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第五章 棘の砦

5-6 棘の扉の守護者

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 それは、サヴィトリには扉のように見えた。
 開け放たなければならない、扉。

 広場へと通じる道は封鎖されていた。棘が幾重にもなり、紋様を描いているように見える。
 棘の扉の前には、見覚えのあるものがあった――否、いた。

 緑がかった半透明の流動体。
 リュミドラの腹心を名乗る(ヴァルナ村村長談)スライム、緑川土左衛門。

(あれやっぱりこの前のスライムかな。スライムの見分けなんてつかないけれど)

 どう対処すべきか迷っていると、ヴィクラムが一人進み出た。
 そういえばヴィクラムはスライム語ができるらしい。どうにか話をつけてくれるかもしれない。

 だがヴィクラムが話しかける前に、スライムは怪しく蠢き始めた。半透明の身体にさざ波が立つ。
 波が次第に激しくなり、スライムの身体はぶくぶくと膨れあがった。ほどなくして人の形をとる。

『いちいち翻訳するのも骨が折れるでしょう。自分の口で、お伝えいたします』

 長身のヴィクラムをも上回る体躯。
 ぼさぼさで伸ばし放題の灰白の髪。
 朱で印が刻まれた褐色の肌。
 猛獣を思わせる、眼光鋭い金の瞳。

『リュミドラ様より、サヴィトリ様とナーレンダ様以外は通すなと仰せつかっております』

 スライムが変じたのは、ハリの森にいるサヴィトリの養父クリシュナそのままの姿だった。

「師匠!?」
「クリシュナ!? 馬鹿な!」

 サヴィトリとナーレンダがほとんど同時に声をあげる。
 クリシュナには、力で絶対に勝てない。
 二人の中には、共通の刷りこみがあった。実際にクリシュナと戦ったことはないが、一緒に暮らしていて本能的にそれを感じ取った。

「よくわからないが、強そうだな」

 ヴィクラムは刀を正眼に構え、目を細めた。

「噂によれば、小指一本で大陸を滅ぼせるそうですよ。まぁ、あくまで、噂。そして本人のほうの話ですが」

 何本もの黒針を扇子のように広げ、カイラシュはスライムを見据えた。

「といってもコピーですし、三人で囲んでボコればなんとかなりますよね」

 珍しくやる気を出しているジェイは、いつでも飛び出せるように、体勢を低くしている。

「いや、ジェイ殿は下がっていてくれ」
「空気は無理して出張らなくて結構です」

「うそーん」

 戦力外を言い渡されたジェイはその場にしゃがみ込み、いじいじと地面にいたずら書きをする。
 サヴィトリは無言でジェイの肩を叩き、ナーレンダと共に棘の扉の方へとむかった。下手に慰めの言葉をかけても逆効果だろう。
 それよりも、サヴィトリとナーレンダの二人しか通さないというリュミドラの意図が気になる。

(会えばわかる、か)

 サヴィトリが棘の扉の前に立つと、扉の中央に縦に切れ目が入った。そこから、両開き扉のように左右に回転して道が開く。

 サヴィトリは意識して息を吐き、扉のむこう側へと足を踏み入れた。
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