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第二部2章 策略忘却 欲望渦巻く炎の王室の章

1.血塗られた炎の王宮①

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「アヤ、平気か?」
「……ちょっと…いや、かなり…お尻、痛い……」

これだけ聞くと誤解しそうだが、決して致した後とかではなく、別の意味で、俺は今、尻が猛烈に痛い。

「仕方ない。セレスト、イアン、少し休憩するぞ?」
「う……ごめん」
「気にすんな。慣れんと馬はキツいからな。乗った事ない奴が長時間乗れば、尻が痛くなるのは珍しい事じゃねぇよ」

馬。俺は人生初の馬に乗っている。
サラタータに向かう事になり、移動手段となったのが馬だった。
騎竜の方が断然早いのだが、サラタータの情勢上やむなしになった為だ。

バルドの手を借り馬から降ろしてもらう。
うぅっ…お尻と跨っていた為、股関節がジンジンする。

「ごめん…まだ、サラタータまでかかるよな?次の街まで、暗くなる前に間に合う?」
「ギリギリだな。だが、無理はせん。最悪、日没までに間に合わなくても、セレストもイアンもいる。魔物除けの魔導は使えるから心配いらん」

街や村には魔物から守る為の壁と門がある。門が閉まるのは日没だから、それまでに入らないとその日は閉め出しだ。
よっぽどのことがない限り、閉門後、門が開けられることはないから、間に合うように皆帰るか、間に合わないのを想定して準備して出るかしなければならない。
対魔物用魔導に長けたイアンがいるし、戦闘ではバルドもセレストもいる。だから、心配はしてないが、それでも街や村に入り、多少寝心地に差はあれど、寝台で寝る方がいい。

これ以上休憩は我慢しよう。俺のせいで野宿とか嫌だし。

「騎竜なら日没とか心配しなくていいのに……」
「今回ばかりは仕方ない。情勢不安定なサラタータに威圧感を与える騎竜で乗り込むわけにはいかん。あの国は今かなりピリピリしてるからな……何が外交問題に発展してもおかしくない」

そうなんだよな~………

イリス様から話を聞いてすぐ、俺とバルドは国王陛下、アレイスター様に話を通した。神の台座の事だとか、あんまり詳しくは話せなかったけど、しばらくクレイドルを離れないといけなくなった事は話したんだよな。
俺はともかく、バルドは皇子で皇太子だから、反対されてもおかしくなかったけど、アレイスター様の許可は思いの外あっさり降りた。
ただし、条件付きで………

「外交問題にならないよう、行動は慎重かつ穏便に。移動は、威圧感のある騎竜は禁止。護衛は、魔導に長けた者と戦闘に長けた者を必ず同行。一国の上席に身を置く者としての自覚を持ち、軽はずみな行動は慎む事etcなどなど……」
「お前に関して言えば、条件の中に不安な事項があるがな……」
「え?」
「何でもねぇよ…」

バルドの言葉が聞き取れなくて聞き返したが、苦笑を返された。
何なんだ?

「とりあえず、少し休憩したら行くぞ?それから、アヤ。意地張らず、座り方変えろ。尻だけじゃねぇだろ?痛いの」

うぅっ…バレてる。
確かに跨いで座ってるせいで股関節めっちゃ痛いから、バルドの言う事聞くかなぁ……女の子みたいに横座り恥ずかしいとか言ってる場合じゃないか…

「行く前に、サラタータの事教えて。バルドが知ってる事でいいから」
「そんなに詳しくは知らねぇけどな。とりあえず、何年も何代も、王権を争って内輪もめしてる国だ。イリスも言ってたが、正妃である王妃が産んだ子と、側室側妃が産んだ子で今は争ってるみてぇだな」
「普通なら正妻……王妃が産んだ子が後継げば問題なくね?」
「それも、イリスが言ってたろ?側妃の産んだ子が最初に生まれちまってるから面倒い事になってんだろ。正妃からしたら自分の方が身分は上って言うし、側妃からしたら産んだのは自分が先ってな。どっちも譲らんから、内乱なんてもんに発展してる。今は宰相が王と政治を采配してなんとかなってるみてぇだが、そうそううまく続くもんじゃない。今の王権もほぼ破綻してるから、またその内紛争になるだろう」
「また?またって事は、何回もそんな事繰り返してんだ?」
「あぁ。女神の炎の魔導がいなくなったのも、前だか、そのまた前にあった紛争のせいだ。とにかく、血塗られた生臭い話が纏わりつく王室国家だ。行く前に、もう一度気を引き締めたほうがいい」

兄弟、親族で争うって普通なのか?サラタータしかり、ラシルフもモノリスも……
クレイドルが特別なんだな。俺……クレイドルで良かった。

「殿下、そろそろ出発を」
「あぁ、分かった」

セレストに声をかけられ、バルドが馬に先に乗る。馬上から俺を引き上げるために手を差し出してくる。

絶対ないって分かってるけど……バルドとアレイスター様が争うなんて、俺見たくない。

「アヤ?」

手を出そうとしない俺に、バルドがいぶかしみ首をかしげる。
自分の馬鹿な考えに自嘲し、俺は小さく首を振り、馬上に引き上げて貰うべくその手を取った。

「何でもない………」






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