13 / 119
序章 異世界転移でてんやわんや篇
11.片鱗
しおりを挟む突如起こった逆巻く風の本流。
「マ、ヒロ様⁈大丈夫ですか⁉︎」
物凄い風圧で目が開けられないらしく、ジディが声を張り上げる。
俺はその風の中、目の前をただ呆然と見つめた。
旋風の塊と化したそれと、炎の塊とが激突し、爆音を立てて霧散した。
「きゃあ!!」
ジディの悲鳴で、俺の目が焦点を結ぶ。
風が治まり、ピルルルと鳴いたそれがこちらへ飛んで来る。
淡い若草色の……
ジディの肩にちょこんととまり、可愛らしく首をかしげる。
「ジディの……」
「……シェ、リ?」
俺とジディの声が重なる。
風を起こし、炎の塊を消し飛ばしたのは、ジディの連れてた鳥。
「た、すかった……そっか、ジディがその子にさせてくれて……」
「えっ?……あ、……ッ??」
フッと肩の力を抜いた俺に、ジディが戸惑いながら、俺と自分の鳥とを見比べた。
「マヒ、ロ様……あなたは…」
「?」
「マヒロ!!ジディ!!二人とも、大丈夫かッ⁈」
カイザーが慌てたように走ってきた。その後ろで、キリアンが状況把握と、被害などの対応を行なっている。
「ケガは?」
「ないよ。ジディが助けてくれたから」
「そうか……すまない、ジディ。執務室の方にいたから遅れた」
「い…いえ、、大丈夫ですわ。あの、隊……」
「隊長~、原因、鍛錬の炎魔導が暴走したらしいっスよ!」
ジディが言い終わる前に、キリアンに連れられ、騎士らしき青年が慌てて走ってくる。
「申し訳ありません!魔導量の加減、ちょっと間違えて…!おケガはありませんか?」
「平気。どこもケガしてない」
「良かった…黒の貴人にケガさせたかと……」
「や、そんな、大袈裟な……」
「とんでもありません!!」
ガシッと手を握りこまれる。
いっ⁈
熱っぽく見つめられ、目を白黒させる俺に構わず、青年騎士が熱く語り出す。
「黒髪黒目、アルシディアの血脈といえば伝説の語り草。強大な魔導に、素晴らしい能力の数々。それに、話によれば見目麗しい方々ばかりと……噂に違わず、貴人様も…」
そこまで言った青年と、俺の手が、間に割り込まれた体で離された。
厳しい顔をしたカイザー。途端、青年騎士が、ピッと背筋を伸ばし直立不動。
「はいは~い!!とりあえず、誰もケガなかったのは幸いだね。事後処理は俺がしますんで。いいですよね?隊長」
「は……?あ、あぁ。頼む」
キリアンの仕切る声で、全員、ハッと我に返った。
カイザーは軽く視線を彷徨わせた後、ふぅっと息を吐く。
「あ、の…隊長?」
「悪かった。だが、貴人にケガを負わせていれば、大変な事態になったのは確かだ。魔導はもう少し慎重にやれ。あと、貴人に気安く触るものではない…………不敬だ」
バツが悪そうに、妙に歯切れ悪く言うカイザーに、青年騎士が、直立不動の姿勢で礼をとる。
「も、も、申し訳ありません!き、貴人様も、大変、しし、失礼を致しました!」
「や、そんな……別に。気にしなくていいよ?」
う~ん……、、確かに、急に知らない男から手を握られたのは微妙だったが…失礼に値するかどうかは、いまいち、よく分からない。
戸惑う俺に、キリアンが苦笑する。
「他はどうか知らないけど、ミネルヴァは厳格な身分制が強く根付いてるんだよ。だから、下位の者が上位の者に少しでも失礼な事をすれば不敬罪とされる」
「俺が、このお兄さんからされたの、手を握られただけだけど?たった、それだけで……」
「貴人の体に無断で触れれば、よくて鞭打ち五十回。悪くて禁固十年」
「ひっ!!し、し、失礼しますッッッ!」
「あっ!ちょっと⁈」
カイザーの言葉に、顔面蒼白になった青年騎士が慌てふためいて逃げていった。
ちょっと、可哀想なくらい慌ててる。
あ、コケた………!
「脅すなよ?あんたの部下だろ?」
「別に脅してない。事実だ」
呆れて言う俺に、カイザーが憮然として応える。
「なんであんたが怒ってんの?」
「怒ってない」
いや、そんなムスッくれた顔で返されても、全然、説得力ないんですけど?
意味不明に不機嫌なカイザーに、眉根を寄せる俺に、キリアンがクスクス笑う。
「何?キリアン。なんで、笑ってんの?」
「いや~?ん~……コレは、アレだね?うん、中々……」
「は?意味、分かんない」
一人訳知り顔でニヤニヤ笑う。
「マヒロ。屋敷へ帰るぞ」
「へ?いや、でも、まだ話……」
「俺がする事は終わった。聞きたい事の残りは俺が答える。二人とも、頼んだぞ?」
「はいは~い!了解で~す!!」
気安く応えるキリアンを尻目に、さっさと歩き出したカイザーを慌てて追いかける。
貴人だとかなんだとか言うわりに、カイザーの態度はぞんざいな気がする。初対面での遣り取りがアレだったからだろうが……
まぁ、俺自身も、カイザーが隊長と知れたからと言って、態度を変えるつもりはないけど。
「とげとげしさが消えただけマシかな?」
独りごちて後を追った。
*
*
*
「さぁてと!仕事すっかな!ジディ?どうした?」
う~んと伸びをしながら、ふと、自分の聖獣を見つめたまま、始終無言だったジディに気づき、キリアンが声をかけた。
「マヒロ様は………」
「うん?マヒロちゃんがどうかしたか?」
「……………………何でもありませんわ」
「???」
口を開きかけ、躊躇い、小さく首を振り応えた。訝しむキリアンにかまわず背を向ける。
何でそうなったのか。
何が起こったのか。
分からないし思い出せない。
一つだけ、確かなのは…………………………………
風が逆巻いたあの瞬間、、、聖獣の存在がほんの瞬きでマヒロの中へ移り、有り得ないくらいの強大な力を有して、一瞬で戻ってきたという事のみ。
2
お気に入りに追加
3,895
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる