「強制発情」の淫紋持ち令嬢ですが、尻尾ひとつ動かさない潔癖騎士の旦那様に愛されたい

甘酒

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メリナ視点2

メリナside2-3★ 旦那様は大きなワンコ? 黒い狼?

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 メリナがオズウェルの私室に入るのはこれが初めてだった。
 夫婦の寝室の他にそれぞれ私室を一部屋持っている。逆にメリナは、オズウェルを私室に入れたことがない。

 厳めしい装丁の書物が納められた本棚が四つと、書見のための机。木製のテーブルと椅子が二脚。壁際には仮眠用と思われるシングルサイズのベッドが置かれている。どれも実用重視のデザインで飾り気は一切ない。

 オズウェルによってベッドに腰かけるように降ろされたメリナはどうしても落ち着かず、無駄に周囲を見回してしまう。胸に手を当てると、キスされた時ほどではないがぐどくどくと速いペースで心音を刻んでいる。

 当のオズウェルは「少し待っていてくれ」とだけ言い残して部屋から出て行ってしまった。

(やっぱりお酒を飲んでいらしたのね)

 テーブルの上に複数のグラスと酒瓶、食べかけの酒肴と思しき物が置いてあるのが目につく。

(お酒の勢い、ということではないわよね……?)

 一人でいると悪い方にばかり考えが向かってしまう。
 メリナは頭を強く揺らし、被害妄想を振り払った。

 そんなことをしているうちに、がちゃりと扉が開いた。

「……妙に緊張するな」

 メリナの姿を認めるなり、オズウェルは気まずそうに目蓋を伏せた。それに連動して耳と尻尾がやや下がる。

「えっ、動いた!」

 見たそのままを口にしたメリナは、慌ててはっと口を押えた。

 よくよく見てみると、オズウェルの髪がほんのりと湿っている。いつもより艶めき乱れた髪は野生的で、狼らしさを強めていた。

「普段は整髪料で固めている。完全に固まるわけではないが、細かな動きはだいぶ抑えられる」

 オズウェルは後ろ手で扉の錠を閉め、メリナの隣に座る。ベッドの上で、尻尾の先だけが小刻みに揺れていた。

「尻尾には、行動の妨げにならない程度の重しをつけている」

 メリナを視線を感じ取ったのか、オズウェルは尻尾を押さえつけた。

「どうしてそんなことを」
「もともと、君と出会う以前からしていることだ。これのせいで心や動きが読まれる。特に俺は狼族だというのに尻尾が揺れやすくてな」
「私と二人だけの時や、一緒に眠る時もそうしていらしたのですか?」

 メリナの声が不安定に揺らぐ。
 つまり、今までオズウェルに心を開いてもらえていなかった、ということだろうか。

「それは……明け透けになったら困るだろう!」

 オズウェルはやや上擦った大声をあげ、頭を抱えた。

「君が俺を選んでくれたのは、おそらく他の者より印の影響が少ないように見えたからだろう。だというのに、君の一挙一動に発じょ――いや、心を、奪われていては、軽蔑や失望されるのではないか、と」

 オズウェルの手からするりと尻尾が逃げ、身を守るように腰のあたりに巻きつく。

「そんなにも私のことを思ってくださっているのに、軽蔑も失望もするわけないじゃないですか」

 メリナは先ほどとは違う理由で声を揺らし、オズウェルに抱きついた。人間のものよりも少し高い位置にある、三角形の獣耳に唇を寄せる。

「明日までお休みでしょう? もっと知りたいです、オズウェル様のこと。私のことも、もっと知ってほしい」

 オズウェルの耳がくすぐったそうにぴくりと動く。

 紅玉の瞳と視線がぶつかった。

 両方の手首をつかまれる。身体にオズウェルの重さがかかった。そのままベッドに倒れ込む。背中がぶつかった衝撃で一瞬だけ息が詰まる。

 互いの距離が消えた。唇が重なる。息ができない。

「自覚があるのかないのか、君はすぐに俺をその気にさせるから困る」

 言葉とは真逆の表情をしたオズウェルは、空気を求めて開いたメリナの口に舌を深く入り込ませた。
 舌が擦れるたびに、ぴちゃ、ちゅっ、と微かな水音が内側からメリナの鼓膜を揺らす。胸が熱く苦しくなり、全身に熱が広がっていく。

「んっ……今まで、その気になっているようには見えませんでしたけれど」

 ほんの少しの恨みを込めて、メリナはオズウェルをねめつける。いくらか血色は良いが、オズウェルの顔には余裕があるように見えた。

「君に悟られまいとひた隠しにしていたからな。俺がどれだけ夜な夜な――」

 オズウェルははっと口元を押さえ、物理的に言葉を止めた。

「夜な夜な? そういえば、夜中になると三十分から一時間ほど、どこかにお出かけになっていましたね」
「その話はやめよう」

 オズウェルから余裕が消え去り、代わりに焦りがにじむ。視線が泳ぎ、急に耳と尻尾がそわそわと動き出した。

(これは確かに、動きを押さえていないと領主や団長としての威厳が保てないかも。可愛いけど)

 メリナは頬が緩むのを抑えられない。

「やましいことをなさっていたんですか?」
「やま……まぁ、なんだ、本当にやめよう。君が心配するような不貞行為では決してない。それだけは断言できる」
「不貞行為ではないけれど、やましいこと?」

 中途半端にヒントを与えられたせいで余計に気になる。
 今までオズウェルの口数が少なかったのも、本当は口が滑りやすいから喋らなかっただけなのかもしれない。

「そこまでだ」

 オズウェルはため息混じりに囁き、メリナの耳に歯を立てた。

「きゃっ!」
「俺のことより、君のことを教えてくれ」

 オズウェルは耳から首にかけて唇を落としていきながら、器用に爪の先でドレスの留め具を外した。

「どこをどうされるのが一番感じるのか」

 ドレスがするりと腰まで滑り、肌が外気に晒される。

 メリナが隠す間もなく、オズウェルの大きな手が胸に触れた。爪が当たらないよう、手のひらでゆっくりと押し上げる。
 人間と違って肉球があるため不思議な弾力があった。日頃から剣を握っているせいか皮膚がやや硬い。

「あっ……ぁ……」

 メリナはか細く喘ぎ、切なく唇を噛みしめた。
 好きな人に触れてもらえた嬉しさと、自分のありのままを見られる恥ずかしさがメリナの中で拮抗《きっこう》する。

「君ならこちらの方が好きかもしれないな」

 オズウェルは薄く笑い、漆黒の毛皮に覆われた手の甲でメリナの鎖骨をなぞった。そこから胸の間を撫でおろし、膨らみをさわさわと刺激する。

「ぅぅん……はぁ……くすぐったい、です……」

 メリナは強くシーツを握りしめ、身体をよじらせた。
 漆黒の毛は見た目よりも当たりが柔らかく、くすぐったさとは別の何かも掻き立てられる。

「くすぐったいだけ?」

 オズウェルと目を合わすと自覚していないものまで見抜かれてしまいそうで、メリナは不自然にならないように視線をそらした。

「素直なことだ」

 オズウェルはメリナの胸を覆うように手を当て、人差し指と中指の側面で先端をきゅっとつまんだ。

「あぁんっ!」
「言葉でも教えてもらいたいのだがな」

 オズウェルは愛撫を続けながら、もう片方の胸にくちづける。曲線に沿って舌を這わせ、固く色付いた中心を口に含んだ。

「はぁ……あぁっ、オズウェルさま……!」

 胸を突き出すようにメリナの背中が意図せず反れる。

 オズウェルが触れたところだけでなく、淫紋のあたりにも同時に痺《しび》れが走った。
 まさかこれも呪いの一種なのだろうか、と不安がよぎる。
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