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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
6.神殿の裏
しおりを挟む「どう見ても日本語だよなぁ」
与えられた部屋で、改めてあの紙を取り出す。ボロボロの本に挟まれていた紙。
茶色く変色したそれは、本同様、相当古いように思われた。
書かれた文字は日本語。
「『つぎを決めろ』……これだけだと、何の事か分かんないな。あの場所にあったのも、意味あるのか?」
何故、あの場所にあったのかも謎だし。この言葉の意味すら謎。誰が書いたのかも分からないし、何で日本語を知っているのかも分からない。
「駄目だ!意味、分かんねぇ!」
よくよく思えば、これが帰るための手がかりとは限らない。
もしかしたら、俺みたいにこの世界にも日本人がいるのかもしれない。が、今は同じ日本人を捜すより、帰る方法を探す方が先決だ。
「それには、まず字を読む。読めるようにするしかないか?う~ん……ちゃんと話せてるし、聞けてる……なのに、読む事だけできないっておかしいよな?そもそも、何で俺、話せてるし聞けてんだ?」
気が付いたらこの世界に居た。最初から問題なくできてたので、全く異変とは思わなかった。
「俺、普通に日本語話してるよな?でも、聞こえてくるのも日本語だし……あれ?カイザーたちが話してるのって、そもそも何語なんだ?」
考え出したら急に気持ち悪くなってきた。通じてるのに通じてないみたいな……
軽く頭を振り、考えを散らす。
「やめよ……考えても分かんないし。第一、俺がしなきゃならない事はそんな事じゃない」
ひとまず、これは置いといて。行動に移すべく立ち上がる。
今は、部屋に俺、一人っきり。レーヴェはおろか、ボリスも結局姿を見せてない。ボリスはともかく、レーヴェは何の為に俺を神殿に来させたのか分からない。
「まぁ、居ない方が好都合だよな。とりあえず、またあの部屋行ってみるか」
もしかしたら読める本や、何か手がかりになりそうな物が見つかるかもしれない。
そっと部屋を出る。廊下は点在するランプで明るいが、暗くなっていた。
考え事に耽っているうちに陽が落ちたようだ。
食事にはまだ早いのか、誰も声を掛けに来ない今の内が都合がよい。壁伝いに、足を忍ばせ慎重に行動する。
「見つかったらさすがに怪しいよな…でも、言ったところで誰かにくっつかれたら遣り辛いし…」
俺に付けられた神官。護衛よろしく振る舞ってはいたが、その実、監視していたのは勘付いている。
言動に抜け目なく注視されていたのは分かっていたので、物凄く遣り辛かった。
明日にはカイザーが迎えに来る。それまでに何とか……
ふと、動きが止まる。
元の世界には帰りたい。それは今でも変わらない。
でも………
カイザーの姿を思い出し、胸がザワつく。ともすれば、揺らぎそうな気持ちに、愕然として口元を手で覆う。
「嘘だろ?なんで、今、俺………」
カイザーを前にしたら、たとえ帰る方法があったとしても、迷いなく帰ると言えない自分がいることに気付く。
「しっかりしろ!気持ち履き違えてどうすんだよ?確かにカイザーはいい奴だけど……俺は、別に」
言い訳がましく聞こえてきて虚しくなる。
一人でこんな場所でこんな事言っててどうするよ?
ハァッと溜め息をつき、頭を振る。
「さっさとやる事やる!考えるのは…………まぁ、後からだ」
考えたところで、答えが出るかは甚だ疑問だが、今は考えてもしょうがない。
気持ちを切り替え、廊下を進む。
警戒しながら進むが、人っ子一人会わない。
昼間はそれなりに神官も居たし、子どもたちだってかなり居たはず……シンと静まり返った廊下は、ある意味違和感を感じた。
あの妙な紙を見つけた書室には問題なく到着した。
恐る恐る扉の取っ手を回す。
予想に反して、鍵はかかってない。
「ラッキーだけど……不用心すぎじゃね?貴重な本、たくさんあるんじゃなかったっけ?鍵、かけないとか……」
スルッと部屋に入りながら、呆れて独り言た。
手近にある本を取ろうとし、物音が聞こえて慌てて陰に小さくなり隠れる。
入ってきたのは神官。
見つかったかとドキリとするが、そうではなさそうだ。
「これで最後か?」
「あぁ。今回は多かったからな。少し、時間がかかったが、なんとか運び終わる」
「副神官長も、何もこんな時になさらないで良いと思うがな」
「しようがないだろ。あちらさんの要望だ。貴人様がいらっしゃったのは予想外だが、大神官長様がお決めになった事だし、文句は言えん。今更、都合が悪いから変更してくれとも言えないし、決行するしかなかったんだろ?」
神官たちが話しながら、担いだ大きな布袋をドサリと床に下ろす。
「おい!丁寧に扱えよ。何かあったら叱責されるぞ?」
「大丈夫だろ?幸い………」
「無駄口いいからさっさと運ぼう。ぐずぐずしてたらそれこそ要らん怒りを買う」
軽口を叩く神官を、別の神官が窘め、二人が下ろした布袋を再び担ぐ。
どこに行くのか見ていたら、突き当たりの書棚の前に行く。神官が横に棚をスライドさせると扉が現れた。
隠し扉のようだ。
おもむろに二人が中へ入っていった。
しばらくして出てきた二人の手には布袋はない。
「あとは頃合いを見て渡すだけだ。俺たちの仕事は終わったな」
「あぁ。腹減ったぁ~、早く、飯食いに行こう」
「そうだな」
笑いながら出て行く神官を見送り、再びシンと静まり返ったのを確認し、そっと物陰から出る。
「何、運んだんだ?それに、俺のことも話してた?」
神官二人が入っていった隠し扉がある棚の前。
恐る恐る、横にスライドさせてみる。
難なく動いた棚の奥から、扉が現れる。
怪しい。それに、危険な匂いがプンプンする。やめておけという気持ちとは裏腹、俺の手はゆっくりと、扉の取っ手にかかっていった。
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