「強制発情」の淫紋持ち令嬢ですが、尻尾ひとつ動かさない潔癖騎士の旦那様に愛されたい

甘酒

文字の大きさ
上 下
10 / 10
オズウェル視点2

オズウェルside2 妻が可愛すぎて毎夜さらに悶々としそうで先が思いやられる

しおりを挟む
(毎夜絞り取られる、か。情けないが、あの不届きな噂が真になるかもしれないな)

 腕枕で眠るメリナの薄桃色の髪をくしけずりながら、オズウェルはぼんやりとルーカスの言葉を思い出した。

 メリナは初めてだというのに、愛撫もそこそこに挿れてしまった。失態だ。
 行為の時のメリナは、どの瞬間を切り取っても煽情的だった。非常に抗いがたい。本人にまるで自覚がなさそうなのもいけない。

「……なにか噂があるのですか?」

 メリナが眠そうに目をこすりながら、ふにゃふにゃとした口調で尋ねた。

 いつから起きていたのだろう。というか俺は口に出していたのか? とオズウェルの心臓がさっと冷える。

「噂などない」
「でもいま――」
「なんでもない!」

 無策なオズウェルは無理やり声を荒げて押し切った。

「それより、その、体調は問題ないか」
「? はい!」

 メリナは不思議そうな顔をした後、にこっと笑って答えた。

 下穿《したば》きだけでも着ておくべきだったとオズウェルは後悔する。精通し始めの時だとてこんな些細なことで反応したりはしない。

 とりあえず気休めに、尻尾を身体の前に持ってきて隠すことにした。

「オズウェル様?」

 メリナのいぶかしげな視線が突き刺さる。

 オズウェルは無表情を通し、すり替える話題はないかと視線を巡らせた。

 といっても見慣れた私室に目を引くものはない。どうしても目の前にいるメリナに瞳が吸い寄せられた。
 夫婦とはいえ不躾《ぶしつけ》に見るべきでないとは思いつつ、華奢《きゃしゃ》で柔らかな身体を観察してしまう。

「あの、どうかしましたか……」

 見られていることに気付いたメリナは胸元を腕で隠し、もじもじとする。

「いや、少し気になることが」

 オズウェルは顎を撫で、メリナの下腹部を注視した。被ったシーツが影になっているせいでわかりにくいが、何かが違った。

 場所が場所だけに、メリナはぱっと手で隠してしまう。

「確認させてくれ。印が先ほどと異なるように見えるのだが」

 オズウェルはメリナの返答を待たず、横向きに寝ていた身体を開いた。

 ハートに棘が巻き付いたような紋様だったはずだが、そこから棘が綺麗に消えてしまっている。

「もしかしたら、印の効力がなくなったかもしれません」

 自分でも印を確認したメリナは、翡翠色の瞳を見開いた。

「どういうことだ?」
「その……心から愛する方と結ばれると効力が消えるかも、という言い伝えがあって」
「何故それを早く言わなかった」

 思わずきつい言い方になってしまった。
 メリナは身体を縮こめ、眉尻を下げる。

「ごめんなさい。すべては私のわがままです。印を消すための義務感ではなく、オズウェル様には純粋に愛してほしくて」

 オズウェルの胸に手を当て、潤んだ上目遣いで見つめた。

「君はどこまで俺を煽れば気が済むんだ」

 オズウェルはわざとらしく息を吐き、メリナを抱きしめる。

「はい? え、あ……」

 何かに気付いたらしいメリナは顔を赤くし、うつむいた。

「後日、完璧で完全に安全が保障された状況で、本当に効力がなくなったのか試してみよう。君さえ嫌でなければ、ルーカスに手伝わせるのがいいだろう」

 領内で明確に印に当てられた者はルーカスだけだ。

 オズウェル自身は当てられているのかどうなのか定かではない。少なくともルーカスが陥ったように、目が合っただけで見境なくはならない――正直いまは怪しいところではあるが。意思がねじ曲げられている感覚はないので、誰もが持ちうる情欲の範疇《はんちゅう》だと思われる。

「私のこと、怖がったりしていないでしょうか」
「むしろあんなことがあって恐縮していたくらいだ。女性を恐ろしい目に遭わせてしまったとな」

 いわゆる色事師《いろごとし》を自称するルーカスとしては相当ショックだったらしい。反省のあまり出家を考えるほどの勢いだった。

「印が消えたのは喜ばしいことだが、もう少し俺の腕の中に閉じ込めておきたい」

 オズウェルはメリナの首元に顔を埋め、それとなく水を向ける。

「……オズウェル様って、意外とそういう恥ずかしいことをさらっと言えちゃうタイプだったんですね」
「本心に恥ずかしいも何もないだろう」
「聞いている私が恥ずかしいのでもう大丈夫です!」
「なに、まだあと丸一日以上残っている。音を上げるのは早いぞ」
「何するつもりなんですか……?」
「そういえば俺の気を引くために色々してくれたそうだな。せっかくだし、それをもう一度やり直してもらおうか」
「もうしません! 思い出すだけでも恥ずかしいんですよ!」
「どうしても?」
「……オズウェル様が深夜に一人でこそこそと何をしていらしたのか教えてくださるなら、ちょっとだけ」
「っ……少し、考える時間をくれ」

 後日ルーカス経由ですべて暴露され、今の比でないくらい頭を抱えることになるのを、この時のオズウェルにはまだ知る由《よし》もなかった。

<終>
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

洗浄魔法はほどほどに。

歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。 転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。 主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。 ムーンライトノベルズからの転載です。

触れても伝わらない

河原巽
恋愛
王都から離れた地方で暮らしていた猫の獣人マグラは支部長自らの勧誘を受け、王立警護団第四支部に入団する。 入団初日、支部の詰所で甘い香りを放つエレノアと出会うが、同時に男の匂いをべったりと付けている彼女に苛立ちを覚えるマグラ。 後日、再会した彼女にはやはり不要な匂いが纏わり付いている。心地よい彼女の香りを自分だけのものだと主張することを決意するが、全く意図は通じない。 そんなある日の出来事。 拙作「痛みは教えてくれない」のマグラ(男性)視点です。 同一場面で会話を足したり引いたりしているので、先に上記短編(エレノア視点)をお読みいただいた方が流れがわかりやすいかと思います。 別サイトにも掲載しております。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リス獣人のお医者さまは番の子どもの父になりたい!

能登原あめ
恋愛
* R15はほんのり、ラブコメです。 「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」  診察室に入ってきた小柄な人間の女の子リーズはとてもいい匂いがした。  せっかく番が見つかったのにリス獣人のジャノは残念でたまらない。 「診察室にお相手を呼んでも大丈夫ですよ」 「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」 * 全4話+おまけ小話未定。  * 本編にRシーンはほぼありませんが、小話追加する際はレーディングが変わる可能性があります。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

処理中です...