118 / 119
第4章 白花の聖女
5.黒と白⑪
しおりを挟むムカつく。
何がって、全部だ。
訳も分からず、こんな所に居るのもムカつくし。
妙な立場を俺につけた奴らもムカつく。
望んでもないそれに、分不相応だと責めるジークレイドの事もムカつく。
まるで何も出来ない者かのように庇うカイザーや、フィオリナを始めとした周りの者みな、全てにムカついて……
何より、、、、、
何も出来ない、言い返す事さえ出来ない、出来る何かすら持たない。そんな俺が俺自身に一番腹が立つ!
何も持たないと考えたところでふと、我に返った。
ここへ、この世界へ来る前の事だ。
確か、家の蔵に居て……
蔵に居て、何してたっけ?記憶が妙に曖昧になっている。
必至に記憶を探り、何かを手にしたようなとまで思いだし……
「カイザー」
シャイアのカイザーを呼ぶ声で、再びハッとなった。
腕組みしたまま歩み寄るシャイアに、カイザーが渋面で応じた。
「カイザー。確かにあれの言動は到底許されるものではないが、一部言っている事はもっともだぞ?マヒロは聖獣妃。それはここにいる者皆認めている。だが、あれの言う通り、万人を納得させ認めさせるにもっとも必要な物が欠けているのも事実だ」
理路整然に語るシャイアに、カイザーがいつも以上に厳しい顔で対峙。
誰だろうと認める物。それがおそらく(というか絶対?)ずっと言われ続けている聖獣石とやらなのだろう。
そもそも俺が聖獣妃なら、その聖獣石とやらを持っていないというのは何故なのか……
持っていない俺を、何の疑いもなく認めてくれているのにも困惑だ。
疑われたいわけじゃない。わけじゃないが、手放しに信頼されても困る。
結局は、どう扱われようとも、俺自身が自分の立場を納得できてないのが一番の理由で……
そうなると、証とやらが必要というのも理解できる話だ。
「マヒロに最初に会った時に何故確認しなかったのだ?」
「無茶を言うな。初見でマヒロが聖獣妃だなどと思うわけがない」
シャイアの問いに、カイザーが苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
もっともだ。
俺自身そんな者のつもりはなかった。あの時点で、聖獣妃かなどと聞かれた上、丁重に扱われでもしたら新手の詐欺か何かかと、状況が状況なだけに冷静じゃいられなかっただろう。
第一、会ったのはいきなり森の中で……
そこまで思い立ち、ふと気付いた。
鎮寂の森。
よくよく考えたら、俺とカイザーが出会った最初の場所だ。
蔵に居たはずの自分が、いきなり居たのがその場所。
薄ぼんやりと思い浮かぶのは、蔵で何かを手にした事。あの時、手にした何かがそうなのだとしたらあの森に?
今のままじゃ、俺の立場は宙ぶらりんのまま。
だったら、いっそのこと行ってみるべきでは?
「カ……………………」
「イザー」と続きかけた言葉を途中で止める。
『ふん!結局、自分では何もできないわけか?聖獣妃と呼ばれし者が、周りに庇護されるばかりで成り立つとはな。情けないとは思わないのか?男のクセに!!』
思いだしたのは先程ジークレイドから向けられた言葉。
思い返せば思い返すほど、イラっとした。
ムカつく!
ムカつく、、、が、確かにあいつが言うことももっともだ。
聖獣妃なんぞと呼ばれてはいるが、俺は間違いなく男。
守られてばっかは癪に障るし、自尊心が傷つく。
それに、こんな言い方はしたくないが、守って欲しいなんて言った覚えはない。
まぁ、一方的に責められる謂れもないけどな!
ちらっと、カイザー達を見るが、まだ難しい顔で話し合ってる。
ここに来たばかりは頼るしかなかった。
でも、今は状況が違う。
グッと唇を噛みしめるごとに、自分の中でムクムクと湧く負けん気が感じられる。
自分で言うのもなんだが、元来、大人しい方じゃないのだ。
やられっぱなしの言われっぱなしは我慢ならない!
自分の中でやるべき事、やらなきゃならない事が決まる。
絶対、、、やる。
静かに決めたそれを内に秘め、ギュッと硬く拳を握りしめた。
1
お気に入りに追加
3,895
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる