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第4章 白花の聖女
5.黒と白⑪
しおりを挟むムカつく。
何がって、全部だ。
訳も分からず、こんな所に居るのもムカつくし。
妙な立場を俺につけた奴らもムカつく。
望んでもないそれに、分不相応だと責めるジークレイドの事もムカつく。
まるで何も出来ない者かのように庇うカイザーや、フィオリナを始めとした周りの者みな、全てにムカついて……
何より、、、、、
何も出来ない、言い返す事さえ出来ない、出来る何かすら持たない。そんな俺が俺自身に一番腹が立つ!
何も持たないと考えたところでふと、我に返った。
ここへ、この世界へ来る前の事だ。
確か、家の蔵に居て……
蔵に居て、何してたっけ?記憶が妙に曖昧になっている。
必至に記憶を探り、何かを手にしたようなとまで思いだし……
「カイザー」
シャイアのカイザーを呼ぶ声で、再びハッとなった。
腕組みしたまま歩み寄るシャイアに、カイザーが渋面で応じた。
「カイザー。確かにあれの言動は到底許されるものではないが、一部言っている事はもっともだぞ?マヒロは聖獣妃。それはここにいる者皆認めている。だが、あれの言う通り、万人を納得させ認めさせるにもっとも必要な物が欠けているのも事実だ」
理路整然に語るシャイアに、カイザーがいつも以上に厳しい顔で対峙。
誰だろうと認める物。それがおそらく(というか絶対?)ずっと言われ続けている聖獣石とやらなのだろう。
そもそも俺が聖獣妃なら、その聖獣石とやらを持っていないというのは何故なのか……
持っていない俺を、何の疑いもなく認めてくれているのにも困惑だ。
疑われたいわけじゃない。わけじゃないが、手放しに信頼されても困る。
結局は、どう扱われようとも、俺自身が自分の立場を納得できてないのが一番の理由で……
そうなると、証とやらが必要というのも理解できる話だ。
「マヒロに最初に会った時に何故確認しなかったのだ?」
「無茶を言うな。初見でマヒロが聖獣妃だなどと思うわけがない」
シャイアの問いに、カイザーが苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
もっともだ。
俺自身そんな者のつもりはなかった。あの時点で、聖獣妃かなどと聞かれた上、丁重に扱われでもしたら新手の詐欺か何かかと、状況が状況なだけに冷静じゃいられなかっただろう。
第一、会ったのはいきなり森の中で……
そこまで思い立ち、ふと気付いた。
鎮寂の森。
よくよく考えたら、俺とカイザーが出会った最初の場所だ。
蔵に居たはずの自分が、いきなり居たのがその場所。
薄ぼんやりと思い浮かぶのは、蔵で何かを手にした事。あの時、手にした何かがそうなのだとしたらあの森に?
今のままじゃ、俺の立場は宙ぶらりんのまま。
だったら、いっそのこと行ってみるべきでは?
「カ……………………」
「イザー」と続きかけた言葉を途中で止める。
『ふん!結局、自分では何もできないわけか?聖獣妃と呼ばれし者が、周りに庇護されるばかりで成り立つとはな。情けないとは思わないのか?男のクセに!!』
思いだしたのは先程ジークレイドから向けられた言葉。
思い返せば思い返すほど、イラっとした。
ムカつく!
ムカつく、、、が、確かにあいつが言うことももっともだ。
聖獣妃なんぞと呼ばれてはいるが、俺は間違いなく男。
守られてばっかは癪に障るし、自尊心が傷つく。
それに、こんな言い方はしたくないが、守って欲しいなんて言った覚えはない。
まぁ、一方的に責められる謂れもないけどな!
ちらっと、カイザー達を見るが、まだ難しい顔で話し合ってる。
ここに来たばかりは頼るしかなかった。
でも、今は状況が違う。
グッと唇を噛みしめるごとに、自分の中でムクムクと湧く負けん気が感じられる。
自分で言うのもなんだが、元来、大人しい方じゃないのだ。
やられっぱなしの言われっぱなしは我慢ならない!
自分の中でやるべき事、やらなきゃならない事が決まる。
絶対、、、やる。
静かに決めたそれを内に秘め、ギュッと硬く拳を握りしめた。
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