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外伝2 触れる指先ーエリオー

*ウサギを留め置く為には①

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あったかい。

「ぅ………ん、、?」

沈んでいた意識が浮上し、薄っすらと目を開けた。
ぼんやりする目に、引き締まった肌が映る。
身動ぎ取れない。
声を出…そうとして、途端に軽く咳き込んだ。

「い…………た、、、な…に?」

喉が痛い。掠れたようにしか声が出ず、またケホと小さく咳込む。

「ん………、、起きた、のか?」

頭の上から声がした。
寝起きの、トロリと歪む妙に色っぽい声。
今更ながら、自分がラキティスの腕に抱き込まれて寝ていた事実に、赤くなるやら青くなるやらだ。

「ちょッ、、、起き、て下さい!な、んでこんなッ…⁈」

目の前にある胸に手をつき押すが、ビクともしない。見た目的には、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとは言えないラキティスだが、その一見細身に見える体はかなり鍛えられ引き締まっている。これ見よがしな筋肉ではない為、実際、かなり近くなければ気づけない。
手の平から伝わる肌のハリ、熱に、カァッと顔が熱くなってきた。

「うるさい……まだ、眠いんだ寝てろ」
「も、、眠くな、、ッ」
「俺がだ……」

言うだけ言って、唖然とする僕を再びしっかり抱き込む。

「ラキティ、、」
「うるっせぇ……」
「んっ!!」

覆い被さられ、顔を不機嫌に顰めたラキティスの唇に、同じく唇を塞がれた。
寝起きに施される口づけにしては濃厚すぎる。
唇を強引に舌でこじ開けられ、舌が絡ませられる。チュッ、ヂュッと、耳に恥ずかしい水音が立てられ、顔から火を噴きそうだ。
抗いかけた手が軽くいなされる。

「ラ……っ、、ん!ぁ、、ぅん」

2人を包む敷布の中、ラキティスの手がするっと下へ潜り込む。

「ちょっ、!どこ、触っ…ッ」

やんわりと尻にかかった手が、あわいに指が這わされ、必死に身を捩った。
昨夜、ラキティスを受け入れた後ろのその場所はまだ若干痺れたようにうずいたままだ。
指先が触れ、クッと軽く爪先が入る感触に、ビクッと体が跳ねる。

「や、だ!……だ、、、、」
「少し腫れている、か?昨日、見た時には傷ついてはなかったようだが……」
「ッッ⁉︎」

見た⁈
思わずその一言にギョッとなる。
見たとはか?あんな所を?
見るにはどうやったとしても……
頭の中に思い描いた格好は、どれもこれも憤死モノの恥ずかしさで……

「やっ、、、!」

思わず逃げ打った体を強引に引き戻され、抱き込まれた。
肌に触る感触は温かくてしっとりとした肌そのもの。今更ながら、お互い、何も身につけてない状態で一つの寝台に居る事に気づき、思わず目眩を起こしそうだ。
事情が事情とはいえ、やってしまった感が半端ない。
越えてはならない一線を越えてしまった。

薬のせいだけにはできない。
どこかで、自分自身望んでいた。
分不相応ぶんふそうおうにも程がある。
正気に戻れば自己嫌悪の極みだ。
いまだ甘く疼いたままの体とは裏腹、心は血の気が引いて冷たく沈んでいく。

「ご、めんなさい……も、しわけ、ありません」
「何の事だ?」
「……こんな…貴方に、不本意な事を」
「不本意………」

呟くように返された声は低く、顔を見るのが怖くて俯いたままの僕には、それだけで恐怖になる。

「何故、不本意だと?」
「だって……こんな、汚れたつまらない体……」

抱いても楽しくないでしょう?とは、怖くて続けられない。
『そうだな』なんて返されたら、たとえ自分でもそう思ってても、さすがに立ち直れない。

「慣れてない体だとは思ったが…つまらないとは思わなかったが?」
「……………………は?」

言われた意味が分からず、思わず顔を上げた。
ラキティスの顔には侮蔑ぶべつや後悔などは一切浮かんでない。浮かんでいるのは、若干の呆れを含んだ穏やかな感情。
何を言ってるんだ、こいつは?と言いたげに、溜め息を吐かれる。何度目か分からないそれだが、今度は不思議と傷ついたりしなかった。
それより、気になるのは……

「な、れてないって……………………僕、が?」

言われてる意味が分からない。

「それ、本気で言ってます?だって……僕は今まで散々、上の方々を利用する為にこの体を……」

言っている途中で苦しくなり、言葉尻が掠れて消える。
のし上がる為に使ってきた体だ。
それこそ、数え切れないほどの男たちが触れた触れさせた体。
ラキティスの言葉は当てはまらない。
困惑する僕の言葉を、ラキティスが鼻で笑い飛ばす。

「愛される事に慣れてない。溶ける事ができるのに、溶ける事を教えられなかった肌、だな。ただ触れただけなら、慣れたとは言えんだろう。こう言っちゃ悪いが、お前が相手してきた連中は、ろくに抱き方も知らん木偶でくぼうの集まりだったみたいだな。自分の欲を満たすだけで、お前の事はそっちのけ。仕えさせんのに重きを置いて、それこそ、無駄玉撃つこともできん枯れたじじぃばかり。独り善がりな抱き方しかされてこなかったなら、人の形をしたまがいもの相手に、1人でなぐさめをしたにすぎん」

あけすけとも言えるラキティスの返しに顔が熱くなる。
恥ずかしさの中に、僅か、嬉しさが混じる。
僕の後悔や罪悪感を軽くする為の気遣いだとしても、やはりこんな風に言ってもらえるのは嬉しい。

「ぁ……っ、、!」

羞恥に顔が見れなくなり、横を向いて剥き出しになった耳に、ラキティスが口付けてきた。
温かい吐息がかかり、思わず肩を竦める。

「自分はけがれているって散々言ってたが……”汚れる”の本当の意味が分かったか?」
「ッッッ!!!!!」

吹き込まれた声は揶揄からかいを含んだ掠れた甘い低音。
自分がされた行為、した行為、言った言わされた……次々と思い出したそれに、顔と言わず全身、頭の中まで真っ赤に染まり上がった。
知らず目が潤み出し、ヒクと小さく喉が鳴ったら我慢ができなくなった。
泣き顔を見られたくない。今更と言えば今更だが、必死に顔を逸らす僕を、ラキティスが体を反転させ、背中から抱き込む形に抱え直した。
ふんわりと包まれる体の熱。
半分軽くなったように感じられる心も加わり、体から力が抜けた。

「眠くなったなら寝ろ」
「駄目、、です。起きて、やらなきゃ……クリスティアンや、、フェイス、様……僕の為に、アヤたち…め、、わくかけ……家……宰相……ま、、、けじめ、つ、、、け」

ふわふわしてきた。
瞼が下がる。
ふぅっっと落ちていく意識の中、耳に優しい声が揺れる。

「大丈夫だ……寝て起きたら、全部終わってる」








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