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第五章 棘の砦
5-11 打ち砕くのは無限の棘
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「あらぁ、アタシも女子会に混ぜてほしいわねぇ」
風が切り裂かれる音がし、薄くなりつつあった煙が完全に晴れてしまった。
リュミドラの姿が現れる。
少なく見積もっても十数本は棘を破壊したのにもかかわらず、リュミドラの身体からは、まだ棘が伸びていた。
煙を大量に吸いこみ呼吸系をやられた緑蜂は、すべて地面に落ち、葉や枝に戻っている。
「どう見てもお前は女子ではないだろう。私とて女子はギリギリアウトだ」
「やぁん、ひどぉい! そういういぢわるなこと言う子にはお仕置きしちゃうんだから!」
リュミドラが両手を腰――と思わしき場所に当てると、ひときわ太い四本の棘がしなった。鞭のような動きで地面を打ち据え、深くえぐる。あれが人体に直撃すればひとたまりもない。
「ニルニラ――」
「一人で逃げろ、なんて馬鹿きわまりないことを言うつもりなら、海に突き落としてやるのでございます!」
ニルニラはサヴィトリの言葉をさえぎり、傘で棘の鞭を防いだ。
どういう素材なのかわからないが、傷ついた気配はない。しかし衝撃自体が大きく、ニルニラは数歩ふらついた。
四本の棘は間断なく打ち続ける。
ニルニラは苦痛に顔を歪めたが、決して傘を放すことも、サヴィトリを離すこともしなかった。
「やっぱり女の子は可愛いわね。でも、飽きちゃった」
突然、攻撃がやんだ。
サヴィトリの頭の中で痛いほど警鐘が鳴り響く。
次の瞬間、サヴィトリ達の真下から棘が生えてきた。二人まとめて高く打ちあげられる。
「きゃあああああっ!」
「ニルニラ!」
サヴィトリはニルニラにむかって手を伸ばす。
あと少しで届くというところで、二人の間を棘が断ち割った。
サヴィトリの手に、足に、棘が何重にも巻きつく。両手足を大きく広げ、宙に磔にされたような形になった。
ニルニラは地面に身体を打ちつけただけですんだが、緑の狼に取り囲まれていた。
棘と同じように、緑の魔物も無尽蔵に湧いてくる。
さっきの緑蜂の奇襲といい、魔物の存在をすっかり失念してしまっていた。冷静さが、判断力が、力が、すべてがたりない。
「こんなものっ!」
サヴィトリは半ば自棄になりながら、右手を拘束していた棘を凍らせた。腕をめちゃくちゃに振るって砕く。
同じように左手と足の拘束を解こうとしたが、右手を激しい痛みが貫いた。棘が手のひらを貫通し、より強固に巻きつく。
サヴィトリの額に、びっしりと脂汗が浮かぶ。悲鳴も出ない。荒い呼吸だけが口から漏れる。
ナーレンダは、ジェイは、ニルニラはどうなっただろう。痛みよりも、何もできない自分の無力さがつらい。
「期待はずれだわぁ、サヴィトリちゃん」
リュミドラは頬に手を当て、大げさなため息をついた。
いったい私に何を期待していたのか、教えてほしいものだな。
サヴィトリはなけなしの体力で減らず口を叩こうとしたが、口を開きかけた瞬間、棘がぞろりと動いた。骨が軋むほどの強さで全身を締めあげる。
「――ぅあああああああああああああっ!!」
サヴィトリは無理やり悲鳴を絞り出された。
肩の傷に棘が食いこみ、ただただ熱い。肉体が壊されていく音に、吐き気がする。目から勝手に涙が流れ落ちそうになる。
サヴィトリは空を仰いだ。涙をこぼさないための、無駄な、だが決死の抵抗だった。
そう遠くない空が、厚く重い雲に覆われている。雨が降るかもしれない。最期に見るものが、こんな辛気くさいものだなんて冗談じゃない。
熱い涙が目頭からあふれた。悔しさで流す涙は熱い。
風が切り裂かれる音がし、薄くなりつつあった煙が完全に晴れてしまった。
リュミドラの姿が現れる。
少なく見積もっても十数本は棘を破壊したのにもかかわらず、リュミドラの身体からは、まだ棘が伸びていた。
煙を大量に吸いこみ呼吸系をやられた緑蜂は、すべて地面に落ち、葉や枝に戻っている。
「どう見てもお前は女子ではないだろう。私とて女子はギリギリアウトだ」
「やぁん、ひどぉい! そういういぢわるなこと言う子にはお仕置きしちゃうんだから!」
リュミドラが両手を腰――と思わしき場所に当てると、ひときわ太い四本の棘がしなった。鞭のような動きで地面を打ち据え、深くえぐる。あれが人体に直撃すればひとたまりもない。
「ニルニラ――」
「一人で逃げろ、なんて馬鹿きわまりないことを言うつもりなら、海に突き落としてやるのでございます!」
ニルニラはサヴィトリの言葉をさえぎり、傘で棘の鞭を防いだ。
どういう素材なのかわからないが、傷ついた気配はない。しかし衝撃自体が大きく、ニルニラは数歩ふらついた。
四本の棘は間断なく打ち続ける。
ニルニラは苦痛に顔を歪めたが、決して傘を放すことも、サヴィトリを離すこともしなかった。
「やっぱり女の子は可愛いわね。でも、飽きちゃった」
突然、攻撃がやんだ。
サヴィトリの頭の中で痛いほど警鐘が鳴り響く。
次の瞬間、サヴィトリ達の真下から棘が生えてきた。二人まとめて高く打ちあげられる。
「きゃあああああっ!」
「ニルニラ!」
サヴィトリはニルニラにむかって手を伸ばす。
あと少しで届くというところで、二人の間を棘が断ち割った。
サヴィトリの手に、足に、棘が何重にも巻きつく。両手足を大きく広げ、宙に磔にされたような形になった。
ニルニラは地面に身体を打ちつけただけですんだが、緑の狼に取り囲まれていた。
棘と同じように、緑の魔物も無尽蔵に湧いてくる。
さっきの緑蜂の奇襲といい、魔物の存在をすっかり失念してしまっていた。冷静さが、判断力が、力が、すべてがたりない。
「こんなものっ!」
サヴィトリは半ば自棄になりながら、右手を拘束していた棘を凍らせた。腕をめちゃくちゃに振るって砕く。
同じように左手と足の拘束を解こうとしたが、右手を激しい痛みが貫いた。棘が手のひらを貫通し、より強固に巻きつく。
サヴィトリの額に、びっしりと脂汗が浮かぶ。悲鳴も出ない。荒い呼吸だけが口から漏れる。
ナーレンダは、ジェイは、ニルニラはどうなっただろう。痛みよりも、何もできない自分の無力さがつらい。
「期待はずれだわぁ、サヴィトリちゃん」
リュミドラは頬に手を当て、大げさなため息をついた。
いったい私に何を期待していたのか、教えてほしいものだな。
サヴィトリはなけなしの体力で減らず口を叩こうとしたが、口を開きかけた瞬間、棘がぞろりと動いた。骨が軋むほどの強さで全身を締めあげる。
「――ぅあああああああああああああっ!!」
サヴィトリは無理やり悲鳴を絞り出された。
肩の傷に棘が食いこみ、ただただ熱い。肉体が壊されていく音に、吐き気がする。目から勝手に涙が流れ落ちそうになる。
サヴィトリは空を仰いだ。涙をこぼさないための、無駄な、だが決死の抵抗だった。
そう遠くない空が、厚く重い雲に覆われている。雨が降るかもしれない。最期に見るものが、こんな辛気くさいものだなんて冗談じゃない。
熱い涙が目頭からあふれた。悔しさで流す涙は熱い。
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