上 下
462 / 465
外伝2 触れる指先ーエリオー

*選ぶなら?

しおりを挟む
*前置き有り!未読の方は、番外編③恋に戯れる”それぞれの結末は???”を読んでから、こちらへお進み下さい!






「違うんですってば!!」

叫んだ僕に、不機嫌を隠そうともしない男が振り返る。
本気で面倒臭い。
こうなるのが分かったから秘密裏になんとかしようとしたのだ。
不機嫌な男、ラキティスに追い込まれ、半泣きの青年と目が合い、思わず深く溜め息をついた。

「あとはやっとくから。ジャイルはもう行って」
「エリィ、ありがとう。恩にきる!人の話は聞けよな!キサ!!エリィにひでぇ事すんなよ!」

ギッと睨まれ、ヒィッと悲鳴をあげながらジャイルが逃げていく。
意外と大人気ない。
胡乱な目を向けるが、逆に睨まれそれ以上の反論は止める。

「随分、打ち解けたようだな?エリィなんて呼ばれてもいるし?」
「それは…まぁ、ワケありな僕を受け入れてくれたわけだし……店には感謝してます。呼び方は、ファランが……」

本当の名前は名乗った。
自分の名前は嫌いだ。
エリシュオ。
クレイドル古語で”希望”を意味するそれは、母親が付けた。弱くて優しくて、馬鹿がつくくらいにお人好しで大人しい人。父親であるに無駄な期待をして、こんな皮肉な名前をつけ、結局……

「エリオ?」
「ッ……………………な、んでも、ないです」

呼ばれてハッと我に返って、慌てて首を振り、暗く落ちた気持ちを振り払う。
こんな気持ちになるから嫌なんだ!
ますますもって、嫌になる。
母は好きだ。屋敷の中で、自分の周りにいる者たちの中で唯一の存在だった。
だからこそ、その人が付けてくれた名前を好きになれずにいる自分が1番嫌いだ。

「………………だ?」
「は?え、、っ?」

鬱屈うっくつとした気持ちのまま呆然としていて聞き逃した。
苦虫を噛み潰したよう表情に加え、益々不機嫌そうに睨まれる。

「人の話は聞け…!」
「も、し訳ありません…」

こんな表情ばかりだな……
先日の件から、ラキティスの僕に対しての態度が変わりつつある。
それは自分自身にも当てはまる事で……
意識し過ぎてる。
何となく気不味くて視線が合わせられない。

「ジャイルから渡されたのか?」
「………そう、です」

分かってしまった以上誤魔化せない。隠すのは逆効果だと思い、正直に伝える。

「あいつ……懲りずに今度はお前にか…いい加減そろそろどうにかするか……」
「やめて下さいね?何するつもりかは知らないですけど、本当にそんなんじゃないんですから」

不穏な事を言いだすラキティスを諌めた。
店の規律を守る為だ。
僕のために言っているわけじゃないのは分かっている。
自惚れるなと、自分を律し心を引き締める。
誤解を招きそうなこと言わないで欲しい。
肌を合わせた記憶はまだ根強い。
ラキティス的に、だったのは分かっている。
仕方なくとはいえ、
誰だって、肌を合わせる相手は選びたいものだ。
抱きたくもない相手を抱くしかなかった。
後ろめたくて気まずい事この上ない。
忘れたい。
けど、忘れたくない。
意図的に避けていたのに、人の気持ちも知ってか知らずかこの人は……

「庇うのか?」
「……そういうわけ、じゃ…」
「奴を庇う理由は?」
「……………………」

いつになくしつこい。
面倒事ばかり起こすジャイルに腹が立って、尚且つ、店の規律を守る為に罰しなければならないのは分かる。
それを止めたのは僕で……
嫌なら、構わなきゃいいのに、、、

「あなたの為、です」
「うん?俺……?」
「ジャイルは……ナファを誘う為に、、その、を買って……」
「ナファ……?」

訝し気にラキティスが眉を顰める。
小さく呟くような声に、小さく息を吐き、視線を逸らせた。

「だって…ナファは」

先だって、助けてもらった時に、ラキティスとナファがなのは分かっている。
自分の女に手を出されるのを喜ぶ男はいない。気分はめちゃくちゃ悪いはずだ。
だから、ジャイルを特に庇ったわけではなく、ラキティスが知らなくていいよう隠そうとしたのだが……
ハァッと深く溜め息を吐き、ラキティスに見つめられた。呆れたような怒ったような複雑な表情で睨まれる。
睨まれる理由が分からない。

「何でそうなるんだ……?」
「はい?」

小さく吐き捨てるように言われたそれは聞き取れない。
聞き返す僕に、ラキティスが再度溜め息をつく。

「確かに気分は良くないな…」

次に言われた言葉に、胸がツキっと痛んだ。
分かってはいたが、こうもあっさり認められると胸が気持ちがザワつく。
ラキティスとナファの関係を受け入れ納得、自分なんかがそこに入る余地はないと諦めたくせに、突きつけられる現実に一人勝手に傷ついて……
本当にどうしようもない、、、
思わず歪みそうになる顔を堪え、奥歯をぎゅっと噛み締めた。

「よ、けいな事、ですけど……貴方とナファの為と思って……」
「俺とナファの為、、ね」
「あ!ジャイルは、ナファにフラれたみたいなので!だから、その、大丈夫というか……」

言ってる最中に声が段々尻窄み、顔が見れなくなって俯く。

「で?ナファにフラれたジャイルに、お前が誘われた、、、か?」
「え?違ッ、、、っ⁉︎」

ラキティスの声が低い。
俯いた頭上に影ができ、ハッと顔を上げた瞬間、勢いよく背中から壁に体が押し付けられた。
顔の両側をラキティスの手が壁に付く形で、正面から見据えられた。
いつだったか、アヤが教えてくれた体勢だ。
か、か、かべどん?だったかな??
あまりに急な事に、思考が全く追いつかず、妙な事を考えてしまう。
至近距離から映る端整な顔に、そんな場合じゃないと分かっても心臓が早鐘打ち始めた。

惹かれる。

駄目だ。

分かってる。

そんな相手。自分では手が届かないと分かってる人。
たとえ、体を繋げられた事実はあろうとも、心が重ならなければ意味がない。
一生懸命に自分を叱咤し、言い聞かせ、伸ばしたくなる手を必死に我慢する。
手を伸ばせば触れられる距離だ。
でも、伸ばす事は許されない。
声が……………………震える。

「ラ、、キティス、様………ッ」
「どうやったら伝わるんだ?」
「ぁ、、えっ?」

届いた吐息と呟きに、でも、ザワつきっぱなしの思考は回らず、思わず伺う。
恐る恐る見遣ると、軽く眉をひそめてそっぽを向かれた。

「……無自覚か?……これで何で伝わんねぇんだ?どうしろってんだ?」
「あ、の?ラキ………ッッッ⁉︎」

グッと顔が、鼻先が触れそうなくらいに近づく。
息を呑む僕に、ラキティスの目が細められた。

「渡せよ…」
「え?ぁ………な、、に?」

ずっと近い距離に息ができない。

「ジャイルから渡された……」
「こ、れ……しん、ぱ……しなく、ても、、しょ、処分、しま、す!」
「俺が預かる。今、お前の手元にあるってだけで我慢ならん!」
「ジャ、、イルに返し、たりしな…!」

ナファを再び口説くために、ジャイルが返せと言っても渡したりしない。
必死に距離を取ろうと身を捩る。

「………そういう事じゃねぇよ」

僕の返しに、ラキティスが深く溜め息をつく。

「選べよ?渡さないんなら、今、お前と使う。渡すなら、ジャイルもナファも……誰も咎めねぇよ。誰も、な?」
「ッッッ……………………!!」

前回だって、薬のせいでやむなしで……ラキティスにやりたくもない迷惑をかけまくったのに、違う意味とはいえまた?
渡すなら咎めないって……渡さなきゃ咎めるって言ってるも同然。
選択肢になってない!
結局、渡すしかない。
震える手を動かし、媚薬の果実を手渡す。
本当はもう一つあったが、どこかに落としたらしい。
そのうち腐るだろうし、好き好んで口にしようなんてやからはいないだろう……

「これだけか?まだ持ってないか?」
「持っ、、てません!も、離れ、、て」

我慢できなくなり、思わずラキティスの胸元に両手をつき体を遠ざけようとし、顔をふり仰ぎ息を呑む。
思った以上に近い体の距離に、動けなくなる。
フッと細められるラキティスの瞳。雰囲気が妖しくなり、頭の奥で警鐘が鳴る。
こんな……軽はずみに受け入れちゃ駄目だ。
勢いや雰囲気に流されれば、後で絶対後悔して沈む。
近づく顔に、逃げろと言う頭とは裏腹体が言う事を聞かない。
ぎゅっと目を閉じた。

「だ、、、、め」

震える唇が紡ぎ出した言葉に、近づく気配が止まる。
ふ~と、整えるような何かを堪えるような溜め息が聞こえた後、閉じた目尻の縁に柔らかく温かいものが触れ一瞬で消えた。
体が自由になり、ラキティスの気配が遠ざかる。
開いた目に、去っていくラキティスの姿が映り、その場にヘタリ込む。

「馬鹿………期待、、、させない、でよ」

口元を手で覆ったまま動けなかった……ーーーーーー








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

平凡くんの憂鬱

BL
浮気ばかりする恋人を振ってから俺の憂鬱は始まった…。 ――――――‥ ――… もう、うんざりしていた。 俺は所謂、"平凡"ってヤツで、付き合っていた恋人はまるで王子様。向こうから告ってきたとは言え、外見上 釣り合わないとは思ってたけど… こうも、 堂々と恋人の前で浮気ばかり繰り返されたら、いい加減 百年の恋も冷めるというもの- 『別れてください』 だから、俺から別れを切り出した。 それから、 俺の憂鬱な日常は始まった――…。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...