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序章 突然異世界トリップ迷惑編

9.男は範囲外ですか?範囲内ですか?①

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物が割れる音、何やら騒ぎ散らしている声。
先頭の幌馬車の休憩しているあたりのようだ。

「マダムたちの馬車の方だわ」
「行ってみる?」
「そうね。何かあったのかも…」

摘み終えた花をファランと半分ずつ抱えて、騒ぎのあった、先頭馬車へと急いで駆けつけた。

近づいていくと、やはり何かあったらしく大声で喚いている声が聞こえてきた。

「何よ!!あたしが悪いっていうの?!」

騒ぎの中心にいるのは一人の女の子。
思わず、ハッとなるような容姿だった。

まず、髪は燃えるような見事な赤髪。腰のあたりまであるそれを、所々玉のついた小さな房飾りで飾っており、瞳は、髪に負けないくらい存在感のある鮮やかな緑。最上級のエメラルドを思わせる瞳だが、今は怒りのためか剣呑に煌めいていた。

「そんな事言ってないでしょ?ラーシャ。ただ、物に当たってもしょうがないし、やってしまった事をいつまでも責めてもしょうがないわ」

赤髪の美人はラーシャというらしい。彼女よりやや年上の別の女の子が、困ったように宥めているようだ。
二人の傍らに別の女の子がおり、こちらは可哀想なくらいに泣きじゃくっている。

キサも呼ばれたのか居るが、口を挟みかねているらしく、苦虫を噛み潰したような渋面顏だ。

「何があったんだ?」
「さぁ、分かんないわ。泣いてる子は、さっき花摘み手伝ってくれるハズだったって言った子よ。で、あっちの赤髪の美人は、あたしたちの歌舞団の、看板舞姫
ラーシャ。綺麗でしょ?」
「うん、美人だし、綺麗な子だね。ただ、すっげぇ怒ってるからおっかないけど」

ハハッと苦笑いする俺に、ファランも困ったように笑う。
ファラン曰く、ラーシャはそうとう我儘らしく、おそらく、今の騒ぎもそこからきているのだろうと教えてくれた。

「もう、いい!!あたし、町に着いても踊らないからね。それがイヤなら、何とかしなさいよ。それもできないなら、あんた達だけですればいいわ!!」

うわ~…捨てゼリフみたいなの吐いて行っちゃった…

新参の俺にはただただ、ビックリするくらいの騒ぎだが、団には慣れっこなのか、宥めるために何人か追いかける以外は、やれやれといった感じに散り散りに持ち場に戻っていくようだ。

「アヤ、ファラン」

とりあえず、この花どうするよ?
所在なく、その場に残る俺とファランの元に、キサが寄ってきた。

うぅ…やっぱまだ気まずい。

いくら何でも、あんな事されたら、好意寄せられてんのは分かる。冷静になったら、そこに考えは落ち着いた。
だが、落ち着いたからといって、納得したわけじゃない。人を好きになるのに時間は関係ないとよく聞くし、俺も一目惚れとか、否定しない派だが、それは俺に関係ないとこでやって下さいだ。

しかも、俺が困ってるのは、キサが……

「ラーシャの舞用の花か?」

普通だ。

この男、普通すぎる。
あんな事なんでもなかったように振る舞われ、意識してる俺が1人、自意識過剰のバカみたいぢゃねぇーか…

「まぁ、一旦馬車に運ぶか。貸せ」
「ありがと、キサ」

ファランから花を受け取り、片手で悠々と持っている。
羨ましすぎる体格だ。ムキムキではない細マッチョ。綺麗に筋肉がバランスよくついた、スラッとした長身。ちゃんと男臭さを兼ねた男前だ。
コレが、俺を?

「……………」

いや、ないわーーーー!!
好きとか嫌いとか別問題で、感情が否定する。
正味、差別偏見はない。が、自分が渦中になるのは無理!考えらんないし、自分が同性と、そんな事やあんな事してる姿なんて想像できん!つーか、したくねぇ!

「あ~っと…ファラン、さん?ちょっと相談っていうか、聞きたい事あるんスけど、いいっスか?」
「何で、微妙な丁寧喋りなの?」

あ~とかう~とか、煮え切らない返事をする俺に、何やらピンときたらしいファランが、ニッコリ笑う。

「いいわよ。おしゃべりね?あっちでしよう?あ、キサ、これもお願いね」
「おい?」

俺の手から花束を取り、それを強引にキサに押し付けファランは俺の手を引っ張っていく。

あぁ、女の子暖かい。女の子可愛い。女の子柔らかい

つかの間、ファランの小さな手に癒されつつ、俺はこれからするおしゃべりが有意義になることを切に願っていた。
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