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序章 異世界転移でてんやわんや篇
13.隊長様、大いに苦悩す①
しおりを挟む食事を終え、宛てがわれた部屋へと入った。
「就寝前のお茶はご入用ですか?」
「はい。あの、お風呂……えっ、と、体洗いたいんですが、どこに?」
「湯室はそちらの扉になります。ご不浄も同じく中にございます」
部屋の左手にある扉を指し示された。
湯室はお風呂。ご不浄はトイレか……
「ありがとうございます。あの…お世話になります」
「とんでもございません!貴人様をお迎えできるなど、光栄の至りにて」
執事さんが深々とお辞儀する。
「ご入用の物が他にございましたら、何なりとお申し付け下さいませ」
「や、そんな!あの、十分です!」
止むに止まれずとは言え、半ば利用しているようなものだから、ここまで丁寧に且つ遜られては、罪悪感半端ない。
「お茶のご用意を。夜着と、替えのお召し物をお持ちいたします」
「ありがとうございます。あの、俺のこの着ている服。汚れ落ちますか?」
シャツもパンツもかなり汚れている。お気に入りだったし、あっちの世界の、俺の唯一の持ち物だし、できれば捨てたくはない。
「土や草の汁など、かなり酷おございますね。少し難しいかと存じますが、やってみましょう。お湯浴みの時分に、お預かりいたします」
「お願いします!」
執事さんが退室するのを見届けて、肩から力を抜く。
置かれたソファに座り、溜め息をついた。
「妙な事になったよなぁ……」
異世界トリップ。漫画やゲームの中の出来事が、まさか、自分に起ころうとは、夢にも思わなかった。
幸い、いい人達(一部、例外)ばかりに出会って良かったとは思うけど、やはり、見ず知らずの場所に自分一人というのは心細すぎる。
しかも、自分に起きた事が一切思い出せないなんて……
考えれば考えるほど、怖いし不安になる。
ブルブルと強く首を振り、考えを振り払う。
「はぁ~…………………………風呂、入ろ」
*
*
*
風呂(しっかりお湯の張られた立派な風呂場)で湯を浴び、さっぱりして出たら、服は回収されていた。
シンプルなシャツと、ゆったりしたズボンが置かれてあり、ありがたく身につける。(ちなみにちゃんと下着もあり!)
ソファに座り、髪を拭いていたら、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします。お茶のご用意を」
「ありがとうございます」
執事さんが銀盆を手に入ってきた。ソファ前のテーブルにカップが置かれた。少しピンクがかった紅茶色のお茶から、柔らかないい香りが漂う。
「花実の入ったお茶です。お疲れでしょうから、柔らかく、香りの良いものを。よく眠れますよう…差し出がましいかと存じますが、これを」
そう言って、カップにミルクを入れた。
「蜂蜜入りです、どうぞ」
「いただきます」
カップを手に取り、ゆっくりと口をつける。優しい甘さと癖のないほんのり甘酸っぱい果実の香りが鼻の奥に抜ける。
美味しいし、執事さんの気遣いが温かい。じんわり、涙が浮かびそうになり、慌てて俯く。
「お、いしいです…」
「ありがとうございます。では、これで失礼いたします。ごゆっくり、お休みなさいませ」
潤んだ目には触れず、執事さんが静かに部屋を出て行く。ほんと、気遣いが半端ない。
思ったより、自分でも今の状況にショックと不安を感じてたようだ。
ゆっくりとお茶を飲み、空になったそれをテーブルに戻す。
ふと、部屋にあるもう一つの扉が目につく。
聞きそびれたが、これは……
開けたら駄目とは言われなかった為、ソファから立ち上がり、扉のノブを回す。
扉の奥は別の寝室だった。
寝台はかなり大きく、人が三人は楽に寝られそうだ。使われている寝室らしく、そこここに、細々と物がある。
「誰かの寝室か?さすがに、勝手に入ったのはマズいかも」
屋敷の人間がカイザーだけとは聞いていない。カイザーなら、怒りはしないだろうが、それ以外ならマズいし、こんなとこ鉢合わせたらもっとマズい。
「うん。早く、出……うわっッ⁈」
背中に衝撃を受け、そのままベッドに倒れ込んだ。
柔らかい敷布が幾重にも重ねられており、怪我はもちろんないが、顔から突っ込んだからちょっと痛い!
「い、たたたッ!だ、れ⁈え??」
グルルと鳴いて、俺を見つめる二対、四つの瞳。ラズベリーレッドの瞳と、ミントブルーの瞳……
「シュライン、イライザー⁈」
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