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第二部4章 表裏一体 抱く光は闇 抱く闇は光の章
4.忘れ得ぬ記憶と愛しき者と④
しおりを挟む「あの時は気付かなかったけど、ここ広すぎ…」
水のあるあの部屋から出たはいいが……あの人がいた目的の部屋がどこにあるのか、あの時、自分がどっちに向かったのかすら覚えていない。
どうしよ……早くも迷子になりそうだ。
進みたいが、このままだと、元いた部屋にすら帰れなくなる恐れが….…
「大体、右も左も分からない、どころか、自分が何かすら分からない人間放っとくかよ?部屋に入れて放置って、ありえねぇし!!」
何か、考えたらだんだん腹立ってきた!
「なんだろうなぁ…ここ。ちょっと…いや、かなりか?嫌な感じなんだよな」
先ほどから、意味不明に感じてる嫌悪感。最初は意識も朦朧としてて感じなかったが、今はこの場に感じる嫌悪感と、これまたよく分からない恐怖に、足が竦みそうになっている。
進みたいが、進めない。気持ちばかり焦り、体は変に萎縮して、ちっともいう事を聞かない。
「と、にかく、進も……あの人…ギルゼルトに会えば、何か分かるはず」
へたり込みそうになる足を叱咤し、何とか歩く。
悪い事をしているわけではない(多分……)なのに、何でかコソコソしてしまう。
見つからないようにしなければ….…見つかったら…
「ど、なるんだ?」
何か、モヤモヤする。前にもあった?こんな事。
「あ、れ…ど、しよ。動けなく、な」
体が震える。言い知れぬ恐怖で体が完全に萎縮してしまった。
情けないが、涙も溢れてきた。
しゃがみ込み、膝を抱えて顔を伏せる。
俺、おかしい。目が覚めて、自分が誰でここが何処かも分からない、そんな事態に巻き込まれ……目が覚めた唯一のこの場所が……
怖い。
何でかは勿論分からない。だけど、居たくない。
「何をしておる?」
「ッッ!!」
不意に頭上から声が降ってきた。バッと、慌てて顔を上げると、あの男、ギルゼルトが顔をしかめて見下ろしている。
「部屋へ戻せと言うたに……あの役立たずが!」
「あ、の……!?」
呼びかけると、鋭く睨みつけられた。
何で、こんな忌々しそうに睨まれるんだ?!
俺の呼びかけに応えず、ギルゼルトがそのまま立ち去ろうとし、慌てて足にしがみつく。
「なっ?!何をッ!?」
「捜してたんだ!行かれたら困る!!」
「捜して?我をか?」
「そうだよ!だって、何も分かんなくて!あんたと、俺を連れてった男は、俺を知ってるみたいだから……でも、あの男は….…何か、やだ!」
必死にしがみつく俺に、ギルゼルトが物凄い顔で睨みつけてくる。
に、睨まれたって離すもんか!
真っ赤に燃えるようなルビーの瞳は眼光鋭く、正直怖い。だけど、何も分からない今の状況を打破できるなら、このくらい我慢できるしする。
振り解こうと足を動かすギルゼルト。ギュッと力一杯しがみつく俺とで攻防が続き、やがて、ギルゼルトが深く溜め息をつき、足を動かすのをやめた。
「手を離せ…」
「や、だって……ッ!」
「….…置いて行かぬ。いつまでも、赤子のようにしがみつくでない」
「ほんと、に?」
「….…くどい」
面倒くさいものを見るように見下ろされ、恐る恐るしがみついてた足を離す。
「….…これが今生の光。アーシルの転生とは思えぬ」
「え?」
「….…立て。いつまで、そうしておる?」
「え、っと……そ、の」
困った。正直に言うべきか?
ちらっと上目に見上げると、ギルゼルトが訝しんで片眉をあげた。
「如何した?」
「….…な、い」
「….………??」
「……てない、立てない!」
だって、しょうがないだろ?元々、無理して動いてたところに、安心できたんだ。
情けないけど、立ち上がる事ができない。
「お前は、自分が我らの手中に堕ちた自覚を持っておるか?」
「それ……さっきもあの男に言われた。意味、分かんねぇ。俺が、あんたらのとこにいたら、何か、マズいわけ?」
「….…お前は…」
目を瞠り、ギルゼルトが黙り込む。
そんな、どうしようもないモノ見るみたいにすんなよなぁ……
「……いい、自分で立…ッ、わ!ちょっ、なッ!?」
壁に手をつき、なんとか立ち上がろうとした俺を制し、ギルゼルトが俺を抱え上げた。
膝裏に手を入れ背中を支え…いわゆる、姫抱き。
「いい!自分で……ッ!」
「立てんだろう?……我にここまでさせるとは」
「だから…いいって!」
「….…お前には全て思い出してもらわねばならぬ。やっと手に入ったと思えば……かような有様とは」
「だから、意味分かん……」
「黙れ…役に立たぬなら、せめて手を煩わすでない」
何だよ…ほんと、意味分かんねぇ。
「転移したほうが早い、か…?…掴まってろ」
「え?ッ!?」
構える間もなく、急な浮遊感に襲われ、周りの景色があっという間に変わっていた。
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