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第二部1章 黒き鎖の呪痕 奪われつつある光の章

10.黒き鎖断絶 光を止めるために

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「石が………」

部屋が静まり返ると共に、犬狼の一族から貰ったあの石が淡く光り出す。同時に、俺とバルドの体もまた淡く発光し、その光が石に吸い込まれていく。

「何だよ、これ?!」
「魔導の光を…吸い込んでいる?」

発光を全て吸い取り、石は何事もなくその場に転がっていた。

「今の、何?」
「分からん…だが、特に何がどうなった感はないが……」
「殿下!アヤちゃん!入るわよ!?」

痺れを切らしたルースが部屋に乱入し、話はひとまずそこで終わった。
俺の部屋はグチャグチャで、調べをルースたち魔導士たちがするのと、片付けるのとで、とりあえずバルドの私室へ場を移した。





「モノリスの時の黒ローブが?」
「うん……急に現れた。石を…これを今手にされるのは困るみたいな事言ってた。無理矢理連れてかれそうになって……気づいたら、俺がいた向こうの世界と似た場所にいて……そういえば、そこから抜け出す時に女の人の声が………」
「声?」
「うん。俺の事知ってるみたいな感じだった。あと、今はまだその時じゃないからまた、みたいな?」
「……………………」

俺の話を聞いたバルドが黙り込む。考え事に集中している様子に、少し不安になり声をかけた。

「バルド?」
「あぁ…いや、何でもない。犬狼から渡されたあの石……何かあるみてぇだな。ラトナは分かり次第伝えてくるみたいな事は言ったが……こちらはこちらで調べ動くべきか…」
「も一度、魔大陸に行くのは駄目なのか?」
「闇が動いてる以上、あまりウロウロするのは得策じゃない」

そっか。それもそうだ。
今回はたまたま攫われはしなかった。でも、次もうまく逃げられるとは限らない。
俺は、バルドたちと違い、攻撃の魔導はほとんど使えない。使えても、相手が接触してきてが前提の、超接近型。こと、戦闘に関してはほぼ無力と言っていい。腕力もなければ、小刀ナイフすら満足に扱えない。

俺って……とことん役立たずだな。弱っちい癖に妙に正義感だけはあって?傍迷惑なだけじゃないか……

あぁ、駄目だ。めっちゃ自己嫌悪。
出来ることがない。一つできるとすれば、危害を加えようとする者の手に落ちないよう、皆んなの迷惑にならないよう、とにかく大人しく守られてるだけ。
でも……俺だって男なのに。ただ、守られてるだけなんて…そう思ってしまい、いつも余計な事をして……

「ごめん…バルド」
「うん?」
「俺……いつも、迷惑かけてる。自分が言いつけ破って勝手に動いて攫われたりして……バルド、呆れてるよな?」

黙って俺の話を聞いてたバルドが、ハァッと重苦しく溜息をつく。

やっぱり………

「バル…、あ、いたっ!?バ、バルド?!」
「あのな、今回は別にお前のせいじゃねぇだろ?それにお前が「大人しくしてろ」の命令を素直に聞くような奴じゃねぇ事は、もう十分知ってる。聞くとも思わんし思ってねぇよ。俺の言いつけ、何回破ってると思う?それでも言うのは、俺の、まぁ、癖みたいなもんになってる……それに…」
「それに?」

デコピンされてジンジンするおでこをさすりながら聞く俺に、バルドが微苦笑した。

「お前が動くのは他人のためがほぼだ。自分より、誰かを優先する。そんな奴、俺はお前以外に見た事がない。そんな、お前だから………」

手首をやんわり掴まれ引き寄せられ、抱きすくめられた。

「腹は立つが、愛しくて放っておけない。だから、助けに行く。どうでもいい奴なら行くわけねぇだろ?こんな面倒な奴」
「バルド……ひっで…面倒だって思ってんだ?」
「面倒なのは事実だからな。鈍いし、言う事は聞かんし、生意気で変なとこお固くて」
「おい!悪口じゃないか!」
「馬鹿みたいに騙されやすい素直さで、優しくて、弱くて……心だけは誰より強い。苦しくて痛くて、辛くても………負けても、結局はちゃんと戻ってくる。戻れる強さをお前は持ってる。だから、俺もお前を助けに行ける。お前はきちんとから」
「助けられてくれるって……何だよそれ?何か締まりないなぁ…カッコ悪いじゃん」

やば……泣きそう。無力なのが悔しくて悲しかったけど……それでいいなんて言われたら。

「だが、あんまり振り回してくれるな?俺とて万能じゃないんだ。少しは大人しく……と言っても無理だろうな。俺の腕が届く範囲にしてくれ。俺の腕の中にいる時は、守られていてくれ」
「え、っと…がんばります?」
「そうしてくれ……」

疑問形で返した俺に、バルドは呆れながらも特にそれ以上は何も言わず、ただ静かに抱きしめる腕に少しだけ力を入れた。






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