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第2章 聖獣妃

1.バレ……………………た??

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結局、屋敷まで抱き上げたまま運ばれた。
執事さんや侍女さんたちを断り、部屋から人払いはしてくれたが、それで恥ずかしさが消えるわけはない。

「見られた……ばっちり、ガッツリ!見られた!!」
「あの者らは気にはしない。平静を装うのも務めだ」
「そういう問題じゃない!俺が”や!”なの!!」
「終わった事だ」
「うぅ~~~………そうだけど、、、」

唸る俺に、カイザーはそれ以上構わず、自らお茶のセットをしていく。
フワリと漂う嗅ぎ慣れた匂い。甘くて柔らかい花実のお茶の香りに、フッと張り詰めていた力が抜けた。
目の前にカップが置かれる。柔らかく立ち昇る湯気をボーっと見遣り、無意識に溜め息が漏れた。

「シュライン、イライザー」

カイザーの呼びかけに現れた二頭の聖獣。言われるまでもなく、俺の座るソファに飛び乗り、イライザーが俺の足に前足をかけて伏せ、シュラインがスリリと擦り寄る。
二匹のモフモフに慰められ、自然と小さく笑みが溢れる。フワフワの毛に両手を埋めて抱きつくと、シュラインがグルルと鳴いて頬を舐めてきた。

「無償で聖獣に好かれる存在は居ない。ただ一人を除き……」

ソファの向かいに座ったカイザーが静かに言う。
シュラインに埋めていた顔を向ける。思いのほか、真剣な目を向けられ戸惑った。

「聖獣妃……だっけ?」
「あぁ……」
「でも、俺は…ッ」
「断定はできん。まだ、そうと決まってもいない。聖獣妃足り得る確証もない」

淡々と告げられ、小さく息を飲む。
俺はこの世界とは無関係だ。自分がそんな存在とは思えないし思わない。なった覚えもない。

「お前が聖獣妃かどうかは別として…マヒロ、血脈はどうだ?」

本題を切り出され、心臓が大きく脈打つ。
一瞬、言葉を言いあぐね、溜め息をつく。
もう、誤魔化せないし。嘘を突き通すのは無理っぽい。

「俺……俺は、、、血脈、じゃない」

カイザーの顔を見るのが怖い。俯いたままの俺の耳に、ハァ~ッ、と盛大な溜め息が聞こえた。
怒ってるよな?

「ご、め……」
「何でだ?」
「えっ…?」

問われて思わず顔を上げる。
カイザーの顔は静かで感情が伺えない。

「何で最初に言わなかった?」
「………だって、、黒髪黒瞳で血脈がどうたらこうたら、会う奴会う奴みんな言うから…それ、に」
「それに?」

うぅ……言い出しづらい。
じっと見据えられ、視線が泳ぐ。

「何か、さ…その、血脈の力を物凄~く欲してるみたいだったから、違うって言ったら………その」

カイザーの顔が呆れたように変わっていく。

「言いたいことは何となく分かるが……結局?」
「……違うんなら要らないって、、、放り出されると思いました……」

白状する俺を、カイザーが目をすがめて見た後、盛大に溜め息をついた。
気不味い……

「お前の中で、俺たちはどういう人間だ?いくらなんでも、右も左も分からないような者を放り出すほど、蒼の皇国の人間は非情ではないぞ⁈」

呆れ混じりの怒り声に、首を竦めた。
白状した事で、嘘をついてる罪悪感は消えたが、バレた居たたまれなさは半端ない。

「まぁ…こちら側としても、切羽詰まっていたとはいえ、黒髪黒瞳だけでそうと決めつけたような話し方をしたのは悪かった」

それもあって、これ幸いとばかり利用した節はある。
カイザーたちを責めるわけにも、自分を正当化するわけにもいかず複雑だ。

「血脈じゃないって…皇太子に言うのか?」
「現時点では何ともだ……別の事も判明してない。どうとも動けんだろう」
「聖獣妃の事は…俺、分かんねぇよ」

そもそも、聖獣っていうくらいだから、どう考えたって女性が対象。
俺は……確かに、見てくれは完璧『男!!』って感じとは無縁かもしれないが、女じゃない。
至って普通に生活していたし、変な力とやらもない。魔導なんて妙ちきりんなものは生まれてこの方使った事もない。蔵で探し物していただけなのに、気がついたらこんな場所に居て、血脈だの聖獣妃だのと……荒唐無稽こうとうむけい過ぎて、呆れるより笑ってしまいそうだ。

「もし仮に、そうだったら?俺、どうなんの?」
「それ、は………」

眉を潜めて言い淀むカイザーの様子に、聞いたことを後悔した。
血脈だけでも、大騒ぎだったんだ。
聖獣妃なんてものなら、皇太子やこの国を含めた他の国も黙ってるわけがない。違うと言ったって簡単に信じやしない。
現に、今回、赤の皇国の者に拐われそうになってる。ジオフェスは諦めないと言ってたし、今度は他の国の奴が来るかもしれない。拐われてしまえば、帰ることはできなくなる。
帰れないと言えば………
神殿は焼失し、唯一帰り方を比較的簡単に調べられたかもしれない書物はもうない。

俺、もう、帰れない。

改めて自覚したそれに、目の前が暗くなる。

「あ、れ?なん、だ、これ?」

目の前がぼやける。意図せず、両目から溢れて流れるものを止められない。
ヒクと、喉が鳴ったら後は我慢できなくなった。
懸命に堪えようと口を手で抑えギュッと固く目を閉じた。こんな事で泣くなんて、情けなさすぎる。
カイザーだって困る。
早く、早く、早く泣き止め!!
ふッと目の前がかげり、閉じた目を開け見上げる。

「カ……………?」

呼びかけた名前は、体をソファから引き上げられ、抱き竦められる事で言えなくなった。








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