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第四章 蛇神アイゼン

4-7 親と子

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「サヴィトリってさ、結構タイクーンにむいてるかもね」

 カイラシュと入れ替わるように部屋を訪ねてきたジェイが、開口一番にそう言った。

「? そんなことはないと思うけれど」
「指導力があるとか政治に強いとかじゃなくて、とりあえず人をたらすのがうまいじゃん」
「それは、褒めているのかけなしているのか……」
「一応褒めてるつもり」

 ジェイは持っていた銀のトレイをテーブルに置く。トレイにはジュースの入ったグラスが二つ乗っている。白っぽく濁っており、強いリンゴの香りがした。

「お風呂あがりの水分補給に良かったらどーぞ。水や白湯を飲んだほうが健康のためには良いんだろうけど、お風呂あがりに飲むジュースとか食べるアイスって美味しいよね」
「確かに。ありがとう、ジェイ」

 サヴィトリは微笑み、近くにあったほうのグラスを手に取る。ちょうど喉が渇いていた。
 鼻に抜ける甘酸っぱい香りが気持ち良い。白濁した見た目とは裏腹に喉越しはすっきりとしている。
 半日以上食事を取っていなかったため、リンゴの甘さが胃に染みた。

「村長の娘さんがね、村で採れる果物を使った絞りたてジュースを売ってるんだ。これ以外にもたくさん種類があったよ」

 よかったらこっちも飲む? とジェイがグラスをサヴィトリの方に押した。
 ジェイに言われてから、サヴィトリは自分が一気に飲みほしてしまっていたことに気付く。
 少し恥ずかしかったが、ジュースはしっかりともらう。

「それでさ、その娘さん、本当は金髪緑眼なんだって」

 ジェイの話はまわりくどい。
 サヴィトリに伝えたかったのは、このことだろう。

(鉱物資源に目がくらんだだけではない、ということか)

 サヴィトリには、どちらでもいいことだった。
 村長の動機がなんであれ、あの蛇神は解決しなければならない問題だ。
 ただ一点だけ、サヴィトリの心に引っかかるものがあった。

「親にとって、子は、娘は、大事なものなのかな」

 答えが欲しかったわけではないが、サヴィトリは口に出してしまっていた。

「すべての親がそうだとは言い切れないけどさ、少なくともクリシュナさんはサヴィトリのことを大切にしていたと思うよ」

 ジェイの言葉は、サヴィトリの心を見透かしたようだった。

「あと、これは俺のきわめて個人的な見解だけど、タイクーンも、サヴィトリのこと大事だと思ってる。ただ、それを示す方法がわからないだけでね。でなきゃこんな豪華な面々、お供回りにつけないよ」
「カイとナーレは独断、ヴィクラムは羅刹総隊長からの命令、ジェイは暇だったから付いてきたんじゃないのか?」
「俺に対する評価ひどくない? 確かにサヴィトリの言う理由も合ってはいるんだけど、俺を含めた全員、タイクーンから勅命をもらってるんだよ。『お前は死んでもいいから、絶対にサヴィトリを守れ』ってね。サヴィトリの極端な性格は、案外タイクーンゆずりだったりして」

 ジェイは懐から書状を取り出し、サヴィトリに見せつけた。
 クベラの紋章と、タイクーンのみが使用できる金翅鳥の紋章が押印されている。
 中央にでかでかと「お前は死んでもいいから、絶対にサヴィトリを守れ」とジェイが言ったとおりのことが書かれていた。

 自然とサヴィトリの口元に笑みが浮かぶ。

「あ、このことは内緒でお願いね。勅命見せびらかした、なんてバレたら給料減らされちゃう」

 ジェイは肩をすくめ、立てた人差し指を唇に押し当てた。
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