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第2章 水と炎の激愛、揺れる光の惑い編
3.皇太子の真摯な謝罪
しおりを挟む部屋に来たアリッサに連れられ案内された部屋に入ると、ソファにセレスト、窓際にバルドが立っていた。
「呼びたてて悪いな。大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
普通だ。
もっと、こうお互いうろたえるなどあるかと思ったが。
まぁ、ある程度想定内だった。俺にしても、バルドにしても、そこに好意はあっても恋愛にはならないだろう。
ソファを勧められ、俺はとりあえずセレストの向かい側に腰掛けた。
「まず、俺からお前に言う事がある」
「え?ちょっ、……」
バルドが俺の目の前まで歩いてきた。
そして、
俺は突然の出来事に、思わず固まってしまう。
バルドは、跪き頭を垂れている。俺に向かって。
まるで、騎士が忠誠を誓うかのごとく、片膝付き、片手を胸に当て。
「先の行いについて、我が臣下の非礼を許されたい。非人道ともいえるべき恥ずべき行為だったと、心からの謝罪を、クレイドル皇太子、グレインバルド=ルーク=クレイドルの名の下にそなたに謝罪申し上げる」
「…………………」
多分、この時俺はかなりのアホ面だった。
セレストに視線を向けると、苦虫を噛み潰したような顔だ。
そりゃ、そうだ。一国の皇太子が、一介の市民に跪き頭を垂れて謝罪。普通であれば、認めがたい行為だろう。例え、あちらに非があるとしても。
それにしても…
「あんたって、マジで皇子で皇太子なんだな」
俺の口から出たのはそんな感想。
虚をつかれたように、バルドは目を瞠っていた。一瞬だけ絶句し、次の瞬間に一気に破顔し、バルドは肩を震わせつつ笑い出す。
「お、まえ。謝罪に対して、返答がそれって。他に言う事あるだろ」
「え、や、だってさ」
言い淀む俺に、バルドは両膝をついたまま、ソファに座った俺の体の両隣に手をつき、下から見上げるような形で見つめられ、感心してしまう。
自分の容姿をフル活用か、俺にまでガチ使いしてどうするよ。
「城にお前を置いておくのが危険だと判断し、とりあえず出す事にした」
急に真顔で言われ、俺はキョトンとなるが、あぁと納得はできた。
宰相の事だろう。
確かに、あんなことかます奴がいる城に止まるのはマズいと感じてた。
「マダムのところへ、一旦預けようとなった」
セレストが説明を引き継ぐ。
預けるって、俺は元々、一応マダムの店の人間なんだけどな。まぁ、もう頼れないと思ってたから、不安ではあるけど。
ところで一体、俺はいつまでバルドに迫られる格好でいなきゃなんないんだ?
「俺もついて行くがな」
「は?それってマズいんじゃない、あんた皇太子だろう?ホイホイ出歩いていい訳?」
「そうだ。その通り!アヤ、もっと言ってやってくれ!こいつは、オレのいう事なんざ聞かん!お前の言う事なら聞くかもしれん」
セレストが我が意を得たりとばかりに、俺の言葉に便乗するように意見する。
「好きにしろって言ったろう?」
「そういう意味じゃない!仕事を放り出すつもりか?」
「ずっとじゃねぇよ。自分のものの安全を自分で確認して何が悪い?」
「~~~~~~~~~~!!!」
しれっと返すバルドに、セレストはキリキリしていた。
それより、今、
「あんたもマダムに用があるのか?」
「エルザ?あぁ、まぁ用があるっていやぁ、あるが。状況説明しなきゃならんし、預ける以上はその旨も」
「何か預けるんだ?じゃ、俺はそのついでで連れてってもらえるのか?」
「…………………」
「…………………」
「………………?」
あれ?何か空気微妙じゃない?
「あ、の?」
沈黙に耐えられない。恐る恐る口を開いた俺に、バルドが、瞳を眇めて視線を俺に向けたまま、セレストに命令する。
「セレスト、外せ」
「はいはい、殿下」
え?ちょ、ちょっと待って!
何で、二人っきりになるの?何でセレストはそんな哀れな目で俺見てんの?何で、バルドの雰囲気が怖いんだーーーー?!
怖い。怖すぎる。
俺は、バルドに見つめられたまま、蛇に睨まれたカエルのごとく動けず、背中に伝う変な汗を感じながら固まっていた。
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