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序章 異世界転移でてんやわんや篇

6.謎多き時渡り③

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「不可解な事って……?」
「魔導波動の揺れを感知したと言ったはずだけど、普通なら、時渡りほどの魔導が使われれば、もっと大きな揺らぎを感じる筈なんだよね。だから、妙なんだ」
「鎮寂の森に入った時にも、そんな波動は感じませんでした」

カイザーも応える。
別の世界からこの世界に来たなら、言うところの時渡りってやつなんだろうが……
この点は、この世界の常識や知識のない俺には分からない。

「よくよく調べる必要がありそうだね」
「こちらでやりますか?」
「いや……カイザーは動かなくていいよ」
「殿下?」

訝しむカイザーに、皇太子がニッコリと優雅に微笑む。

「マヒロはアルシディアの血脈。それこそ、誰に狙われるか分からないからね。だから、護衛兼保護者として、カイザー、頼むよ?」
「え?」
「殿下⁉︎お待ち下さい。私は、近衛騎士で警備が……!」
「重要な貴人を護る事も騎士の大事な、お・し・ご・と!」
「~~~~~~~~!!!」

茶目っ気たっぷりに言う皇太子に、言われたカイザーは言葉を継げずに口をパクパクさせるのみ。
子供のお守りじゃないんだから、俺一人でも大丈夫と言いたいが、この世界に不慣れな上、何も分からない状態で一人になるのは確かに不安。皇太子が言ったように、誰が俺を狙うとも思えないけど、言葉には従ったほうがよさそうだ。
しばらく無言の後、重苦しく溜め息をつき、カイザーが頭を下げる。

「承知致しました……」

迷惑そうな態度はあまり愉快じゃないが、この際、我慢。元の世界に帰れるまでの辛抱だ。

「屋敷はカイザーのところだね。じゃあ、しっかり頼んだよ?」

Noの選択肢はないとばかりな皇太子に、カイザーはもはや反論もせず、黙って一礼し、俺と連れ立って部屋を出た。

「あの……」
「なんだ?」

冷たくはないが、素っ気ない。
こういう態度とられると、言いたくなくなる。ムスッとしたまま、フイと顔を背けた。

「やっぱ、いい」
「言いかけてやめるな。聞く態勢を整えた相手に失礼だろう?」

…………………………………………
キッと睨みつける。

「あんたのその態度は失礼じゃないわけ?」
「何?」
「俺より、あんたの態度のがよっぽど失礼じゃね?迷惑なら断りゃいいじゃん!」

つけつけ言ってやると、カイザーが目を瞠り、ハァ~っと溜め息をつく。
溜め息つきたいのはこっちだってぇの!!

「俺は近衛騎士だ」
「だから、何だよ?」

言いたい事が分からない。訝しむ俺に、苦虫を噛み潰したようにカイザーが顔を顰める。

「皇太子殿下は主君だ。主人、お仕えする方。それよりも皇族!命に背くなど、天地がひっくり返ってもあってはならない!迷惑だからと断れるわけないだろう!!」
「何だよ、それ……俺なら、嫌なもんは嫌だ!」
「そういうわけにはいかないんだっていうのに……まったく!どういう育ちをしてるんだ⁈子供か⁉︎」
「うっさいなぁ!そんなもん、知るか!第一、俺は子供じゃない!!」

嫌々付かれるくらいなら、一人でいい。突っ撥ねる俺に、カイザーも負けじと返し、廊下のど真ん中で言い合いが始まる。
最初に会った時も酷かったし、今も全然優しくない!誤解とはいえ、俺は何やら特別な存在らしいのに、気遣うそぶりすらない。
睨み合い、やがて、カイザーが先にふぅっとゆっくり溜め息をついた。一度目を閉じ、ゆっくり開ける。

「こんな所で騒ぐべきじゃない。聞きたい事とやらは、屋敷に帰ってから聞く。いいな?」
「……………………」

言葉……………………返せない。
明らかに、カイザーが譲った。大人な、分別をつけた。
これじゃ、俺、ほんとに………
悔しいし、情けない。

「悪かった……不安を感じてる相手に、その、俺の配慮が足りなかったかもしれない。だが、護ると言っても、考えなきゃならん事がいっぱいあるんだ。あ~……だから、少し、考えに没頭し過ぎた感はある」

髪をガシガシ掻き、つっかえつつ、カイザーが謝ってきた。

「迷惑なら迷惑って言えば?面倒だろ?」

あ~………俺、ほんと可愛くないよなぁ。自分で言って、凹んでるし?ほんと、ヤダ……
拗ねたようにそっぽを向く俺に、カイザーが微苦笑した。

「面倒じゃないかと言われれば否定できんが、迷惑じゃねぇよ」

言葉が若干砕けた。迷惑じゃないの言葉に振り向く。
紺碧色の瞳と視線が交差する。

「それ……ほん、、、」
「カイザー=ユグドラジェルっっ!!」

俺の問いの言葉を遮るように、突然、声が響いた。








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