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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
11.暗雲、立ち込める
しおりを挟む「呼び立てて申し訳ないね」
通された部屋で、皇太子が優雅にニッコリ微笑みながら言う。
何度も言いますが、そうはこれっぽっちも思ってもないクセに、この皇太子………
シラっとした目で見る俺に、痛くも痒くも無いとばかり、皇太子がニーーーッコリ!悠然と微笑む。
対抗するのも馬鹿馬鹿しい。
「お呼びと伺いましたが?」
「うん。ちょ~っと、困った事になりそう、っていうか、もうなってるね」
「と、申しますと?」
「ガルンディアが対談を申し入れてきた」
「赤の皇国がですか⁈」
カイザーの言葉に、皇太子が頷く。
赤の皇国?
「カイザー…赤の皇国って?」
「六皇国の一つだ。ミネルヴァには、皇国と呼ばれる帝都が全部で六つ。蒼の皇国アウランゼ。赤の皇国ガルンディア。翠の皇国ショートショール。黄の皇国モウゼン。白の皇国フレイディア。黒の皇国ワドワーズ……」
俺がいるのが蒼。他にも、こんな国が五つあるってことらしい。
「特使はもう?」
「手際の良い事にね。マヒロ…血脈の者を、我が国が得た事はいずれ知られるとは思っていたが、些か早過ぎるな。と、なれば……」
溜め息をつく皇太子に、カイザーが顔を顰める。
「申し訳ございません……取り逃がしたは、完全なる咎にて」
「まぁ、そうなんだけどね。こればっかりは、しようがないよ?マヒロを最優先するのが当然で。その当然の結果だから」
「カイザー……俺の事、知られたのって」
「蒼の神殿に仕えし神官で民でありながら売国するとは……万死に値する!」
予感的中だ。
情報を漏らしたのは神官ノルス。
あのクソ神官!
「人身売買に、放火、逃亡した上に売国奴と成り下がったか。一番の重罪は、貴人への暴挙だけどね。それも踏まえて、身柄引き渡し交渉しなきゃならないね」
逃げたのは知ってたが、まさか、他国に逃げ込んでいるとは。
しかも、俺の情報を売ったらしい。
見返りは自身の庇護。
どこまでも身勝手な輩だ。
「ガルンディアが特使を送ってきたという事は、マヒロをそのままにするのはマズいのでは?」
「うん。だから、呼んだんだよ」
難しい顔をするカイザーに、皇太子も神妙に頷く。
「とりあえず。マヒロにはこのまま城に居てもらう」
「え?」
城に?
皇太子の言葉に戸惑った。
戸惑ったのは、ただ単に城に移るからとかではなく……
「下手に隠せば余計な詮索を受ける」
「分かりました。では、マヒロの護衛として、私も城に移ります」
カイザーの言葉にホッとし、慌てて気づかれないよう顔を背ける。
カイザーとは来る前にちょっと気まずくなってる。
異世界嫌で、帰りたいと思っているくせに、カイザーを前にすれば戸惑って……傍に居ると落ち着かないくせに、居ないとなれば心細くて……
自分の事なのに、わけが分からない。
「部屋を一室用意したから、マヒロはそこへ。カイザー、話がある。いいか?」
「はい」
侍女に促され、部屋を出て行く。
躊躇いがちに、チラッとみたカイザーとは視線は合わなかった。
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