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序章 異世界転移でてんやわんや篇
12.聖獣と聖獣妃③
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*マヒロ視点・カイザー視点が共在します。
血脈とやらとは一切関わりないが、都合もありそう匂わせてしまっている。
益々、バレてはまずくなってしまった。
どうするか思案する中、部屋の扉がノックされた。
「失礼致します。お食事の用意が整いました」
「分かった。マヒロ、食事の部屋へ」
「あ……うん。あんたは、、」
「カイザーだ」
「え?」
俺を遮り、カイザーが言う。
どこか気まずそうに、が、キッパリと。
「”あんた”じゃない。俺は名を名乗った筈だ。キリアンやジディの事はちゃんと呼んでいただろ?」
「へ?え?は?」
言われてキョトンとしてから、大いに狼狽えた。
「も、しかして…ずっと怒ってたの、それ?」
おずおずと聞くと、ムスッとして返された。
「悪いか?言っておくが、俺はちゃんと名乗ったにも関わらず、名前を無視されたのはお前が初めてだ」
「……………………」
拗ねたように言い、フイとそっぽを向かれた。
呆れるより何より……
「ぷっ!っあははは!!何だよ、それ」
「笑い事じゃない!こっちは、森で少しやり過ぎたかと、それで怒ってやり返されてるのかとか、いろいろ考えてだな……」
「んなわけないじゃん!確かに、森での態度は失礼極まりなかったけど、名前、呼ばなかったりしたのはただ、何となくで別、に…ぷっ!は、アッはははは!あはっ、だ、駄目だ!マジ、ウケる!!」
何、考えてんのか分からなかったけど、フタを開けてみればなんてこともない。
確かに、ずっと”あんた”呼ばわりは嬉しくないだろう。
なんとか笑いを治め、素直に謝った。
「ごめん。俺は何でもなかったんだけど、あ…カイザーが気にしてるとは思わなかった」
「こちらも、改めて謝罪する。森ではその…悪かった」
「いいよ。あの状況じゃ、確かにああなるかもね。もう、気にしてない」
考えてみれば、カイザーは騎士で、ただ騎士としての仕事をしていただけ。
あのいけ好かない第一皇子からも庇ってくれたし。
気が抜けたらお腹が滅茶苦茶すいてる事を自覚した。
「ごはん、食べてくる」
「俺も行く」
「え……?でも、カイザー、食べないんだろ?」
「一人で食事する寂しさは、俺とて覚えがあるからな」
静かに言い、先に発つカイザーに咄嗟に言葉が出ない。
ずるいよなぁ…無駄にイケメンだから、バッチリ格好良く決まったし。
「ありがと………」
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
思い出したのは鎮寂の森。
聖獣妃の存在が感知されなくなってから、現存する聖獣を護るのも、騎士隊の重要な仕事になった。
全ての聖獣が主人を持つわけではなく、そういったものは、密猟者に狙われ高値で取引される。
鎮寂の森に生息する、聖光虫もその一つで、直径1センチほどの小さな虫だが、立派な聖獣の一つ。
密猟者が森にいるとの知らせを受け、駆けつけた顛末は先の通りだ。
黒髪に黒目の細身の少年。少女のような可愛らしさとは別の、少年として整った容姿もさることながら、俺の目を釘付けにしたのは、その目に宿る清廉さと力強さだった。
女性ではなく、年若い少年に目を奪われた戸惑いを隠す為、かなり不躾で強引な事をしたが、少年、マヒロは臆する事なく、俺に真っ向から立ち向かってきた。
気質は正に真っ直ぐ。駄目なことは駄目だと、嫌な事は嫌だとハッキリ言い切る。
第一皇子殿下に楯突いたのはさすがに内心焦ったが、他人の為に怒り、言葉を口にするマヒロは、見ていて……
そこまで考え、ハッと我に帰る。
「何を考えている?相手は……」
自分の考えに愕然だ。
出会って間もない。しかも、最初の接触は正に最悪と言ってもいい。
「とにかく。マヒロは血脈と思しき者。皇太子殿下からの命もある。言われた通り………」
そこまで口にして、押し黙った。
黒髪黒目というだけで、マヒロがまだ完全にそうだと決まった訳ではない。
もし、そうじゃなかったら?
違っていたら、自分はどうするのか?
首を振り、考えを取っ払う。
今日はいろいろあり過ぎた。疲れているのかもしれない。
「休むか……」
独り言ち、シュラインとイライザーを呼び出しかけ、息を呑んだ。
「い、ない⁈馬鹿、な!!」
身の内にあるはずの二つの気配を感じない。聖獣は奴隷ではない。だから、動きを制限する事はないが、それでも、抜け出した事にさえ気付かないのは幾ら何でも考えられない。名を呼びかけ、ふと気付いたそれに、息を吐き肩から力を抜く。
「寝室、か?」
感じた気配はそこからだ。
先に寝たようだ。
抜け出たのにも気づかないほど、考えに没頭していたのには苦笑しか出てこない。
「やはり疲れ過ぎか?」
重苦しく溜め息をつき、さっさと寝るべく寝室へ向かう。
俺の部屋の隣が、マヒロに用意した部屋になっており、一応、何かあっても大丈夫なように、中から扉一枚繋がっている。
部屋の前を通るが、シンとして物音一つしない。
眠ってるようだ。
静かに、自分の部屋へと入る。身に着けていた騎士服と、剣やらを外す。身軽な格好で剣のみを持ち、寝台へと向かった。
横のチェストに剣を立てかけ、一つ息を吐いてから、寝台に乗り上げようと片膝着いた瞬間、俺はそのまま、驚愕に凍りついた。
眠っていた目を開け、こちらを見るシュライン。いまだ、寝たままのイライザー。その二頭に挟まれる形で、掛布の中、無防備に眠るのは……
血脈とやらとは一切関わりないが、都合もありそう匂わせてしまっている。
益々、バレてはまずくなってしまった。
どうするか思案する中、部屋の扉がノックされた。
「失礼致します。お食事の用意が整いました」
「分かった。マヒロ、食事の部屋へ」
「あ……うん。あんたは、、」
「カイザーだ」
「え?」
俺を遮り、カイザーが言う。
どこか気まずそうに、が、キッパリと。
「”あんた”じゃない。俺は名を名乗った筈だ。キリアンやジディの事はちゃんと呼んでいただろ?」
「へ?え?は?」
言われてキョトンとしてから、大いに狼狽えた。
「も、しかして…ずっと怒ってたの、それ?」
おずおずと聞くと、ムスッとして返された。
「悪いか?言っておくが、俺はちゃんと名乗ったにも関わらず、名前を無視されたのはお前が初めてだ」
「……………………」
拗ねたように言い、フイとそっぽを向かれた。
呆れるより何より……
「ぷっ!っあははは!!何だよ、それ」
「笑い事じゃない!こっちは、森で少しやり過ぎたかと、それで怒ってやり返されてるのかとか、いろいろ考えてだな……」
「んなわけないじゃん!確かに、森での態度は失礼極まりなかったけど、名前、呼ばなかったりしたのはただ、何となくで別、に…ぷっ!は、アッはははは!あはっ、だ、駄目だ!マジ、ウケる!!」
何、考えてんのか分からなかったけど、フタを開けてみればなんてこともない。
確かに、ずっと”あんた”呼ばわりは嬉しくないだろう。
なんとか笑いを治め、素直に謝った。
「ごめん。俺は何でもなかったんだけど、あ…カイザーが気にしてるとは思わなかった」
「こちらも、改めて謝罪する。森ではその…悪かった」
「いいよ。あの状況じゃ、確かにああなるかもね。もう、気にしてない」
考えてみれば、カイザーは騎士で、ただ騎士としての仕事をしていただけ。
あのいけ好かない第一皇子からも庇ってくれたし。
気が抜けたらお腹が滅茶苦茶すいてる事を自覚した。
「ごはん、食べてくる」
「俺も行く」
「え……?でも、カイザー、食べないんだろ?」
「一人で食事する寂しさは、俺とて覚えがあるからな」
静かに言い、先に発つカイザーに咄嗟に言葉が出ない。
ずるいよなぁ…無駄にイケメンだから、バッチリ格好良く決まったし。
「ありがと………」
*
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思い出したのは鎮寂の森。
聖獣妃の存在が感知されなくなってから、現存する聖獣を護るのも、騎士隊の重要な仕事になった。
全ての聖獣が主人を持つわけではなく、そういったものは、密猟者に狙われ高値で取引される。
鎮寂の森に生息する、聖光虫もその一つで、直径1センチほどの小さな虫だが、立派な聖獣の一つ。
密猟者が森にいるとの知らせを受け、駆けつけた顛末は先の通りだ。
黒髪に黒目の細身の少年。少女のような可愛らしさとは別の、少年として整った容姿もさることながら、俺の目を釘付けにしたのは、その目に宿る清廉さと力強さだった。
女性ではなく、年若い少年に目を奪われた戸惑いを隠す為、かなり不躾で強引な事をしたが、少年、マヒロは臆する事なく、俺に真っ向から立ち向かってきた。
気質は正に真っ直ぐ。駄目なことは駄目だと、嫌な事は嫌だとハッキリ言い切る。
第一皇子殿下に楯突いたのはさすがに内心焦ったが、他人の為に怒り、言葉を口にするマヒロは、見ていて……
そこまで考え、ハッと我に帰る。
「何を考えている?相手は……」
自分の考えに愕然だ。
出会って間もない。しかも、最初の接触は正に最悪と言ってもいい。
「とにかく。マヒロは血脈と思しき者。皇太子殿下からの命もある。言われた通り………」
そこまで口にして、押し黙った。
黒髪黒目というだけで、マヒロがまだ完全にそうだと決まった訳ではない。
もし、そうじゃなかったら?
違っていたら、自分はどうするのか?
首を振り、考えを取っ払う。
今日はいろいろあり過ぎた。疲れているのかもしれない。
「休むか……」
独り言ち、シュラインとイライザーを呼び出しかけ、息を呑んだ。
「い、ない⁈馬鹿、な!!」
身の内にあるはずの二つの気配を感じない。聖獣は奴隷ではない。だから、動きを制限する事はないが、それでも、抜け出した事にさえ気付かないのは幾ら何でも考えられない。名を呼びかけ、ふと気付いたそれに、息を吐き肩から力を抜く。
「寝室、か?」
感じた気配はそこからだ。
先に寝たようだ。
抜け出たのにも気づかないほど、考えに没頭していたのには苦笑しか出てこない。
「やはり疲れ過ぎか?」
重苦しく溜め息をつき、さっさと寝るべく寝室へ向かう。
俺の部屋の隣が、マヒロに用意した部屋になっており、一応、何かあっても大丈夫なように、中から扉一枚繋がっている。
部屋の前を通るが、シンとして物音一つしない。
眠ってるようだ。
静かに、自分の部屋へと入る。身に着けていた騎士服と、剣やらを外す。身軽な格好で剣のみを持ち、寝台へと向かった。
横のチェストに剣を立てかけ、一つ息を吐いてから、寝台に乗り上げようと片膝着いた瞬間、俺はそのまま、驚愕に凍りついた。
眠っていた目を開け、こちらを見るシュライン。いまだ、寝たままのイライザー。その二頭に挟まれる形で、掛布の中、無防備に眠るのは……
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