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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
2.神殿招致⑤
しおりを挟む「カイザー……」
名を呼ぶと同時にほっとした。
動かなかった体が動く。
「貴様、何の真似だ?何の魂胆があってマヒロに近付いた⁉︎」
「おやおや…人聞きの悪い。私が貴人に危害を加えるとでも?」
「危害を加えるとは思わん!だが、思惑あり近付いたのは確かだ」
「無体な輩から貴人を護っただけですよ?」
「信用できるか!!」
「信じる信じないはご自由に。これ程に魅力的な方を一人にした貴方にも責任があるのではないですか?」
「貴様……ッッ!」
怒りと警戒をあらわにするカイザーに、神官レーヴェもまた柔らかいながら、言葉に尖らせた空気を纏わせ応酬する。
「隊長がお戻りなら、私はもう失礼して良いですね。用は終わりましたし……貴人様、それではまた」
俺に対してだけ、ふんわりと柔らかく微笑み、レーヴェが去る。
知らず、詰めていた息を吐き、体から緊張が抜けた。
「マヒロ、大丈夫か?何があった?」
「変な奴に絡まれて……あの人が助けてくれた、だけ」
「変な奴?」
とりあえずかい摘んで話す。スケべな真似された事は伏せたが、なんとなく察したか、カイザーの眉間に盛大にシワが寄った。
「やはり、離れたのは間違いだったな。その貴族の事は後で相応の処罰を。問題なのは、あの男に接触させてしまった事だ」
「処罰って……関わりたくないから、別に何もしなくてもいいんだけど…」
「そういうわけにはいかないんだ。何もしないとなれば、それはそれで面倒な事が起きる。マヒロだけの問題じゃなくな」
「そ、なの?」
こういう事は分からないから任せる事にした。それより…
「さっきの神官、知り合いなのか?」
「知りたくもないくらいにな。それはあちらも同じだろうが……本人から聞いたんじゃないのか?」
「なんとか神殿の神官で、レーヴェって名前しか……」
「隠匿して近付いたか…益々以って怪しいな。こうなると、広間で俺をやたら長々引き留めたご令嬢たちも怪しくなってくる……」
「なかなか帰ってこないって思ってたけど、お嬢様たちに捕まってたって事?」
「すぐ戻るつもりだったんだが、延々と話し込まれたんだ。今更だが、遅れてすまない」
「べつに………」
そう言いつつ、何やらモヤモヤする。
俺を放っておいて、ご令嬢とよろしくやってたのに気分を害したのか?
はたまた、カイザーにきゃあきゃあ群がる女の子たちに?
そこまで考えて、慌てて否定する。
……………………………………………後者じゃない。
ぶんぶんと頭を振って考えを散らした。
駄目だ。この世界さっきの事もあり、その可能性があるって分かってしまったから、俺の考えもそれを踏まえたものが混ざりつつある。
困惑する俺に気付かないまま、カイザーが言葉を続ける。
「何もされてないな?マヒロ」
「特に………あっ!これ、、、」
ふと、手首につけられたままのブレスレットを思い出し、カイザーに見せた。
目を見開いたあと、カイザーが目元を手で覆い、心底呆れたとばかりに、深く溜め息をついた。
一体、何?
着けてちゃマズいんなら外せばよくね?
外そうと手をかけたが止まった。
これ………?
「留め具がない?」
「それが何か分かって………ないな。殿下の所へ行くぞ?」
促され、妙な連中に捕まらない為、広間を避けて貴賓室へ移動した。
*
*
*
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*
*
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*
*
*
貴賓室でお茶を飲みながら待つ事数分。
皇太子が入ってくる。
「面倒なことが起きたって?」
「申し訳ありません、殿下。私の落ち度です」
「仕方ないよ。まさか、母上の生誕会に、そんなことを仕掛けてくるなんて思わないしね」
謝るカイザーに、皇太子が肩を竦めて見せる。
「あの、さ。面倒って、あの神官と話したって事?」
「マヒロは、あれが誰だか分かる?」
「なんとか神殿の神官、だろ?」
たかが、神官と話したってだけで、皇太子は困ったように微苦笑。カイザーは難しい顔をして、ムッスリと黙り込んでいる。
「あの…それより、これ取れないんだけど?」
差し出した俺の手首には、例のブレスレット。
「問題はそれだ」
「え?こ、れ?」
厳しい顔で言ったカイザーに、俺が困惑する。
これが問題って……?
意味が分からない。目線で問う俺に、カイザーが重苦しく溜め息をつく。
「レーヴェ。奴は、アストラ神殿の大神官長。第一皇子派の者だ」
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