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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章

1.血塗られた炎の王宮⑧

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部屋を尋ねると、誰もいない。荷物はそのままだったので、外に出てみた。
小さいが中庭のようなものがある。
木陰を覗きながら伺っていると、スンッ、グシュッと鼻を啜る音が聞こえた。
泣いてる?
音のする方に歩いて行くと、植え込みの陰にうずくまる姿。

「皇子?」
「ッッッ!!!」

そっと呼びかけたら、ビクッと可哀想なくらいに体を跳ねさせて反応された。
う~ん……失敗。もちょっと大きな声でハッキリとの方が、却って良かったかもしれない。

「えぇ~、っと………」
「な、な、何だ?!何の用だ?ぼ、僕は別に泣いたりしてないぞ!心配なんかいらないからな!?」

あぁ、はい。泣いてたんですね?
心配してきてくれたの?って、ほんとは聞きたいと?
分かりやすい単純ツンデレだな。

「え、っと…ヴィクトールは?」
「……ヴィクターは、僕がお腹減ってるだろうからって、食事を用立てに行ってる……」

涙を見られまいと、俺に見えないようコッソリ、でも必死に服の袖で拭う皇子。
バレてないと思ってるところが、やっぱり大人になりきれてない。
何だろ……ちょっと可愛い。
皇子のお腹がくぅっと、小さく鳴る。

「~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

顔を真っ赤にし、絶句する皇子。そういや、さっきご飯全く食べずに部屋に引き上げたから、仕方ないか。
思わず、クスッと笑った俺に、皇子が俯けていた顔をバッと上げ、涙を堪えるように顔を歪ませて睨みつけてきた。
ありゃ、また失敗。
言っても、皇子だからな。自尊心プライドはめっちゃ高い。

「食べる?ご飯来るまでの繋ぎくらいにはなるんじゃない?」

焼き菓子を売ってる露店で買った物を差し出すと、皇子の顔が複雑そうにしかめられた。

「僕は、子供じゃないぞ!?菓子なんかで誤魔化そうとしても……」
「別にそんなつもりないけどね…お腹の足しになればと、ほんとに思っただけだし。甘い物食べれば、少しは気分も落ち着くと思ったんだけど?」
「……別に落ち込んでなんか…まぁ、でも貰うけど」

口ではそう言いつつ、差し出した包みをそっと受け取る皇子に、俺は笑いを堪える。
包みを持ったままの皇子。

「食べれば?皇子のお口に合うかどうか分かんないけど」

中身は何の変哲もない素朴な焼き菓子で、細かく砕かれた木の実が練り込まれ、表面に極薄く蜜がかけられている。さっき一つ味見してみたが、まぁなかなかに美味かった。
一つ摘んでモグモグした後、皇子が軽く目を瞠る。

「美味しくない?無理して食べなくていいよ。城で美味しい物いっぱい食べてる皇子の口には……」
「驚いた……美味だ」

予想外に口に合ったらしく、皇子が嬉しそうに顔を綻ばせる。

「いつも……」
「うん?」

サクッ、サクッとお菓子が噛み砕かれる合間に、皇子がポツリと漏らす。

「いつも、一人だった。食事も、本を読んだりする時も……お菓子を誰かがそばに居て、一緒に食べるなんて…した事ない。ヴィクターはそばに居てくれたけど、母上は……」
「ずっと?」
「うん……」
「そっか……」

気をひくために、皇子は皇子なりに必死だっただけなのかな。
まぁ、でも世間知らずの物知らずはさすがに頂けないけど。

「バルドが怒ったのは…まぁ、言葉はキツいけど、分かってやってくれよ?バルドは理不尽に怒ったりはしない。すぐすぐに納得できなくてもいい。でも……」
「……分かって、おる…自分が物事を知らなさすぎた。クレイドル皇太子は皇子で武人で…僕より遥かに大人な男性だ。物の道理はきちんと理解していらっしゃる。僕は………」
「あのさ…バルドは、どうでもいい奴なら、無視して放っておくから。皇子には確かにキツくて厳しかったかもしれないけど、言葉にして言ってくれたなら、少なくとも皇子をどうでもいい奴とは思ってないと思う」

お菓子を食べる手が止まり、しょんぼり項垂れる皇子を慰める。
あぁ、もう!俺、こういうの苦手!!女の子ならヨシヨシしてあげたり、そっと抱きしめてあげたりすればいいんだけどね~……

「……そなたは…皇太子を好いておるのだな?」
「へ?は?え、えぇ??」

いきなり爆弾だな?(汗)
まぁ、一応伴侶なる者だし?好きか嫌いか言われたら、そりゃ好きですけども……面と向かって言われるとは思ってなかったから、かなりびびった。

「いや……まぁ、ね………うん」
「そうか…皇太子が羨ましいな…そなたのように優しい伴侶がいて」
「えぇ、っと……皇子?」

呟いた皇子の声は小さく聞き取れない。聞き返した俺に、皇子は答えず、代わりにニコリと笑う。

「エティ」
「え?」
「僕の愛称だ。女の子みたいな響きで恥ずかしいから、僕が許した者にしか絶対呼ばせない。だから、そなた……アヤなら、許す。アヤになら、呼ばれたい」
「それは……え、でも。俺が呼んでいいわけ?」
「いいって言ってる」
「あ……えっ、と…じゃあ、うん。分かりました」

何か、これは…気に入られた?
どこにそんな要素あったかな?お菓子渡して、バルドを擁護しただけのような……

「アヤ。僕は……もう大丈夫だ。ヴィクターもそろそろ戻るだろう」
「一人で平気か?」
「心配ない。そなたも、そろそろ戻れ」
「あ…、じゃあ。あ、あと、あの、神官様に取り次いでくれる件………」
「それも心配いらん。きちんと渡はつける。頼みだからな」

あれ、何か妙な強調されたような?
それ以上は何を言う事もなく、俺があげたお菓子をどこか嬉しそうに食べ始めた皇子、エティと別れ、俺はバルドの待つ部屋へと戻っていった。








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