌を這わせながら、もう片方の胸も少し物足りない程度の力でやわやわと揉む。

 サヴィトリの踵がシーツの上を滑る。膝をこすり合せることがやめられない。

「経緯を鑑みれば、仕方のないことなのかもしれませんが」

 不意に、カイラシュの手がサヴィトリの下肢へと伸びた。下衣が取り払われる。
 内腿に触れられ、反射的に足を閉じようとしたが、逆に大きく押し開かれてしまう。
 今身に着けているのは腰まわりを覆う下着だけだ。あまりの頼りなさに足が震える。

「いつもと逆ですね、サヴィトリ様」

 カイラシュはサヴィトリの頬に手を当て、額を合わせた。

「っ、私に、被虐趣味はない!」

 サヴィトリはなけなしの気力を振り絞り、精一杯の虚勢を張ってみせる。

「おや、そうでしょうか」

 カイラシュの指が布越しに秘裂をなぞった。ぬるりとこすれる刺激にサヴィトリの身体が大きく跳ねる。

「きゃっ! ……やっ、いまの……ぁんっ! あっ……はぁ……」

 虚勢はあっけなく崩れさり、吐息混じりの甘ったるい声しかサヴィトリは出せない。
 割れ目に沿って撫でられるたびに意識が熱に浸食されていく。

「言葉で責められながらのほうが感じていらっしゃったように見受けられましたが、わたくしの気のせいでしょうか」

 カイラシュはサヴィトリの耳元で笑う。

 サヴィトリが反論するよりも先に、カイラシュの指が下着の中に滑りこんだ。
 言い訳できないほどに濡れた秘所を中指の腹が撫でる。卑猥な水音とカイラシュの吐息がサヴィトリの鼓膜を震わせる。

「いや、あぁんっ……あぅ……ちが、ちがうっ……!」

「こんなにいやらしくに喘いで、あふれるほど蜜をたらしているのに?」

 カイラシュはてらりと濡れた指を舐め、下着を引きおろした。あらわになった秘部に顔を近付ける。
 閉じられないように両足を押さえ、付け根についた蜜を舐め取った。そのまま徐々に、濡れた中心部へじりじりと唇を寄せる。控えめだが官能をかきたてる音を立て、蜜でとろとろになった部分を丹念に舐めていく。

「カイっ!? やめ、きゃっ……あんっ……あっ、やぁんっ!……はずか、し……や、ぁっ……」

 温かく柔らかい舌がねっとりと動き、サヴィトリは悲鳴と喘ぎの中間のような声をあげる。
 舐められるたびに更に蜜があふれていくのが自分でもわかった。

「もっと乱れてください、サヴィトリ様……」

 蜜と唾液の絡んだカイラシュの舌先が、ぽてりと膨らんだ中心をつつく。
 今までよりも強い刺激に襲われ、自然と腰が浮いてしまう。秘裂のあたりが熱を持ったように熱く、物欲しげにひくひくと収縮する。

「ああぁん! んん……はぁ……あぁ、っ……あんっ!」

 敏感すぎる部分を舌でなぶられ、サヴィトリは意識が朦朧としてくる。
 と同時に、皮膚が波立つような感覚に襲われた。にわかに息が荒くなり、何かに突き動かされるように身体がうねる。

「っ! ……カイ、なんか、だめぇ……へんな、ぁんっ……やっ、ぁ、あああぁぁ……!」

 得体の知れない刺激に全身が支配され、か弱い悲鳴がサヴィトリの喉から押し出された。
 身体が小刻みに痙攣し、下腹部のあたりがひどく熱い。
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