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番外編③ 恋に戯れる side.花

*それぞれの結末は???

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「何、これ??」

テーブルに並べられた赤い果物。大きさはプラムくらいで、見た目はサクランボっぽい。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、エリオが溜め息をつく。

「ジャイルが買ってきたものだよ」
「ジャイルが?」

マダムの店の歌舞団員で、酒場の従業員だ。特別親しいわけじゃないが、底抜けに明るくて、ちょっと(かなりか?)ふざけた一面を持つ青年だ。
エリオは今、マダムの店に身を置かせて貰っている。宰相レズモントの侍従だったが、一悶着ひともんちゃくあり、今はファンガス導師の侍従に収まった。
俺やバルドが采配するより早く、キサが動いたようだが詳しくは知らない。
エリオとキサの関係性は分からないし、なんでエリオをとか、どうしてキサがという疑問はいっぱいだ。
キサはあの通りの性格だし、エリオも秘密主義なところがある。
また後で、聞かなきゃな。
それより、今は………

「で?これ、なんなわけ?」

果物なんだったら、わざわざ持ってくる理由が分からない。見た目普通に美味しそうな果物そのもの。
おやつ……の時間にはちょっと早いし、エリオが顔を顰める理由も分からん。
俺の質問に、エリオがシレと答えた。

媚薬びやくらしいよ?」
「び?????…………………………………………………………………………………………………媚薬ッッッ!?」

たっぷり固まってから、頓狂とんきょうな声が出た。

「び、び、びびびッ、媚、びや、くって!!!」
「アヤ、落ち着きなよ?」

呆れたようにエリオが言うが、俺的にはなんでそんな落ち着き払ってんのか理解できん。
そもそも、なんでそんないかがわしいもんをエリオが持ってんだ?

「ジャイルが買ってきたって言ったでしょ?僕は要らないって言ったのに、無理矢理押し付けられたんだよ」
「何やってんだよ……こんなモン」
「同感……と、言っても、違法紛いなやつなら僕もさすがにジャイルを許さなかったよ」
「違法紛いって……そういう問題じゃねぇし。そもそも、そんなモン持ってるだけで駄目じゃん」

ただ見た目普通に美味しそうな果物だったのに、それを聞いたら怪しい物体にしか見えなくなった。

「無理矢理押し付けられたって、ジャイルは?」
「ナファに迫る為に買ったらしいね。ただ、まったく相手にされなくて沈んでる」
「あ~……まぁ、、それは」

ナファは俺も知ってる。
連れ込み宿。俺がいた世界でいうところの、ラブホの女主人だ。
褐色の肌が妖艶な美女。
ジャイルは、醜男ブサイクではないが、いいとこ中の上ギリギリってとこ。
ナファの本命はキサだったらしい。
容姿よし・身分よし・武力よしの三拍子揃ったキサが相手では、並やそれ以下の男なんか霞む。

「高望みしすぎ……しかも、生業なりわいにしてるナファに媚薬もって迫るって、無謀すぎじゃね?」
「まぁ、馬鹿だから?仕方ないんじゃない?」

フォローする気は一切ないらしい。
エリオが肩を竦めて辛辣にバッサリと切って捨てた。
う~ん……前より丸くはなったが、相変わらず容赦ない。

「で?これ、どうすんだ?」
「処分するの手伝ってよ」
「は?手伝ってって………」

この媚薬を?

「む、無理ッッッ!!いらねぇよ、こんなもん!」
「僕だって嫌だよ!」
「ジャイルに返しゃいいじゃん!」
「それもできないから困ってるんでしょ!」

エリオが持ってきたプラム(じゃないけど、媚薬とは思いたくねぇからそう言おう…)は全部で6個。
半分の3個を押し付けられるが、正直言って迷惑以外何ものでもない。

「勘弁しろって!バルドに見つかったら、何て説明すんだよ⁈」
「僕だってそうだよ!ジャイルからなんて分かったら、ラキティス様……」
「訳ありか⁈面倒ごとなんだったら、余計!絶対ぜってぇ!やだ!!」
「アヤ、冷たくない?助けてくれたっていいでしょ!」

2人あーだこーだ、ぎゃいぎゃい大騒ぎだ。

「2人して何してる……?」

不意に呆れたような声が乱入し、俺とエリオの視線が向く。
冷めきった目で胡乱に見てくる美人。
淡いスミレ色の髪に、涼しげなライラックブルーの瞳……

「「セレスト(様)!!」」

俺とエリオの声がハモる。

            *
            *
            *
            *
            *

ハァ~~~~~~~~……………………ッ、と、妙に長くて、呆れたと言わんばかりな溜め息が漏らされた。

「くだらん……………………!」

エリオ以上に容赦なく辛辣に、取りつく島もないほどバッサリあっさり、同情の余地もなく綺麗さっぱりその一言に切って捨てられた。

「あのなぁ…そりゃ、俺だって自分に関わんなきゃそう言うってぇの!そうも言ってらんないから困ってんじゃん!」
「僕も押し付けられて困ってるんだ。さすがに、店にいる間は持っておけないし、かといって、こんなモノ迂闊うかつに処分もできないし…」

クレイドルは自然法がかなり厳しい。
魔導を帯びたり、人工的に作り出した薬や動植物の類をその辺にポイポイ棄てることは禁止されている。
自然の動植物、魔物などにどんな影響を及ぼすか分からないからだ。

「で?だからといって、お互い分けて持ってどうすると?使うのか?」
「「なわけないだろ!!」」

またまた、俺とエリオの声がハモる。

「そもそも、店で持ってらんねぇって何で?なんか、訳ありっぽく言ってたし?」
「あ~……いや、まぁ、、、ね」

歯切れ悪いなぁ…本当に何なんだ?
訝しむ俺とセレストに、エリオが言いにくそうに淀んだ後、深く溜め息をつく。

「ジャイル、だよ」
「?」
「こういう騒ぎや面倒起こしまくって、ラキティス様から睨まれてんの。次、なんかしたら、マダムが庇ってもラキティス様は許さないって……ジャイルがどうなったって、それはジャイルの自業自得じごうじとく。まぁ、かといって根っから悪い奴じゃないし?…あんなのでも居なくなれば、歌舞団のみんなは家族だって言ってるファランが悲しむからさ……」

ファランはキサの妹だ。
俺がこの世界に来て、初めて仲良くなり且つ助けてくれた女の子。ふわふわ可愛くて、明るくてとってもいい
マダムの店で、お世話になってるのもあるだろうけど、エリオはやっぱり優しい。口は悪いし、ちょっと捻くれたとこはあるけど、根は優しくて面倒見が良くって、気遣いが出来る。
なんだかんだ言って、ジャイルの事も気にかけてる。
初めて会った時にはすっげぇ意地悪言われたし、その後も、、まぁ、結構な事された……
でも、嫌いにはなれなかったんだよなぁ…不思議と。

「何?まじまじと人見て」
「や。なんでもね!」
「?」
「話を戻すが、結局、どうするんだ?」

セレストの冷静な声に、はたと我に帰る。
いかんいかん!ほっこりしてる場合じゃない!

「捨てらんないし、使うのは以ての外…かと言って、こんなモン誰かにやるわけにもいかねぇし…」
「こんなの渡したら、相手が変な誤解するって!誘われたなんて思われたらそれこそ面倒…」
「エリオとセレストは絶対やめろよ?2人とも可愛くて綺麗でモテモテなんだから危険だ」
「「……………………(人の心配してる場合か?)」」

2人とも無言で顔を見合わせた後溜め息つくが何なんだ?

「殿下ならアヤに理解あるから持ってても大丈夫だとして……」
「や!大丈夫じゃねぇって!そ、の……ぅんな、、ぶ、かも………し…ねぇけど」
「何?アヤ、聞こえないよ」

バッと伏せてた顔を上げる。
顔、熱い!うぅ~…絶対、顔赤い!!

「俺、と使うんなら、バルドなら大丈夫かもしんないって言ったの!!」
「「……………………」」

2人してまた無言になるな!!
うぅ……これじゃまるで、、、

惚気のろけ夫婦は置いておいて大丈夫だね」
「そのようだ……」
「うぉい⁉︎大丈夫じゃねっつうの!惚気夫婦って何だよ!恥ずいだろ⁈」
「殿下とあっつあつなら大丈夫でしょ?心配して損した感じ」
「あのなぁ……所構わず、時間選ばず!ベタベタされるこっちの身にもなれって状態なんだぞ⁈俺には恥じらいがあるんだ!バルドが大丈夫でも、俺が大丈夫じゃねぇ!」
「やっぱり惚気じゃない」
「聞くだけアホらしくなる。気にするな、エリオ」

呆れたと肩を竦めるエリオに、セレストがふと達観したように小さく笑んだ。
なんか悔しい……
俺だけ恥ずかしい思いして、なんかズルい!!

「なんだよ!そういうエリオもセレストもどうなんだ⁉︎」
「は?」
「へ?僕??」

セレストが片眉を上げ、エリオが目を瞠る。

「エリオはキサとどうなってんだよ⁉︎エリオの為に色々動いてるみたいだし」
「や……どうって、、ラキティス様と僕は別に。動いて下さってるのも、アヤの為っていうか……」
「エリオの問題を解決すんのは俺は関係ないじゃん!」
「アヤの近しい場所に僕がいて……まぁ、知らないわけじゃないし?アヤを助けるために動いて下さっただけで…」
「キサはそんな面倒臭い性格じゃないぞ?あいつ、好き嫌い激しいし。どうでもいい奴の為に、わざわざそんな面倒臭い事しないぞ?俺を助けたって、エリオの利益にはなんないじゃん」
「好きな人の為には面倒臭いこともするでしょ?」
「好きって……キサは」
「アヤ。それは、お前が言う事じゃない」

言い募ろうとした俺をセレストが遮る。
緩く首を振られ、何も言えない。よく分からないが、セレストには何か分かってるようだ。
これ以上は言うなとばかりに、目で無言の圧をかけられ押し黙った。
エリオが自分の事は終わりとばかりに声の調子が変わった。

「僕以外は持ってても大丈夫だょね?だって、よく考えたら、アヤもセレスト様もちゃんとそういう仲の人がいるわけだし」
「ちょっと待て!オレも数に入れているのか?」
「当然!だって、イアン様なら1番人畜無害そうだし」
「あれは馬鹿だぞ⁈しかも、そういうことに限って鼻が効く!変な方に誤解して暴走したらどうする⁉︎断るッッ!!」
バルド俺ンとこよりは変な事にならないだろ?」
「あいつの思考を舐めすぎだ!奇行に走られて迷惑被るのはオレだぞ⁈そんなのはごめんだ!オレは要らんッッ!」
「セレスト、ズルい!!俺だってやなんだぞ⁈」
「ルースだ!」
「「は???」」

いきなりセレストが呼んだ名に、俺とエリオがキョトンとした。
ルースは、魔導師長ファンガス様の一番弟子だ。
城の副魔導師長も兼任する。

「ルースなら、魔導が関わった物や人的な薬を処理できる」
「あ!なるほどな!それなら……」
「無理だよ」
「「???」」

エリオの応えに、俺とセレストが見やると、ふ~と小さく息を吐き、エリオが肩を竦める。

「ルース様は今、サンカスでの魔導の事案で出かけてらっしゃるから。お帰りは明日の夕刻くらい。今々すぐすぐには無理!」
「マジか……って事は、明日の夕方までなんとか隠し通さなきゃなんないんだ」
「そういうこと!とにかく!1人2個ずつ持ってよう!」
「結局みんなで持つのか⁈」
「当たり前でしょ?僕1人なんてそれこそズルいよ!2人ともここまで関わったんだから協力して!」

1人2個ずつ。
甘い匂いを放つプラム(に似てるが違う!)。見た目は本当に美味しそうなのに……

「まぁ、じゃあ……」
「そうだな……」
「それしかないよね……」

3人で顔を見合わせる

「「「見つからないよう隠すか………」」」

3人の声がハモり、深~く嘆息した。








* Nextエピソード
・アヤ→番外編③恋に戯れる・”2人で”
・エリオ→外伝2触れる指先ーエリオー・”選ぶなら?”
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