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第4章 白花の聖女
5.黒と白⑩
しおりを挟む「カイザー………ーーーーーーーーーーーーー」
マヒロから遮るように、ジークレイドとの間に立つ。
僅か揺れる声音で名を呼ばれ、胸の内に苦々しいものが込み上げた。
自分でも分かっている。
庇いだては無意味だ。庇えば庇うほど、ジークレイドはマヒロを非難するし、マヒロはどんどん自分を確立できなくなる。
それでも……
「ふん!結局、自分では何もできないわけか?聖獣妃と呼ばれし者が、周りに庇護されるばかりで成り立つとはな。情けないとは思わないのか?男のクセに!!」
最早、辛辣さも敵意も明け透けに、ジークレイドがマヒロを攻撃する。
背後から、ヒュッと小さく息を呑む音が聞こえた。
「やめろ、ジークレイド」
「やめる?何をだ?俺は、聖獣妃たる自覚も、それを確証できるものも持たないその者に正しているだけだ」
胡散くさいものでもあるかのように、マヒロを見るジークレイドに対して怒りが込み上げる。
昔の俺なら、ジークレイドとまではいかずとも、似たり寄ったりな感情を、マヒロに対して思ったかもしれない。
それぐらいに、聖獣妃には重きを置いていた。
が、今は………
「やめて下さいませ!ジークレイド」
自分の中に一瞬立ち上がった仄暗い感情が、静かに凛とした声音に掻き消され、ハッと我に返った。
静かに、それでいて澄んだ空気を纏わせ、フィオリナが厳しい顔でジークレイドとマヒロの間に立つ。
「リーナ。君まで何を言……」
「聖獣妃聖下」
ジークレイドがみなまで言うのを待たず、フィオリナがマヒロに対面し、両肩から纏うベールの両裾を手で持ち、広げるように捧げ持って跪く。
貴族の淑女の最上最高位で、最大の謝辞の礼だ。
戸惑ったように、マヒロが何を言いどうすれば良いのかという仕種で俺を見る。
フィオリナの対応にも、それをさせているジークレイドに対しても、苦々しいものしか感じず溜め息しか出ない。
「聖獣妃聖下、度重なる対の非礼お詫びいたします!対極を成す者として、このような無礼千万を許しました罪、万死に値致しますわ!どうか、対を止めることも出来なかったこの私をお責め下さいませ!」
「リーナ!何故だ⁈君がそんな事する必要ないだろう⁈悪いのは、この恐れ多くも聖獣妃を騙る……」
「やめよ、ジークレイド。どう考えても、一方的に悪いのは、マヒ…聖獣妃聖下を悪し様に貶したそなただろう?」
「そうそう。マヒロちゃんが聖獣妃じゃないんなら、俺達がここに居る理由はなんなわけ~?」
それまで黙っていたシャイアとジオフェスが揃ってジークレイドを軽く咎めた。
シャイアは不愉快だというように顔を顰め、ジオフェスは顔は笑っているが、目は冷たく冷めきっている。
「はいは~い、2人まで口を挟むとややこしい事になるよ。黙ってようね?まぁ、尤も、私もマヒロは聖獣妃聖下に間違いはないと思ってる。この手の勘に外れた事ないんだ、私。だから、違うって言い張る君の根拠が気になるよねぇ?」
止めるかと思われたエルシアまで応戦する有様だ。
「エルシア!剣聖とまで言われた貴様までとは、嘆かわしい!いいだろう。今は認めてやる!だが、それもいつまでかは分からんぞ?聖獣石を持たぬ聖獣妃など、諸外列国が認めようはずがないッ!!」
「ジーク!!」
咎めるようなフィオリナの声に軽く一瞥をくれ、フンと鼻息も荒くジークレイドが部屋を出て行く。
昔から頑なな面はあったが、ここまでとは……何が奴をここまで駆り立てるのか、見当もつかない。
「相変わらず融通の利かん男だ!あれでよく、聖騎士が務まる」
「俺、あいつやっぱり嫌いだわ。お堅過ぎて疲れる」
「2人とも」
シャイアとジオフェスの2人を、エルシアがシと唇の前に指を立てて窘める。
フィオリナがハァ~と小さく嘆息し、申し訳なさそうにマヒロに再度頭を下げた。
「聖下……度重なる無礼、お許し下さりませ」
「ぁ………、いや…あの、別にいいんだけど、、さ」
フィオリナに謝られ、マヒロが困ったように俺を見る。
マヒロに無礼を働いたのはジークレイドだ。だから、フィオリナが謝るのが解せないのだろう。
「マ……」
「カイザー」
声をかけようとしたのを遮り、シャイアが腕組みしたまま歩み寄ってきた。
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