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第3章 翡翠の剣姫
1.嵐の予感⑤
しおりを挟む翻った翡翠色を目端に捉えた瞬間、驚愕に目を見開いた俺に、カイザーが動きを止めた。
「マ……」
ヒロと続きかけたカイザーの呼びかけを遮るかのように、涼やかな声が響く。
「カイザー!このような場所で何をしている?」
カイザーの体越しに見えた姿に息を呑む。
腰まである金茶色の巻き毛に、ミルク色の肌。スラリとした肢体はスタイル抜群で。それより、俺の目を引いたのは、その体を包む色鮮やかな翡翠色の服。そして、それより尚鮮やかな翡翠色の瞳だ。
とんでもない美人が、俺とカイザーを訝し気に見ていた。
美女を目にし、が、カイザーが思いきり顔を顰めた。
「シャイア?何でここに?」
知り合い?
シャイアと呼ばれた美人がツカツカと大股に歩み寄る。
近くで見るとかなり背が高い。女の人なのに、俺より、頭半分は高い。
俺だって、別に低いわけじゃなく、日本人の平均身長をちょい上回るくらいはあって……
この世界に来てから、劣等感刺激されまくりが多い。大概慣れたつもりだが、こうしてちょいちょい刺激されると、やはり凹むものがあるのも事実で……
「………ロ?マヒロ」
「ふへ⁈は、、あ……あぁ、呼んだ?何?」
一人勝手に落ち込んでたら、呼ばれた事に気付いて我に返った。
「どうした?ボーっとして」
「何でもない!大丈夫だから」
突然現れた美人より背が低かったから凹んでたとは、さすがに情けなくて言えず、慌てて誤魔化す。
「マ、、、」
「カイザー!その方が聖獣妃か?」
尚も言い募ろうとしたカイザーを遮り、シャイアが割り込む。かなりサバサバした性格らしい美人は、まったく物怖じもせず、俺とカイザーの中に入り込む。
実際、間に入られたとかではなく空気で感じ、何となくカイザーに寄り添っていた体をさりげなく離しながら距離を空ける。
微妙な俺の空気を感じ取り、カイザーが眉を潜めて開けた間を詰めようとするが、それより、場を攫うように、シャイアが俺の手を取り跪く。
女性にそんな行動をされるのはさすがに驚き、狼狽える俺に構わず、手を捧げ持ったまま、シャイアがニッコリと微笑んできた。
う~、ん、、、さすがに文句なしの美人。
大輪の薔薇の花が綻んだという表現が、恥ずかしさもなしにまさにピッタリだ。
「お会いできて光栄だ。私は、シャイア。シャイア=カズィーロと申す。お見知り置きを、聖獣妃聖下」
「ぁ………っと、、え、っと、マ、ヒロです」
丁寧ではあっても砕けた話し方だ。が、尊大さや傲慢な感じは受けない。この話し方が常にそうだと思わせる自然さ。
が、女性っぽさがあまりなく、どちらかといえば、気質はカイザーたちのような騎士っぽさを受ける。
初対面でかなり距離を詰められた。引くことも詰め直すこともできない妙な感じに戸惑う俺に、シャイアがクスと柔らかく微笑む。
「可愛らしい方だ。実に愛くるしい」
「……………………」
言われた言葉に声が詰まる。
正直に言う。
ひっじょーーーーーーーーーーうに!!返答に困る!!
これはアレか?新手のジョークか⁈
並の美人程度じゃ太刀打ちもできない美人さんから、可愛らしいだの愛くるしいだの言われて、俺にどう答えろと?第一、男が言われる賛辞じゃねってぇの!!
喜べねぇ。かと言って、怒りもできん!
微妙で複雑な感情に固まる俺に構わず、シャイアが手に取ったままの俺の手に、中指の付け根に唇を当て……ようとして、それよりいち早く、カイザーによって俺の体がシャイアからもぎ取られた。
勢いままにカイザーの体の背後に隠される。
明らかにムッと顔を不機嫌にさせ、シャイアがカイザーを睨む。
「無粋だぞ?カイザー」
「何とでも言え。聖獣妃へ許可なく触れるな!不敬の極みだ」
「可愛らしく、愛くるしく、美しきものは愛でて賞賛すべきもの。聖下は嫌がっていらせられん!お前に私を諌める権利もないが?」
ふふんと、不遜さを隠しもせず言い放つシャイアに、カイザーが苦虫を噛み潰したような渋面を浮かべた。
この二人の関係性が分からない。
知り合いらしいことは分かったが、仲が良いとは思えない。かと言って、険悪とも違う。
カイザーの影から戸惑い伺う俺に、目が合ったシャイアがニッコリ笑う。
「まぁ、いい。聖下の事は追々だ。それより、用を済ませねば」
ふいと視線を俺からカイザーへ移し、シャイアが居住まいを正した。
「用………とは?」
「お前に用があり来たのだ」
訝しむカイザーに、シャイアが不敵に笑み口を開いた。
「私、シャイア=カズィーロは、カイザー=ユグドラジェルへ婚姻を申し込みに来た」
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