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第二部3章 皇女降嫁?白き生花で紡がれし花冠の章
6.波乱の予感……多方面で(汗)①
しおりを挟むく、空気が……またまた重い。
城の転移魔導の陣の前。俺、バルド、セレスト、キサの四人に、見送りのイアン。騎竜も待機する中、バルドの周りに暗雲渦巻く低気圧。
「バルド……」
「俺は何も言ってねぇ……」
気まずくて呼びかけたら、そんな返事。バルドの不機嫌の理由は………
「俺を受け入れたのも、同行許可したのも、皇太子殿下ですよ?」
不機嫌の原因…キサがしれっと応える。
せっかく宥めたが、結局、キサに護衛の任を与えるしかなく(アレイスター様に報告したら、あっさり許可され、それもまた不機嫌に拍車が……)今に至る。
キサ…頼むから、火に油注がんでくれ。
そして、そのキサを縊り殺さんばかりに睨むな、バルド…
「店の方は?大丈夫なのか?キサ」
とりあえず話題変えよう。話を振ると、キサが頷く。
「大丈夫だ。マダムには話して納得してくれた。俺が今まで店でしていた采配なんかは、ラーシャが代わりを。ファランが補佐してくれる」
「そ、か……キサ。あ、のさ………リコ、は?」
おずおずときりだすと、キサが一瞬だけ息を小さく飲む。軽く目を伏せた後、視線を真っ直ぐに上げた。
「リコは……帝都を離れた。マダムの知り合いが、ヤンジュという田舎町で食堂をやってる。前から養女を欲しがってたらしく、リコはそこに引き取られた。心と体を癒すためにも、帝都にはいない方がいい…本人も、クレイドルにいるのが辛いって泣いてたからな」
キサも辛そうだ。団と店の仲間で、妹分の一人。辛くないわけがない。
リコの小さな体と、はにかむ笑顔…最後に見た涙に泣き濡れた顔を思い出し、俺の胸がズキンと痛む。
「最後になるなら……会っておきたかった」
「アヤ……悪いが、それはやめておいて賢明だったろう…今のリコに、お前に会うのと声をかけられるのは何より辛いだろう…」
「バルド……」
バルドにやんわり言われ、俺はシュンとなる。
ランスの事……ちゃんと話しておけば良かった。たとえ悲しむ事になっても、ここまで傷付く事にはならなかっただろう。
「自分を責めるな、アヤ。責められるべきはあの、イヴァンだ」
「……うん」
分かっているが……直接や意図してじゃなくても、女の子を傷付け泣かせた事実が重くのしかかる。
あぁ………辛いよ~。
自己嫌悪に落ち込んでたら、兵士から声がかかる。
「殿下。転移魔導、準備が整ったようです」
「分かった。方陣に入れ」
指示を受け、方陣内に入る。地面に展開された、光る方陣。
ちょっとドキドキ。
「これって定員とかあるのかな?」
「てい、いん?とは何だ?」
「あ~……一度に運べる人数に限りがあるとか?」
「そういうものはない。展開できる方陣の大きさ次第で決まるからな。入る事さえできればいいだけだ」
その理屈だと、方陣に入りさえすれば、千人万人だろうとOKって事に……便利すぎる。
「一回使うと、次までに魔導を貯める必要があるから、連続使用ができないのが難だがな」
使う毎にチャージする必要があるんだな……ふむ。でも、だったら………
「魔導を別に貯めておく事はできないのか?」
「別に貯める?どういう事だ?」
「転移方陣を展開するのに必要な魔導源を、なにか…う~ん、魔導具的な道具に貯めておいて、一々、チャージ……貯留する時間を減らす事はできないわけ?」
「……そういう魔導具があるにはあるが…貯めた魔導を止めておけるだけの強度と器がない」
「魔導具は、どんな物が?」
「簡易方陣を閉じ込めた宝石が主だ」
ありがちだな。ゲームなんかでもそういうのはよくある。宝石を媒体にできるなら……
「魔石は?」
「何?」
「だから…例えば、これ?」
俺が耳飾りの魔鉱石を指す。レイティア・サラマンディアの涙と呼ばれる希少石だ。これなら、強度も十分。調べる必要はあるが、強大な力を帯びた石だから、媒体にはうってつけだ。
「なるほど……だが、石が希少すぎるぞ」
「別にこれじゃなくてもいいんじゃない?確かに魔鉱石は希少だけど、これより手に入りやすいのだって、探せばあるだろうし」
「検討してみる価値はある、か……ラシルフから帰ったら、陛下に奏上してみよう」
バルドが言うと、そばに控えていたセレストも頷く。
「よく思いつくな、アヤ。魔鉱石を魔導具になんて普通は勿体なくて考えもせん」
感心したように言うキサに、俺は苦笑だ。宝石と魔鉱石の境界が曖昧な素人判断、それにゲームの受け売りみたいなもんだし、何だがテストのカンニングみたいで気まずい。
「たまたまだって。それより、早く方陣に入ろう?」
妙に感心され、むず痒くて居た堪れない。皆をさっさと促し、方陣に入る。
「使うの初めてじゃないけど、やっぱドキドキする」
「何もないと思うが、一応俺のそばにいろ。掴まってろよ、アヤ」
「うん……」
言われた通りに、バルドの服の裾を遠慮がちに摘む。女の子みたいな仕草で恥ずいし情けないが、不安なもんは不安だ。
素直に従った俺に、バルドが小さく笑う。俺が意図せずとはいえ、頼った事で機嫌は治ったようだ。
やんわり引き寄せられ、方陣が発光すると、周りは白く煙っていった。
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