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外伝2 触れる指先ーエリオー
*好きだから受け入れられない事もある②
しおりを挟む「エリオ?」
こちらをキョトリと見つめてくるその姿に思わず苦笑だ。
「アヤ……」
この世界では珍しい、漆黒の髪に同色の瞳。
会った頃と変わらない。
争いや謀り事とは無縁な瞳の真っ直ぐさに、眩しさを感じて目を逸らせたくなってしまう。
グッと我慢し、努めて冷静な顔を作る。
「どうしたんだ?こんな場所……顔!頬っぺた赤いじゃん⁉︎どうしたんだよ、それ!叩かれたのか⁈」
邪気なく歩み寄ってきたアヤの顔が曇り、慌てたように駆け寄られて問われた。
「あぁ…うん、まぁ。大した事じゃないよ」
「大した事だろ!腫れてるし!!部屋、来て!冷やしてやるから」
「大丈夫。平気だから、慣れてるし」
「は?何、慣れてるって」
眉根を寄せ、怪訝そうに見てくるアヤに、曖昧な笑みを返す。
強がりでも意地でもなく、それは本当の事で……
理不尽な扱いは子どもの頃からだ。幼い内は泣いたり、母親に取り縋って訴えかけた事もある。
が、成長するにつれ、段々、それも感じなくなった。
自分の中で折り合いをつけたり、早々に期待する事に諦めて……
誰も助けてくれない。
なら、自分は自分で守ろうって……
「…リオ。エリオ?」
意識が黒く染まり、暗く沈みかけ、心配そうなアヤの声と表情に我に返った。
見つめてくるアヤの目は澄んでいて、尚且つ、何の影も伺えない。
純粋に心配されている事実に、胸の奥がホワリと温かくなり、思わず苦笑が漏れる。
慣れてない。
こういうのは困る。
敢えて斜め上になるよう自分を構えた。
「あのね?光の魔導様と違って、僕は侍従。臣下だよ?お貴族様や皇族にお仕えするのがお仕事なわけ。いい人ばっかりいるわけないじゃない。叩かれるくらい慣れっこだよ」
わざと何でもない風に言う。
「だからって!叩かれたら痛いじゃん!いいから、冷やすぞ?俺が見てて痛いの!!誰だよ、叩いた奴⁉︎レズモント宰相か⁈」
プリプリ怒りながら、アヤが手を引っ張ってきた。
肌から伝わる手の熱に、一瞬、目の奥が熱くなりかけ、誤魔化すように顔を俯けた。
「変わんないよねぇ…アヤは。ほ~んと、お人好し」
「は?何??」
「何でもないよ……」
呟きは聞こえなかったらしい。
聞き返されたが、誤魔化した。
やっぱり、敵わないなぁ。
アヤは真っ直ぐで、純粋で、どこまでも綺麗で………
女神の光の魔導だからだけじゃない。アヤ自身が、皆を惹きつける。
グレインバルド殿下も。
セレスト様も。
アヤが関わった人たち、、、もちろん、僕も。
それに………………彼の方も。
不思議な事に、アヤを妬んだり敵意を向ける気は一切起きない。
やはり、宰相様に仕えていた頃とは気持ちが変わった。
それは、多分………
「痛い?」
城の皇族区域のアヤの部屋。
ソファに座らせられた僕の頬に、水で濡らした布が当てられる。
若干腫れて、熱を持った肌にそれは心地よい。
「叩かれたの僕だよ?痛いのも僕。何で、アヤのが痛そうなのさ?」
「うっ、、、、や、だってさ…エリオ」
「うん?」
「可愛い顔してるから……見てるだけで、痛々しいっつうか…」
「……………………ッッ」
言われた言葉に一瞬息を呑み、内心、苦笑を禁じ得ない。
本当、参るんだけどなぁ……
アヤのは本心だろう。決して、作られたそれではない言葉。
アヤがこうだから、僕も変われた。
そう……
だからーーーーーー、、、
「変わらないで……」
「え?」
無意識に呟いた。
訝しむアヤにそれ以上は言葉が出ない。
そのままでいて。
あの人が好きなアヤのままでいて。
じゃないと、僕は……
「エリオ?どうし…」
「なんでもな~い!さ!腫れも引いたし、僕は戻るよ。殿下がお戻りになるんじゃない?アヤも、僕にいつまでも構ってないで、ちゃんと殿下にお仕えしなよ?」
「や、それはするけどさ……そ、じゃなくて!エリオ…」
「はいはい!もう、大丈夫だから!」
なおも言い募ろうとするアヤを制し、無理やり話を終わらせ立ち上がる。
言葉で追い縋るアヤを振り切り部屋を出た。
扉を背にし、顔を手で覆う。
ハァッと深く息を吐き、廊下を歩き出す。
「エリシュオ殿」
「ぇ……うっッッ⁉︎」
不意に呼ばれた名に、振り向くより早く、背後から鼻と口を布のようなもので覆われた。
甘い噎せ返るような花と、少し青臭い匂い。鼻腔奥と、頭の中が一気に痺れる感覚に襲われる。
目の前が一瞬で白く煙る。
足掻きかけ、持ち上げた手が上がりきらずダラリと下がる。
名を呼んだ声には聞き覚えがあった。が、思い出せない。
誰だったか?
霞む目で必死に姿を捉えようとするが、影にしか見えず、ゆっくり瞼が下がっていき、意識が暗く深く落ちていった…………ーーーーーーーーーーーーーーー
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