上 下
202 / 465
第二部1章 黒き鎖の呪痕 奪われつつある光の章

3.魔大陸上陸 白き狼の子守唄⑧

しおりを挟む



「…ヤ……ア……アヤ?」
「ん……」

微かに呼ばれる声で、意識が少しずつ覚醒していく。
ゆっくり目を開けると、まず目に入ったのは地面だった。
ハッとして飛び起き、首の後ろに走った痛みに呻く。

「い、つっ…ぅ!」
「アヤ?アヤ、大丈夫?」

痛みをやり過ごし顔を上げると、心配そうなユフィカがいた。

「ユフィカ?え、と……俺…」

頭がまだボーッとする。状況がうまく整理できない。
屋敷にいたら、俺に怪我をさせた犬狼の青年が来て、ユフィカが話あるって言われて案内されて……………

「そうだ!ユフィカ、あいつ!ったぁ~……」
「アヤ、無茶しないで。痛い?大丈夫?」
「う~……首、痛い……あいつら~!!マジ腹立つ!」

おそらく首の後ろに手刀を喰らい、気絶したんだろうけど、本気で痛い。
こちとら、人間だぞ?!魔物と同じ感覚でやんなよ!!下手すりゃ首の骨折れるっつうの!
痛みがぶり返さないよう、ゆるゆると慎重に動く。

「ユフィカ…俺たち、あのエラって奴に騙されたみたいだ」
「うん……みたい」

二人ともそれぞれが呼び出されて、あの場所で、あの男たちがいて、と。偶然とは思えない。
殊勝なフリして何て奴だ!
あんなの番にしようとしてたなんて。いくら顔が可愛いからと言ったって、ラトナ、趣味悪!!

「ユフィカ…ここ、どこだろ?」
「犬狼の村だよ……ただし、僕たちのじゃない。隣のだ」
「何で分かるんだ?」
「…………………」

無言のユフィカが見つめる方を向き、俺はその光景に言葉を失った。













「フラフラすんなって言ったっつうのに、あいつは~~!!」

もぬけの殻の屋敷に、グレインバルドはこめかみに青筋がたつかのようだった。
探りに出たが犬狼はやはり頑なで、めぼしいことは分からず、やはりユフィカに接触するしかないと。アヤにそれを頼む為に戻った結果が、人っ子一人いない屋敷という有様だ。

「探しに行きますか?殿下?」
「そうだな……ハァッ、手のかかる」
「アヤはいつもこんなものだろう?今更じゃないか」

イアンに提案され応えると、セレストからは逆に言われ、ほんとの事だけに頭が痛くなる。
少しも思い通りにならない伴侶に、振り回されてばかりの皇太子は溜息しか出ない。

「おい!ここにユフィカ………あんただけか?あいつはどうした?」

部屋に飛び込むようにして入ってきたラトナに、グレインバルドは渋面になった。

「アヤの事か、見りゃ分かんだろ?いねぇーよ。」
「ユフィカもいない…近づくなと言ったのに居ないから、ここかと思ったが………」
「少しいいか?」
「何だ?」
「アヤから大体は聞いてる。お前たちは何を守り、何を隠している?」
「それは、お前らには……「ラトナ様!!」

ラトナの言葉を遮るように、犬狼の青年が慌てたように飛び込んできた。

「何だ、どうした?」
「申し訳ありません。あの…エラが逃げました」
「逃げた?見張りは?」
「申し訳ありません!!やられました!隣の奴らです!匂いが残ってたので、間違いないです!」

ラトナが目を見開いた後、顔をしかめた。

「エラを探せ!嫌な予感がする!行け!!」
「はい!!」

慌てて飛び出していく青年を見るラトナの視線は鋭い。

「おい!何があった?」
「お前らの連れのあいつを傷つけた、うちの村の者が逃げた。前々から、怪しい動きがあって……今回、これ幸いと監視するに至ったが……ちょっと、待て!先程は気付かなかったが、微かだがエラの匂いがする!ここに…来ていた?連れ出したのはエラかもしれん」
「……ここにきて隠し事はなしにしてもらおうか。知ってる事を話せ!お前らの秘密はなんだ?」
「…………分かった。犬狼の秘密を話そう」





*子供問題、てんやわんや編(^◇^;)あと、もちょっとお付き合い下さいませm(_ _)m
しおりを挟む
感想 459

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

王太子が護衛に組み敷かれるのは日常

ミクリ21 (新)
BL
王太子が護衛に抱かれる話。

処理中です...