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序章 突然異世界トリップ迷惑編
18.忘却されゆく記憶と覚醒の能力(ちから)
しおりを挟む「マダム。そもそも、ラーシャは何で怒ってたんだ?」
「それは……」
「装飾品だ」
俺の問いにはキサが応えた。
装飾品?ネックレスだとか、リングやイヤリングとか?
「俺たちが、入る予定の街サンカスで、ラーシャが身に着けて舞う予定だった装飾品を、リコ…昨日、泣いてたやつ覚えてるか?」
俺が頷くとキサは軽く溜め息つき続ける。
「リコが、二日前に立ち寄った街で装飾品屋から受け取るのを忘れたんだ。リコ自身、その事を忘れてて、昨日衣装と一緒に確認しようとして発覚したってワケだ」
「装飾品って、今持ってる物じゃ駄目なのか?」
使う予定だった装飾品がどんな物かはわからないが、ないなら代用するしかないと、俺は素朴な疑問を感じたが、キサとマダムは顔を見合わせ困ったように苦笑していた。
「誰が考えてもそうなるな。が…ーー」
「今回はね。そうもいかないんだよ」
何が問題なんだ?
全く分からない俺に、キサが苦みばしった顔で応えた
「今回は、ラーシャの舞姫としての誇りが大半だが、それだけじゃねぇんだ。まぁ、女としての意地か?」
「????」
う~ん、分からん。話が全く見えません。
「今回の依頼はサンカスの領主からになるんだけどね。領主の息子の婚約祝いの宴席を飾る舞依頼なんだよ。領主の息子は、元々、ラーシャとは恋仲だったんだ。だけど、父親である領主に反対されて、ラーシャは自分から身を引いてね」
マダムの言葉に、俺は目を瞠る。
意外だ。昨日の剣幕を思うと、反対されたからといって、素直に身を引くタイプには見えない。
「息子はラーシャを想って、結婚には抵抗していたらしいが、やり手の領主にまんまと出し抜かれて、婚約させられちまったらしい。ラーシャも、息子も未だお互いを想いあってるが、もうどうにもならない。だから、ラーシャはせめて一番綺麗な自分を、領主の息子に想い出として残したいのさ。だから、それが叶わないと知って怒ったんだよ。領主も領主で、わざわざあたしンとこに依頼出すもんだから、ラーシャも意地になってて、帝都一の舞姫の美しさ、目に物見せてやるってね。中途半端なモノじゃ、相手をやり込めない。確かに、金貰っておまんま食ってる者としては褒められた言動じゃないが、最高の状態で、相手を叩き潰すことができない、なら、やりたくないっていうあの娘を頭ごなしには叱りつけることができないのさ」
事情は分かった。
ラーシャ…乙女だ。
「新しい装飾品じゃないなら、あたし踊らな~い」とかいう理由だったら、さすがに俺も怒っちゃったかもしれないが、プロの舞姫として、一人の恋する乙女として揺れ動くラーシャが可愛いから、俺、やっぱり何とかして助けてあげたい。
がーー
「衣装に負けない装飾品がいるってことだよな?」
「あぁ。それか、衣装にも映える装飾品か、だな」
俺はゆっくりと、両眼を閉じ思考を巡らせる。
元の世界で俺は……
ズキンと頭に痛みが走った。それに、断片的に記憶に砂嵐のような映像と、聞こえない筈のノイズが脳内に鳴り響く。
自分の記憶の筈なのに、感覚は懐かしさと自分とは遠いものという相反する感情。
記憶はすぐそこにある。意識の中に潜りたいのに、痛みが邪魔をする。
痛いーー届かないーー痛いーーもどかしいーー………
ーー痛い!痛い!痛い!邪魔だ!痛みが邪魔だ!!ーーー
ピチョンという音が飛び込んできたのは、突然だった
水音だと理解した俺は、脳内から掘り起こしたある記憶とともに、閉じていた両眼をゆっくりと開けていった。
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