並行時空十二天将夢幻譚

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)

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第1章 似て非なるは表裏一体

1.最凶の武神⑨

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空が青い。

気分を変えたくて外に出た感想がそれだ。
ここへ来た時にも感じた。頬を撫でる風と澄んだ空気。どこまでも青く抜ける空の色。
外に出れば気分も落ち着いて、あわよくば元の場所に戻ってましたなんて事が起きないかと期待したのもある。
実際はそんな事は起こらなかったが……

「現実だよなぁ……さて、これからどうすればいいか、だよな」

理想は元の場所に帰る。それが第一前提だ。
が、ラノベや漫画でもよく見たが、こういう現象において、対象者(この場合、俺)が帰れた(帰れる)例はない。100%ではないから、勿論、そっちの道はきちんと探すが、問題は、それが見つかるまで(最悪、ない場合)の在り方だ。
こちらでの俺の立場は流人と呼ばれる存在。罪人とは違うようなので酷い扱いをされる事はないようだが、ある程度の拘束こうそくは受けるようだ。平たく言えば、異端者いたんしゃ扱いが最も適切か…
突然現れた異端者は、問答無用で切り捨て!なぁんて事もありえたわけで、それに関しては、まぁまだ審問しんもんにかけるくらいの考えがある場所で良かったと思った。

「いきなり殺され………」

かけたんだよな?
そういえば、目が醒めるなりいきなり攻撃されたんだ。
庇われもされたので、死にはしなかったが痛い思いはしたし、あの石飛礫つぶてはかなり痛かった。
訳もわからず敵意ぶつけられるわ、邪魔者扱いされるわ、胡散うさん臭いもの扱いされるわ、迫られるわ……よくよく考えたら、散々な思いしかしてなくないか?

「そもそも、俺って何でこんな場所にいるわけ?なんの前触れもなくいきなりこんなのって……」

巣から落ちた鳥を助けただけだ。それ以外何もない。
助ける前と後の記憶も曖昧あいまい
これからの事で不安と、若干の憂鬱ゆううつ感は感じていたが、だからと言ってこんな訳分からん状況を望んではなかった。
帰りたいか帰りたくないかで言えば、帰りたいが勝つ。
帰ったところで、何かあるわけではない。産まれてすぐに施設の前に置いておかれた俺に、親兄弟はない。所謂いわゆる孤児こじというやつだ。居なくなっても、特に騒ぎにもならないだろう。
施設の人や友人は薄情ではないが、大袈裟に騒ぎ立てることはないはず…
だから、が非でも帰りたい訳ではないが、妙な今の状況に比べれば、やはり慣れ親しんだ現実に戻りたいと思うのは人のさがと言える。

駄目だ。

気分変えたくて外に出たのに、余計に気が沈む。

「阿秀」
「はい、何でしょう?」
「え、、っと、匂陣や騰蛇達が使ってた~……ご、ぎょう?だっけ?あれってさ、何?」
「ひなた殿のところにはないものですか?」
「うん、ない、、かな」

そもそも、ここへ来てから聞くもの見るものみな初めてだらけだ。何となく似ているというものはあっても、見知ったものとはどこか違う。
こういうの何て言ったか?
並行世界・並行時空パラレルワールドだったか?
自分が住む世界の裏側には、それと良く似た別な世界がある、、、だっけ?
ただ、まったく同じというわけではないようだけど、似てる所はかなり似てるから、頭が混乱してくる。

「ごぎょうとは……ッッッ!!ひなた殿!お下がり下さい!!!」
「へ?うわっ⁈な、な、何⁈」
「”へき”!!」

俺の前へと回り込んだ阿秀が叫ぶと同時に、両手の平を前へ押し出すような動き。
地面がボコッと盛り上がり、黒い塊が飛び出した。
突き出した阿秀の手との間に見えない壁のような物があるかのように、飛び出したがぶつかる。
ギョロッとした目に、ギーギー奇声を発する口、裂け上がった口にはギザギザの歯が並び、異様に飛び出た腹は、何度見ても醜悪しゅうあくとしか言い様のない……

「ま、また⁈」
「邪餓鬼……!”璧”ッ!」

阿秀が叫び、俺の横から飛びかかろうとした邪餓鬼に向かい更に手の平をかざす。
ガッと鋭く硬いものに当たったかのような音がして、邪餓鬼が弾き飛ばされた。
見えない衝撃に阿秀がよろけ咄嗟に支える。

「阿秀⁉︎」
「も、うしわけありません、大丈夫です」
「ここ来た時にも襲われたけど、あれ、何なわけ⁈」
「邪餓鬼です。位階は最下の魔障ましょうなれど、防衛の行しか使えない私では手に負えない。何とか、隙を作ります。お逃げ下さいませ!」

聞き慣れない言葉の羅列に、問いたいが実際はそれどころじゃない。第一隙と言っても、周りを見渡せば地面が次々盛り上がり、ギーギー泣きながら邪餓鬼が這い出してくる始末だ。
とてもじゃないけど逃げる隙なんかありそうにない。
それに………

「無理だ!」
「ひなた殿?」
「隙を作ってもらったところで、俺、逃げないから」
「何を仰せですか⁈」
「子供に任せて1人逃げるなんてできねぇって言ってんの!」

ぐるっと見渡せば、取り囲むように邪餓鬼がジリジリ這い寄る。
気持ち悪いし怖いし、本能は逃げたがってしようがないが、こんな中に、阿秀1人残すなんてそれこそできない。

「ひなた殿は流人とはいえ、王城よりの預かりです!私には御守りする義務が……」
「1人置いてくなんて絶対できないッ!」

阿秀の言葉を遮り、思いっきり叫ぶ。

「1人……置いてかれる寂しさ、悲しさ、怖さは、俺自身が知ってる……だから、無理だ!」
「ひなた殿……ですが、これでは、、いッ!!」

俺と阿秀の間を裂くように邪餓鬼が割って入る。
爪か何かで引き裂かれた阿秀の腕から血飛沫ちしぶきが上がった。

「阿しゅ、、ッ、ぅわっ⁉︎」

ズンッと体が前に沈み込む。
背中にのしかかる重み。ギーギー聞こえる声。生臭い匂い。
あ……これ、、、、、詰んだかも。
思わずギュッと瞑る目。生温かい息が顔の横にかかり、強烈な怖気おぞけに身を震わせる。

「”れつ”」
「ッッッ!」

凛とした声が耳に届く。
硬く閉じていた目を開いた俺の目に、霧散する邪餓鬼の姿が飛び込み、赤い煌めきを纏う紫の光彩が交錯した。











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