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第3章 翡翠の剣姫
3.繰り返す運命の輪
しおりを挟む「嫌ッッッ!!」
叫んで睨み据える。
自分らしき、が、よく知る者が声を発していた。
目の前にいる別の誰かに、両二の腕を掴まれる。
まるで癇癪を起こした子どものように体を捩る。
「何で⁈それしかないの?ーーーは?それで、ーーーーったら?ーーーーーーーない!!」
ところどころで言葉が消えて聞こえない。
これは、俺?喋っているのは自分だろうか?目の前の相手が見えない。分からない。
必死に目を凝らすが、ただ白い光の塊にしか映らないその人の姿は見えない。
『ーーーーーーーーーーーー』
何かを発したそれは言葉という音にならず、俺の耳に届かない。
ただ、悲しそうな悔しそうな顔をしているのだけが分かり、伏せていた目を開けた瞬間、俺の両二の腕を掴んだ光の腕に亀裂が入る。
「う、あ、、⁉︎」
ビキッ、バキッ、と鈍く割れていくそれを止められない。
「やっ、、ぃ、、、ッッ!」
慌てて亀裂を押さえる俺の手の下でひび割れがどんどん広がる。
バッと振り仰いだ俺の目に、目の前の相手の顔が急に鮮明になり……
「ーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
轟音と共に風が逆巻く。
抱き止めていた体から放たれた衝撃波で、俺の体が弾き飛ばされた。
受け身を取り構える先で、座り込むマヒロの姿が目に映る。
異変をきたしたマヒロの体が傾ぎ、受け止めた瞬間、突如としてこうなった。一度意識をなくしたはずのマヒロの真紅と黒の明滅を繰り返す瞳。他を圧倒する力。
それに……
「カイザー!」
名を呼ばれそちらへ目を向けると、シャイアが地に剣を突き立て風に耐えている。
「聖下はどうなさった⁈一体、この力は何だ!」
「分からん……マヒロがこうなったのは初めて、で」
そう応えるが、不可解な点は多い。
魔導を測った時にも。神殿の時にも。
「力の暴走……かな?聖獣妃様はよほど繊細なお方らしい」
エルシアが同じく剣で体を支えながら言い、どこか面白そうに笑う。
実際は笑ってられない状況ではあるが。
考えるのは後だ。
マヒロをまずどうにか鎮めないと、城の中で力の暴走は駄目だ。
「聖獣石は?そもそも、それがあれば暴走なんぞ…」
「ない……」
「は?ない?聖獣石がか?」
風の轟音が凄まじく、ほとんど怒鳴るように喋っていたシャイアが、俺の返しに素っ頓狂な声になる。
マヒロに関しての不可解なもの。それもあった。
「聖獣石を持たない聖獣妃など聞いたことがないぞ⁉︎そもそも、聖下は真に聖獣妃でいらっしゃるのか⁈」
「それ以外では条件は満たしている。マヒロは聖獣妃なのは間違いない……」
「だったら、何故?聖獣石はど……」
「2人とも。今は、聖下に静かにしていただくのが先決だよ?質問、お喋りは後でね?」
俺とシャイアのやりとりをぶった斬り、エルシアののほほんとした緊張感をぶち壊すおっとり声。
確かに今はそれどころじゃなかった。
シャイアと話していると調子を狂わされる。
そもそも、シャイアの余計な関わりのせいで、マヒロが誤解してこんな事態になったんじゃないか?
「はいはい。カイザー、また気持ちが別に逸れてるよぉ?シャイアと仲良くしないで、聖下と仲良くね?」
「誰がだ!!マヒロとはお前に心配されずともそうだ!お前らのせいでマヒロがこうなった……」
「はいはいはい。それも後!力の暴走は私とシャイアが抑えるよ。カイザーは聖下を引き戻してね?」
いいようにあしらわれたが納得できん!
言いたい事は山程あるが、今はマヒロをどうにかするのが先なのは確か。元凶の1人に言われるのは気に喰わないが今は仕方がない。
「聖獣妃の力だぞ?抑えられるか?」
「う~、ん、、1人なら無理かな?まぁ、シャイアも居るし。後は2人の聖獣も合わせてなんとか?」
長くは保たないって事か……
間を置かずマヒロを引き戻さないとならない。
溜め息を一つつき、キリと顔を引き締める。
「行くよ、シャイア」
「うん?よく、分からんが…まぁ、分かった!」
「おいで?レット」
エルシアが呼び、胸元が光り白い塊が飛び出す。
真っ白な毛に、首回りと尾の先だけが金毛のキュア・ウィーズル。
エルシアの聖獣だ。
マヒロの聖獣と同じだが、位はエルシアの聖獣の方が上。
「聖獣を出すんだな?来い!メルク」
シャイアが呼び、同じく聖獣が飛び出す。こちらは、翡翠色の毛に、金色の瞳の旋風の聖狐。
俺の炎帝氷帝と並ぶ高位聖獣。
「シャイア。聖下の動きを封じてね?」
「分かった!『エヴァー・プラント』」
風属性の緑の蔦の紋様が四方八方に伸びて、マヒロの体に絡まる。
ギリギリと体に喰い込むように締まっていくそれに、俺の眉間にシワが寄る。
「力が入り過ぎだ!マヒロの体を傷つける気か!」
「馬鹿を言え!!そんなわけなかろう!!木属性のエヴァー・プラントに、メルクの風属性を纏わせての多重属性魔導だ!力が強ければ強いほど込められる力も強くなる。聖下の力が桁違いなのだ!御身を傷つけない為、逆に力を弱めようとしなければならなくて、こちらが余計に魔導を使わされている!」
これだけしか力を使っていないのに、シャイアの息がすでに上がっている。
「では、私も加勢を。『エヴァー・エンシェント・ヴォルト』」
「雷属性⁉︎エルシア、貴様!!」
「大丈夫だよ。威力は微力なまでに抑えてる。痺れる程度だから」
ニッコリ笑うが、こいつの笑みほど信用できないものはない。
「う~、、ん…中々、うん。キツいね」
「早くしろ、カイザー!!エルと2人かがりでも保ちそうにない!!」
ここでも言いたいことはあるが、押し留めてマヒロの元へ駆け寄る。
急いでマヒロの両肩を掴んだ手に、ビリビリと刺すような痛みが走り顔を顰めた。
「マ、ヒロ!正気に戻れ!力を、抑えろ!」
『ァ……………………、……ッ、…』
光彩を無くし、真紅と黒の明滅を繰り返す瞳が僅か揺れる。
嫌だというように首を振り、噛み締めたマヒロの唇が切れて血が流れる。
チッと思わず舌打ちした。
無理やり引き戻すやり方は、いくつかあるにはある。
痛みは与えたくない。苦しませるのは問題外だ。
『レイ、、ド……』
またか。知らない名だ。
と、なれば今のマヒロの状態が見てとれた。
「俺はお前が求めるそいつじゃない。この体はマヒロのものだ。悪いが出て行ってもらおうか」
冷静、且つ、敢えて冷たく言い放つ。
マヒロだけだ。他を構うつもりも、どうにかしてやりたいとも思わない。
「返せ」
マヒロの顔がクシャリと歪み、泣きそうに眉が潜めらた。
さすがに見た目がマヒロなだけに怯みそうになる。
ハァッと溜め息をつき、マヒロの頬に手の平をあてる。
「返してくれ……頼むから」
優しく諭すように言うと、マヒロ(の体にいる誰か)が俺の両肩に手をかけた。
『…………サ、イ。ツ…ハ………………イカラ』
マヒロの口で言葉が紡がれる。
至近距離から放たれた言葉に目を瞠り、問い返そうとした俺の言葉を封じるように唇が塞がれる。
柔らかい唇の感触に目を見開く。
意味を聞かなければならないと思いつつ、腕が無意識に細い体を引き寄せ抱きすくめていた。
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