1 / 10
メリナ視点1
メリナside1-1 尻尾ひとつ動かさない旦那様に愛されたい
しおりを挟む
「はぁ? いまだに旦那様と添い寝しかしていないんですか」
「しー! 声が大きい!」
しかめっ面をしている侍女のノーラの口に、メリナは立てた人差し指を近付けた。
週に一度、メリナの私室で催される二人だけの秘密のお茶会であるため、他に人はいない。それでも、どこからか今の会話が漏れてしまわないかメリナは心配だった。
「旦那様と喧嘩でもなさったのですか?」
ノーラの問いに対し、メリナはうつむき、いじいじと自分の髪を指に巻き付ける。赤毛混じりの金髪は光の加減によって淡い桃色に見えた。
「喧嘩はしていない、と思う。オズウェル様は口数の少ない方だから、もしかしたら気付かないうちに機嫌を損ねていたのかも」
夫であるシリル州伯《しゅうはく》オズウェル・シャムスの冷たくも精悍《せいかん》な顔を思い出し、メリナはため息をついた。
嫁ぎ先であるカダル帝国と、メリナの生国とは爵位が異なる。「州伯」というのは侯爵に相当するものらしい。
オズウェルは統治するシリル州の騎士団長も兼ねている。そのせいなのか、他人に厳しく、自分にはさらに十倍厳しい人だった。
「もしかして旦那様のこと苦手なのですか、お嬢様」
昔の呼び方が抜けないノーラは、言い終えてから慌てて「奥様」と言い直す。
ノーラの母がメリナの乳母であったため、彼女とはほとんど姉妹のような間柄だ。他国に嫁ぐメリナを心配し、半ば強引に同行してしまうくらい過保護なところがあった。
「まさか! 大好きよ!」
メリナは興奮のあまり、テーブルに手をついて立ち上がった。
繊細な作りのティーセットや、焼き菓子や軽食の乗ったケーキスタンドがかちゃかちゃと音を立てて揺れる。
ノーラがしたり顔をしているのに気付き、メリナは遅まきながら自分が「言わされた」ことを知った。じわじわと熱を帯びる頬を押さえ、静かに着席する。
「あの日、私のことをちゃんと見てくださったのは、オズウェル様だけだもの」
メリナはドレス越しに下腹部を押さえ、目蓋を伏せた。
服の下には、生家であるバートレット伯爵家に代々受け継がれてきた呪いの印がある。
「しー! 声が大きい!」
しかめっ面をしている侍女のノーラの口に、メリナは立てた人差し指を近付けた。
週に一度、メリナの私室で催される二人だけの秘密のお茶会であるため、他に人はいない。それでも、どこからか今の会話が漏れてしまわないかメリナは心配だった。
「旦那様と喧嘩でもなさったのですか?」
ノーラの問いに対し、メリナはうつむき、いじいじと自分の髪を指に巻き付ける。赤毛混じりの金髪は光の加減によって淡い桃色に見えた。
「喧嘩はしていない、と思う。オズウェル様は口数の少ない方だから、もしかしたら気付かないうちに機嫌を損ねていたのかも」
夫であるシリル州伯《しゅうはく》オズウェル・シャムスの冷たくも精悍《せいかん》な顔を思い出し、メリナはため息をついた。
嫁ぎ先であるカダル帝国と、メリナの生国とは爵位が異なる。「州伯」というのは侯爵に相当するものらしい。
オズウェルは統治するシリル州の騎士団長も兼ねている。そのせいなのか、他人に厳しく、自分にはさらに十倍厳しい人だった。
「もしかして旦那様のこと苦手なのですか、お嬢様」
昔の呼び方が抜けないノーラは、言い終えてから慌てて「奥様」と言い直す。
ノーラの母がメリナの乳母であったため、彼女とはほとんど姉妹のような間柄だ。他国に嫁ぐメリナを心配し、半ば強引に同行してしまうくらい過保護なところがあった。
「まさか! 大好きよ!」
メリナは興奮のあまり、テーブルに手をついて立ち上がった。
繊細な作りのティーセットや、焼き菓子や軽食の乗ったケーキスタンドがかちゃかちゃと音を立てて揺れる。
ノーラがしたり顔をしているのに気付き、メリナは遅まきながら自分が「言わされた」ことを知った。じわじわと熱を帯びる頬を押さえ、静かに着席する。
「あの日、私のことをちゃんと見てくださったのは、オズウェル様だけだもの」
メリナはドレス越しに下腹部を押さえ、目蓋を伏せた。
服の下には、生家であるバートレット伯爵家に代々受け継がれてきた呪いの印がある。
11
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説


番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
洗浄魔法はほどほどに。
歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。
転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。
主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。
ムーンライトノベルズからの転載です。

触れても伝わらない
河原巽
恋愛
王都から離れた地方で暮らしていた猫の獣人マグラは支部長自らの勧誘を受け、王立警護団第四支部に入団する。
入団初日、支部の詰所で甘い香りを放つエレノアと出会うが、同時に男の匂いをべったりと付けている彼女に苛立ちを覚えるマグラ。
後日、再会した彼女にはやはり不要な匂いが纏わり付いている。心地よい彼女の香りを自分だけのものだと主張することを決意するが、全く意図は通じない。
そんなある日の出来事。
拙作「痛みは教えてくれない」のマグラ(男性)視点です。
同一場面で会話を足したり引いたりしているので、先に上記短編(エレノア視点)をお読みいただいた方が流れがわかりやすいかと思います。
別サイトにも掲載しております。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
リス獣人のお医者さまは番の子どもの父になりたい!
能登原あめ
恋愛
* R15はほんのり、ラブコメです。
「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」
診察室に入ってきた小柄な人間の女の子リーズはとてもいい匂いがした。
せっかく番が見つかったのにリス獣人のジャノは残念でたまらない。
「診察室にお相手を呼んでも大丈夫ですよ」
「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」
* 全4話+おまけ小話未定。
* 本編にRシーンはほぼありませんが、小話追加する際はレーディングが変わる可能性があります。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜
水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。
目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。
女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。
素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。
謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は…
ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる