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第二部3章 皇女降嫁?白き生花で紡がれし花冠の章

2.もう、こいついい加減にしてほしいんですけど?(怒)①

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「アヤ……そろそろ機嫌直せよ」

背後からやや疲れたような声がかかるが無視だ。

「殿下が悪いわよ~。子猫が二匹、仲良くニャンニャンしてただけでしょ?可愛いじゃない」

何だよ!子猫って!!

じろッとルースを睨むと、こっわ~い、と、たいして怖いとも思ってないくせに大袈裟に肩をすくめてみせる。
益々、腹立つ!!

「誰でも彼でも気を許すなって言ったろ?いい加減聞き分けろよ」
「殿下ったら狭量ねぇ~」
「ルース、ちょっと黙ってろ!」

はいはいと苦笑しながら、ルースが引っ込む。セレストは最初から加わる気なしに、顔をしかめたままそっぽを向いてる。

「確かに、俺はお前が誰か特定のやつと親しくするのは見てて気に喰わん。だが、それだけじゃねぇ。誰が敵とも知れない……昨日の味方は今日は敵、なんてこともあり得るんだ。用心しろと言ってる」
「だからって!あんな別れ方するなんて、酷すぎだろ!?俺は……友人をつくることも許されないわけ?」
「そうは言ってねぇだろうが……今はそれどころじゃねぇし…第一、あのまま長くいれば、別れが辛くなるだけだろうが」
「……さよならもちゃんと言ってない」
「アヤ……光の魔導の自覚を持て。お前が闇に沈めば、この世界は終わる」
「………ッッッ!!!」

憤りと、それと同じくらいの悲しさが沸き起こる。
涙がこみ上げそうになるが我慢し、力一杯バルドを睨みつけて、プイと前を向いてから口を開く。

「オーデル、下降りて?あそこ、開けてるから」
「おい?アヤ……!?」

自分の上で険悪になってる俺とバルドを見かねたか、オーディリアが比較的素直にいうことを聞き、少し開けた草原に降り立つ。
オーディリアが地に足着くや、俺はバルドの腕を振りほどき、オーデルの背から飛び降りた。

「アヤ!アヤ、待てッ!!」

後ろからのバルドの制止の声はガン無視し、ずんずん歩いて離れていく。

「ルース、セレストここにいろ!連れ戻す」
「はいは~い!ちゃ~んと、ご機嫌とって仲直りしてちょうだい」
「一応、索敵の方陣を……ルース」
「心配性ね~、セレスト。わ~かったってば!睨まないでよねぇ」

後ろで聞こえるセレストとルースのやりとりの声も小さくなる。構わず、俺は俯いたまま歩き続けた。

            *
            *
            *

草原は緩やかな丘陵があり、まばらだが木も生えて、さほど大きくもないが湖もある。
湖の近くでバルドに追いつかれ、手を掴まれた。振りほどくために力を込めるが動かず、無言で睨みつける。
しばらく睨み合いが続き、バルドが先にため息をつく。

「アヤ………」
「分かってる……」

ふて腐れたように顔を逸らせた。
バルドが言いたい事、言ってる事は分かるし、分かってる。やる事がある。やらなきゃならない事だ。だから、いつまでも楽しい時間にかまけて、仲良しこよししてる場合じゃないのも………
でも………

正直言って、怖い。
何で、俺なんだろう?何で、俺が女神の光なんだろう?何でこの世界にいて、何でそんな大変な事をこなさなきゃならないんだろう?

何で?何で?何で何で何で何で何で何で何で何で……

普通に楽しくて、普通になんでもない……さっきみたいな他愛もない会話や、時があると、現実に引き戻された瞬間の落胆がとにかく激しい。

この世界に来て(実際は帰ってきたらしいけど…)、随分経つが、ほんと、よく今まで保ったよな……
どうにもならないなら、無理矢理でも受け入れるしかない。そう思ってやってきたけど………

何でもない、普通の生活を送ってきたのに、突然非日常に巻き込まれた俺の精神は、どうやら誤魔化しきれないまでに疲弊していたようだ。

「ナニこれ?現実すぎて、マジつらい」
「アヤ」
「バルドは、つらくないわけ?女神の魔導なんて、わけ分かんない役割押し付けられて」
「つらくないと言や嘘になる。が、俺の場合は、女神あのクソ女は文字通り、くそっ喰らえと思っているからな」

俺もバルドも変わんないのかな?生まれた瞬間から、女神の魔導を意識させられてるのも、途中から突然意識させられるのも……

「女神の魔導なのは……全部が全部は受け入れらんない。でも……そうだっていうんならしょうがない……
それでも…この世界で、俺は普通になれるかな?」
「なれるだろ?俺がお前のそばにいるんだから」

当然とばかりに不敵に笑い応えるバルドに、一瞬ア然としてから、俺は思わず吹き出す。
相変わらず自信満々、背負ってる俺様皇太子様ぶりに、肩の力が抜けた。

「落ちついたか?」
「………うん」

手首を掴まれ引き寄せられる。今度は逆らわない。

「どうした?荒れてたようだが……」
「女神は……ズルいよな。っていうか、女神も含めた、この世界の神様はズルい。自分たちの喧嘩に、人を巻き込んで……事情があったとはいえ、魔導俺たちを創り出して……尻拭いは全部こっち?俺なんか、向こうの世界で普通に生活してたのに、いきなり連れてこられて。やれ、魔導だの女神の光がどうのって……正直、詰め込まれすぎて窒息寸前だっての!おまけに、俺は女の子が好きだって言ってんのに、ちょっかいかけてくんのは野郎やろうばっかり!マジ、やってらんないんだけど?」

つらつらと、文句が次々溢れ出す。俺を腕に抱きすくめたまま、バルドは黙って聞いている。

「……でも、自覚…するしかないんだな?俺が女神の魔導なのは、どうあっても変えらんねぇみたいだし?事実……現在進行形で、闇の奴らどうにかしなきゃ、この世界終わるみたいだし。終われば、俺が普通の生活送りたくても送れなくなるみたいだし…」

今まで貯めに貯めた鬱憤を吐き出し、俺の心が凪いでいく。

「……ハァ~…ちょっと、スッキリした」
「そうか……もう大丈夫か?」
「うん……」

完全なる八つ当たりだったにも関わらず、黙って聞いててくれたバルドに、俺は気恥ずかしくて視線を逸らす。
逸らしたアゴに手を添えられ、バルドの方を向かされた。

「……バルド?」

無言だが、バルドの瞳に揺れる強い光に、俺は意図を察して僅か抗いかけてやめた。
ゆっくり目を閉じる。
吐息が近づき、あとちょっとで触れかけた唇が止まる。

「……無粋に過ぎるな……『砕け散れ!』」
「ッッッ!!?」

驚愕に固まる俺の腰を抱きかかえ、バルドがその場から飛び退る。

いきなりの全破棄。遂行された魔導が、俺とバルドが居た箇所の地面を砕け散らせた。

「バ、ルド?!」
「二度目か?よほど俺に掻き消されたいらしいな?イヴァン」

バルドの言葉に、地面にできた影からスーッとイヴァンが現れた。

「あのまま油断してれば、殺してあげたのに。ほ~んと、どこまでも腹立つ男だよね~、皇太子殿下」
「残念だが、不穏な気配に気付かんほどマヌケじゃねぇんでな。それに、お前の魔力は腐臭臭い。アヤの清浄な魔導の中では特に際立つ」

バルドの言葉に、イヴァンの瞳にドス黒い怒りが浮かぶ。例の金色の魔物の目がギョロッと動き、爛々と輝きだす。

「ほんと、ほんと、ほんとーーーーーーーーーーーーッに腹立つなぁーーーーーーッ!!もうッッッ!!僕さぁ、キサと同じくらいあなたの事気に喰わなかったけど、それ間違えだったみたい」

顔を片手で覆い、少し俯いたイヴァンがローブの下でクツクツ笑い出す。

こいつ…相変わらず、気色悪い!

思わずバルドに縋り付くと、宥めるように背中を撫でさすられる。
イヴァンが俯けていた顔を上げた。

「ひっッッ!!」

俺の口から思わず引き攣った声が出た。
顔を覆った片手の指の隙間から、金色の魔物の目玉があり得ないぐらいにギョロリと飛び出し、目尻近くまで裂け吊り上がった口がニタリと笑うと、赤い裂け目からギザギザの歯と、先端が二股に分かれた長い舌がデロリと飛び出す。

「僕、キサよりあんたの事大嫌いだわ」

粘着質な音を立てながら喋るイヴァンに、俺は気分が悪くなり、バルドに顔を押し付けるようにして逸らす。

「こいつ……マジ、ほんとに本気で無理っ!!」

あぁぁぁ、もう!マジ、気持ち悪ィ!
会うたび会うたび、どんどん人間離れしてってる。元、人間とは思えない。何がどうなったら、ここまで醜悪になれるのか不思議だ。

「ア~ヤ。すぐに僕が手に入れてあげるよ。待っててね?」

俺の心底気味悪がってる顔も頓着せず、イヴァンが話しかけてくる。
本気で、こいついい加減にしてほしい……!
ゾゾッと背中に走った怖気おぞけに慄く俺を庇うかのように、バルドの体が前に立つ。視界が塞がれた。
ゆらりと立ち上がった凍気が目に映る。青白くピキピキ軋む音を立てるそれに、俺は安堵を覚えていく。
ゆっくり目を閉じ、体を包み込むようにバルドの結界が張られるのを感じると同時に、閉じた瞼の裏に強烈な光を放つ凍気の閃光が弾けた。

『凍   り   つ   け』





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